Center:2000年4月ー3つの選択に隠された転校処分
3つの選択に隠された転校処分
連載「進路指導のはざまで」、『中学教育』2000年5月号。
洋美さんは私立中学の3年生。
中学高校一貫6年制の学園で、ほとんど全員が同じ学園の高校に進学する。
洋美さんは3年生の6月ころから学校にいきづらくなりました。
2学期は必要出席日数の半分をようやく登校しましたが、3学期にはさらに登校日がへり、1月18日までには2日しか登校していません。
1月18日、学校を休んでいるところに担任の先生からお母さん宛に電話が入りました。
「外部を受けますか?」。
意味するところは学園内の高校進学をやめて、別の高校に変わりませんかという打診というか通告というか。
2月4日、お母さんは学校によばれ、次の三つの選択を提示されました。
(1) 3学期の残り全部を登校し、必要出席日数の半分以上である25日以上出席すれば、中学校を卒業し、学園内の高校に進学できる。
(2) 3学期の出席日数が25日以下であれば留年(3年生をもう一度)。
(3) 外部の高校に進学するのであれば、出席日数に関係なく、中学校の卒業は認める。
お母さんが洋美さんに話したところ、はっきりした答えはなく「高校へは行けないかもしれない」という言葉もあって、お母さんの不安は募ります。
洋美さんの言葉は正直な気持ちであって、どうすべきかわからないのです。
この私立中学では、登校拒否の中学生に対して、迷いや立ち止まりが認められないのです。
別のある私立中学校2年生の泰行くんの場合。登校拒否をしていて、3学期になって示された提案は次のような内容です。
(1) 長期療養を要する病気の診断書が提出されれば、3年生への進級を検討する。
(2) このまま欠席が続き、診断書がない場合は、2年生に留年する。
(3) 転校(地元の公立中学校などへ)する場合は、2年生の課程を修了したものとする。
洋美さんの場合も泰行くんの場合も、結局は、転校させてしまう目的が包み隠されて提示されているのです。
学校としての対応の狭さを感じます。
洋美さんは、結局(3)の外部校への進路を選び、中学校は卒業することになりました。
けれども高校へも入学願書は出せないままでいます。
洋美さんは、迷っているというよりも、休むことが必要なのです。
それが認められない制度、ということでしょう。
文部省は、学校外での学習の評価や適応指導教室の設置などで登校拒否に対応してきました。
しかし1日も中学校に登校することなく卒業する例もあります。
それらは義務教育制度が空洞化している現実を示しています。
右の私立中学校の生徒の事態を含め、義務教育を保障する改革が必要です。
登校拒否の子どもの出現は、学校教育の、とくに義務教育の一層の改善をうながすことにつながるでしょう。
連載「進路指導のはざまで」
(1)Center:2000年3月ー進路先がフリースクール?
(2)Center:2000年4月ー3つの選択に隠された転校処分
(3)Center:2000年5月ー通信制高校に進学した理由
(4)Center:2000年6月ーなぜ入学した後すぐ転校を望むのか
(5)Center:2000年7月ー高校進学後に再発した登校拒否
(6)Center:2000年9月ー私は中学校を卒業してないの?
(7)Center:2000年10月ー子どもの不登校が家制度を変える
(8)Center:2000年11月ー専門家一任でなく背後で応援しよう
(9)Center:2000年12月ー国勢調査で大検合格は高卒では?
(10)Center:2001年1月ー“兄貴分”にも相談相手の役割
(11)Center:2001年2月ー自分さがしの機会がなく退学