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カテゴリ:不登校情報センター・五十田猛・論文とエッセイ

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五十田猛・論文とエッセイ

◎質問に答えたことや相談活動に関係する記事は不登校・引きこもり質問コーナーページにまとめ直しています。
〔2017年7月〕 松田武己の「論文とエッセイ」の引用等を見てください。

   出勤前の精神状態。
去年の一時期、少しだけ、ある会社で働いていた。週三日の、アルバイトだった。   自分なりに一生懸命仕事をこなし、丁寧に教えてくれる先輩にも出会えた。
だが、私の中には不安があった。
仕事ができなくて叱られるのではないか。働きが悪くてクビになるのではないか。仲間に受け入れてもらえず、社内イジメに遭うのではないか。そんな心配である。
朝十時から出勤なのだけれど、私は職場の最寄り駅に三十分前に着き、駅前のカフェで読書をした。「心配性の心理学」という本を読むのだ。この本には、心配性の人に対する様々なアドバイスが書いてあって、読んでいるととても心が落ち着くので、出勤前に読むのが日課になっていたのだ。
「たとえクビになっても、身体を傷付けられる訳ではありません」
「バカにされても、プライドが傷つくだけで、失うものはありません」
「職を失えば、また別の仕事を探せば良いだけです」
そんな言葉を見ていると、とても心が落ち着いた。私は出勤前の三十分、必死にこの本を読んだ。ページがボロボロになり、どんどん抜け落ちていくが、セロテープで強引に貼り付けて、必死に読んだ。ほとんど全ページ、セロテープでくっついている状態だったが、私はこの本を丸暗記するぐらい読んだ。そして、自分に必死に言い聞かせた。
(そうだ、クビになっても怖れることはないんだ)
(社内イジメに遭っても、プライドが傷つくだけなんだ)
三十分、自分に言い聞かせ、本の最後にある、
「大事なのは行動です。とにかくやってみることです」
という言葉を信じて、会社に向かった。
だが、どんなに「心配性の心理学」を読んでも、心配は軽減しなかった。本に書いてあることがどんなに真実でも、今自分が不安であるということ自体は、隠しようがなかった。今まで山のように心理学の本を読み、大いなる心の安らぎを得てきたけれど、実際の職場で役に立つことは、ほとんどなかった。
今から考えれば、まともな精神状態ではなかったと思う。出勤前に三十分間、呪文のように心理学者の言葉を自分に言い聞かせるというのは、およそ普通の精神状態ではない。このような行動を起こす時点で、もうかなり私は追い詰められていたのだ。
心理学の本を持たずに出勤する日が来たら、その日は少しだけ贅沢してみたい気もする。

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