Center:(10)居場所づくりを考えてみる
(10)居場所づくりを考えてみる
しかしまた、これまでの取り組みにある種の手ごたえを感じ始めたときでもあった。
おそらくこういう当事者の会(居場所)は、全国各地に必要に違いない、いやすでにつくられつつあるだろう、という確信めいたものが生まれた。
2001年3月の初めに、ある新聞に投書を試みた。
掲載されるのは難関と聞いていたのだが、10日ほどして掲載される旨の連絡が入った。
3月23日付けで載った。
比較的短いので、全文を掲載しておこう。
引きこもりの人は数十万人、もしかしたら百万人に達すると言われています。
私は不登校の子どもの相談を続けてきたのですが、いまは学齢期以上の引きこもりの相談が半分以上をしめています。
昨年『ひきコミ』という、不登校、引きこもりなどの対人関係不安の人の友達づくりを目ざす月刊の個人情報誌を発行しました。
その結果、引きこもりの人の年齢構成では30代、40代の人もかなり多いことがわかりました。
今年に入ってから、相談や問い合わせがあったうち、年齢がわかった151人の内訳は20歳以下47%、21歳 ― 30歳38%、31歳以上15%です。
引きこもりとは、学齢期であれば学校へ通えない、それを超えると働くに働けない、就業できないでいる状態です。
決して怠けているわけではありません。
多くは社会参加を願いながら、人への恐怖心があったり、人中で緊張して動けなかったり、違和感を感じつづけ、その結果、就業できなかったり、仕事をやめざるをえなくなった人です。
また、犯罪予備軍などでもありません。
大部分は、むしろとても静かで優しい人たちです。
犯罪発生率を下げるのに貢献していても、その逆ではありません。
この人たちが社会参加できるようになるには、対人関係の不安をうすめ、人とコミュニケーションをする力を伸ばさなくてはなりません。
そのためには、本人の意思や努力に任せておくだけでは単なる無策で、多くの人と組織の支援を必要としています。
とくに、引きこもりの人を受けとめ、ソフトな人間関係を経験させることのできる居場所が必要です。
私の事務所でも「人生模索の会」という名の会合を週一回のペースで開いています。
重要なポイントは、教える指導員ではなく、おじさん、おばさん的な人が、参加者を気楽にする環境をつくることです。
話したい人に話させ、話したくない人はそのまま認められる場づくりです。
議事進行やテーマにとらわれず、雑談OK、隣の人とのひそひそ話OK、いやむしろそういう非公式コミュニケーションが会の中心になるようにしていくことです。
こういう気やすい居場所が多数必要です。
参加人数が少なすぎると、友達に慣れそうな相手がみつかりにくく、やりづらいです。
十人程度必要ですが、多すぎてもまた別の大変さがあります。
人生模索の会の参加者をみると、いろんな場に出かけ、いろんな人と出会いたいことがわかります。
彼らは社会から受け入れられた経験が少ないので、受け入れ合える人との出会いを強く求めているのです。
人に対しては警戒心をもちながら、孤立、孤独から抜け出したいのです。
この会もどんどん参加者が増え、サブグループ的なものができつつあります。
社会参加をめざす引きこもり女性の会、三十代後半以上の人の会、先の『ひきコミ』読者交流会などがそれです。
雑談や会の後で入った店で、一緒にコンサートやサッカー、野球見物に行く話がでるなど、友人らしくなります。
そして友達ができると、引っ込み思案な彼ら、彼女らも元気が出てきます。
意欲がマイナスからプラスに変わっていきます。
それがアルバイト探しです。
すでにアルバイトを始めている人から体験をきき、参考にしています。
アルバイトで、社会経験を積んでいます。
いったん就職して、辞めてこの会に戻ってくる人もいます。
アルバイトが短期であったり、就職が短期に終わったりしても、訓練であって、失望することはありません。
このような居場所を全国につくりませんか。
行政任せでなく、民間有志ではじめてみませんか。
有志からの連絡を期待しています。 =投稿
比較的短い文章なので、内容を十分に説明していない部分はあるが、当事者の会(居場所)のこの考え方の基本線はいまでも変わらない。
ただ、この呼びかけ内容に応えてくれたのは十名程度で、実際に親の会やフリースペースづくりに着手したのは一人だけが確認できた。
投稿の主旨とは違うが、この文章をみて人生模索の会の会に来始めた人もいた。
『ひきコミ』創刊直後の人生模索の会(居場所)の様子をみて、私なりの位置付け、性格付けを試みたつもりである。
ある種の確信めいたものを感じていた時期でもあった。
しかし、その場に集まってきた人たちのなかでは、深く静かにある事態が進行していた。
お互いの話し相手さがし、友人さがし、コミュニケーションの練習という正面の目的のほかに、人と人との関係におけるずれ、誤解、違和感、求めるものの違い……など表面ではそれが進行する。
どのタイプの人のものであれ、人と人とが関わることにおいては、それは避けなれない。
逃げようとすれば結局人間関係を断つしかないのかもしれない……。
これについてはもう少し後で表面化するので、そのときに改めて語ろう。
さて『ひきコミ』を創刊したことによって、人生模索の会はともかく急速に広がった。
その第一の目標は、引きこもり経験者が話し相手をさがす機会の一つにすることだ。
それは大きく前進しつつあった。
しかし、私にはそれに次ぐ大きな目標があった。
対人関係を改善し、友人ができる人にとっての次のテーマ、仕事につながる場にすることである。
『ひきコミ』の編集(心の手紙交流館)の参加メンバーに期待していたことだ。
収入につながる場、それがこの編集作業にあるのではなかろうか。
そう期待していた。
それを目標の一つにしていた。
これについて私は、一つの経験がある。
その2年前に「仕事に就く」ということを目標に、「人材養成バンク」という取り組みをしていた。
経過的には、いままで述べてきたことと一部重複するけれども、それをふり返ってみよう。
〔2〕人生模索の会と『ひきコミ』
Center:(1)人生模索の会のスタート
Center:(2)第2回人生模索の会
Center:(3)第3回人生模索の会
Center:(4)引きこもりの体験発表と交流・相談会
Center:(5)文通サークルの発足
Center:(6)CHIEKOさんの参画
Center:(7)『ひきコミ』準備号の発行
Center:(8)取材はつづく
Center:(9)文通誌『ひきコミ』の創刊
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