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Center:2003年10月ーひきこもり当事者・体験者のためのミニコミ誌

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ひきこもり当事者・体験者のためのミニコミ誌

〔この文章は、「NHK福祉ネットワーク『ひきこもり情報』のリポート2002-2004第8回「ひきこもり当事者・体験者のためのミニコミ誌」のうち、『ひきコミ』を記述した部分です。
取材の永富奈津恵さんがまとめたものです。
2003年10月頃です。〕

ここ数年の間に、ひきこもり当事者・経験者が自身の体験を語るようになりました。
インターネット上ではもちろん、TVや雑誌などでもよく目にします。
そして、「もっと生の声を届けたい」 と、“ひきこもりによるひきこもりのための”同人誌の発行も相次いでいます。

これらの特徴はひきこもり当事者・経験者が主に執筆し、編集作業も当事者・経験者が行っていることにあります。
そのため、TVや雑誌などマスコミでは語られない、よりリアルな姿が誌面から伝わってきます。
当事者同士の交流手段にしようとするものや、ひきこもりに対する偏見をなくしたいとはじまったもの、当事者・経験者のあるがままの姿を伝えようとするもの…。
個性豊かな3つの同人誌を紹介します。
※各団体への問い合わせ連絡先は、記事の最後にまとめて掲載しております。


不登校情報センターを設立、運営する松田武己さん。
五十田猛のペンネームで、『引きこもりと暮らす~対人関係づくりのフィールドワーク型記録』(東京学参)などを執筆。
はじまりは 「不登校経験者の会」でした。
1996年、不登校情報センターを設立した松田武己さんの呼びかけに応じた当事者の会です。
その後半年間で会員は25、6人を数えるほどになりましたが、会合に参加するのはわずか4、5人でした。

しばらく経って、松田さんは面白い現象に気づきます。
会合に出たことのない会員同士がいつの間にか仲良くなっている……。
実は、「不登校経験者の会」 では、会報を作り、会員に自己紹介してもらうようにしていました。
たとえ会合に出られなくてもどんな人が会員になったのか、これを見ればわかるような仕組みです。
どうやらこの会報を見て、面識のない人同士が文通していたようなのです。
「居場所での交流のほかにも“文通”というコミュニケーション手段があるじゃないか」。
松田さんは考えました。
ひきこもりから脱するためには、人との交流、コミュニケーションが大事だとよく言われます。
しかし、ひきこもりであるがゆえに、外に出て同じ立場の人と交流することすらできない人が多いのです。
そういう人たちを“文通”というコミュニケーション手段でつなぐことができたら……。
「広義には、文通も当事者の会の一変種、よりゆるやかな方式のコミュニケーションづくり」 だと、松田さんは思ったのです。


不登校情報センターは、『Hiki Com'i(ひきコミ)』出版の他、相談カウンセリング業務、当事者の会運営、訪問サポート活動など、不登校・ひきこもりを対象にした多岐にわたる活動を行っているNGO団体。
毎日、10~20人ほどの人が集う。


『Hiki Com'i(ひきコミ)』 第19号。文通希望者による 「自己紹介」 のほか、「働くことの意義」「相談先を紹介します」「歩き始めるために」など当事者や親御さんの投稿が掲載されている。
第20号は11月発行予定。

こうした考えを元に、文通仲間を仲介する雑誌 『Hiki Com'i(ひきコミ)』 準備号ができたのは、2000年7月。
松田さんが不登校情報センターに集まる人々に声をかけてできた文通サークルの10名が制作を手伝いました。
その後出版社から書店売りされることになり、2000年12月、『Hiki Com'i(ひきコミ)』第1号が創刊。
創刊号は6000部も売れました。
『Hiki Com'i(ひきコミ)』 には、名前と好きなタレント、趣味などが並ぶ 「自己紹介コーナー」 はもちろん、自分の意見や考えを投稿する「個人メッセージ」 なども掲載されていて、文通仲介雑誌の枠を越える、読み応えのある内容になっています。
これは 「文通はしたくないけれど自分の意見を読んでほしい」という意見に対応したため。
このことにより、ひきこもり当事者や親御さんの意見など、幅広い内容を興味深く読める雑誌の体裁が整いました。

掲載は、1号あたり1人1回という約束事はありますが、基本的に投稿はすべて掲載するというスタンスをとっているそうです。
今までの文通の参加者は実数で600人。
最初の仲介には編集部が関わり、後は1対1で自由に文通していくことができます。
「筆まめの人でも一生懸命にやるのはだいたい最初の半年ぐらい。後は年賀状の交換だけになるというパターンが多いようです。
ただ創刊以来、今までずっと文通を続けているという人もいますね」と松田さん。

しかし、ひきこもり世代はネット世代でもあり、メールは書き慣れていても、手紙を書くことに不慣れな人も多いと思われます。
なのに、なぜ“文通”なのでしょうか。
「ネットには“匿名性が高く、信頼性において心配”という弱点があるからです」。
手紙を書くというハードルはおそらく高い。
それで文通希望者の数が減ってもかまわない。
その代わり、少なくとも相手の住所と名前が確認されているという安心感を確保したい……。
「これが 『Hiki Com'i(ひきコミ)』のセーフネット」と松田さんは言います。

人と人が交流するとき、そこには行き違いやトラブルも生じます。
それは文通でも同じです。
松田さんいわく、「“ひきこもり”の人の特徴かなとも思うけれど、相手が悪気なく何気なく言ったことに傷つきやすい場合が多いですね。よく 『こういう手紙が来たんだけどどう思うか』という相談にのります。遠回しの文通中止のメッセージじゃないかとあらぬ心配をするんですね。本人の気持ちを文通相手にも聞いてもらいたいと思って、伝えたこともあります」。
これはひきこもりの人たちの「人間関係への不安感」が原因だ、と松田さんは言います。
だから、その言葉を書いた人の気持ちを代弁したり、言葉の意味を説明したりするのだそうです。

不登校情報センターの一角は、不登校・ひきこもり関係の書籍を扱う「あゆみ書店」になっている。
もちろん、店頭には『Hiki Com'i(ひきコミ)』のバックナンバーが並ぶ。

しかし、こうした人間関係のすれ違いやぶつかり合いは当然だから、それに折り合う力が必要、と松田さん。
「相手と違う意見を言うことはイコールけんかになること、人を攻撃することだと彼らは思いやすいようです。でも、そうじゃありませんよね。お互いに想いを伝えあう経験ををもっとしてほしいな、と思います」。

第18号までは順調に発行されていた『Hiki Com'i(ひきコミ)』も、第19号が出るまでに9カ月の期間を要し、体裁も大きく変わりました。これは、出版社を版元にするのではなく、直販方式をとることにしたからです。
しかし、編集制作体制も整ってきたので今後は2カ月に1度をめどに発行していく予定です。
「外に出られない」「人と話ができない」ひきこもり状態の人に、自分の思いを言葉にし文通で人との交流をはじめてほしい、それが外に出る一歩になればなおいい……そんな松田さんの想いがひしひしと伝わってくる雑誌です。

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