お答え:成果を急がず信頼関係をつくるのが出発ー松田武己
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2017年7月16日 (日) 19:37時点における最新版
成果を急がず信頼関係をつくるのが出発ー松田武己
〔質問155〕外出のきっかけをどうつくるのか
(5)外出のきっかけづくり
〔お答え155〕成果を急がず信頼関係をつくるのが出発
「這えば立て、立てば歩けの親心」というのは、子どもをもつ親の自然な気持ちを表したものでしょう。
子どもが引きこもっている場合は、部屋に閉じこもっていないで外に出てほしいと思うのは自然なことです。
外に出るようになると一時的な買い物や人と接触しない場所ではなくて、意味のある場所の行くように願うのもまた親としては自然なことです。
引きこもっている人はなかなかそうなりません。
それだけの理由があります。
その理由は本人がわかっている場合もあればわかっていない場合もある。
わかっていても自分の意志ではどうしようもないものもある。
意志というよりも感情的なもの、不安感や恐怖感によるもの、恥ずかしさや屈辱感によるもの、あるいは絶望している人もいます。
あまりにも多様でしかもダメージが深い人は少なくありません。
例えば、ひどい暴力を受けた、虐待といえるものだった、いじめの対象だった、無視された
…そういう体験は本人が感じている以上にダメージを与えています。
そこまでの経験はなかったという人がいます。
そういう人の多くは天性の感覚の繊細さをもっているので、与えた人はもちろん受けた本人もそれほどのことはないと自覚していても、重大なダメージを受けていると思うのです。
自意識、自我形成、自分が確立するのが困難になっているのです。
自分を守ろうという防衛が隅々まででき、それに拘束され、揺り動かされているのです。
そこから成長を図らなくてはなりません。
自分を守るために築いた心の壁はその外に漂う怖さから自分を隔てるのに役立ちます。
それが強固にできると今度はその壁を越えて外の世界との接触を図るのが難しくなります。
外出とはこの防衛の壁を自ら壊すことになります。
そうやさしいことではありません。
外出のきっかけづくりという手軽なテーマを考え、それで何とかなる人は、あえて援助はいらないと思えるほどです。
本気で引きこもり状態に向き合うには、その人との信頼感に根ざさなくてはなりません。
それをつくるのがいかに困難であるかは、子どもが生まれてからすぐにかかわりを持っている親がそれをできないでいることで証明されます。
問題は親がどう思うのかではありません。
子どもがどういう思いでいるのかを引き出すしかありません。
子どもは(その人が30歳を超えているとしても)この人ならわかってくれそうだ、わかってくれるかもしれないと思える人に、その人にとっての重大な経験を話します。
話しただけでは何も変わらないかもしれませんがそれを語ります。
それがスタートです。
スタートとは外出することではありません。
気持ちが動くかどうかの始まりです。
信頼できそうな人がなぜわかるのか。
それは小さな子どもがなぜあの人には近づき、この人は避けるのかの説明が難しいのに似ています。
説明しがたいのですが小さな子どもの判断はほとんどが正しく、理論やデータで分析する人の正答率がそれを上回ることができません。
繊細な感覚により、人の発する雰囲気を的確に仕分けているというのが当たっているのではないでしょうか。
見せ掛けのもの、その場しのぎのやり方は、一瞬にしてバレるのです。
本気で心底から信頼を得ようとするスタンスでなければ、信頼感は生まれないというのが私の経験談です。
言葉遣いの丁寧さが見掛け倒しのものであることはお見通しです。
そんなものは意味がないというのが私の感覚ですが、ときには言いすぎになるようです。
こういうことを想定してみるのですが、親として、家族としてこれはと思うことは働きかけてみることです。
そういう働きかけが継続していることは心を寄せていることの確かな証しです。
それを見続けているうちに当事者にも、家族にも何かつかめるものが出てくると思います。
成果を急がないことです。
以上は、2013年1月20日に愛知県武豊町での講演とその後に参加者からの質問に答えたことです。
全部で10項目あります。「不登校・引きこもり質問コーナー」に〔質問151〕~〔質問160〕として回答に加えます。
タイトルを他のこのコーナーの他のものと近づけるように変えました。
新しいタイトル名で次のようになります。
*なでしこ会の講演と質疑
(質問151)お答え:子どもがしていることをやめさせるのではなく伸ばすー松田武己
(質問152)お答え:分担して作業し共通の広報等を応援するー松田武己
(質問153)お答え:能力差よりも関心の違いを生かすつもりー松田武己
(質問154)お答え:ゲームをやめさせるのではなく別の関わり方を持ち込むー松田武己
(質問155)お答え:成果を急がず信頼関係をつくるのが出発ー松田武己
(質問156)お答え:個人ができそうなことを始めSOHO共同体をめざすー松田武己
(質問157)お答え:医師との協力は望むが方法はその経過等によりますー松田武己
(質問158)お答え:居場所にくる人の状態を認めそこからの出発が支援ですー松田武己
(質問159)お答え:不登校親の会も少しずつ変化してきていますー松田武己
(質問160)お答え:オーソドックスな活動が波及しやすいのでは?ー松田武己
(質問161)お答え:教育的な方法で引きこもりに対応するー松田武己
(質問162)お答え:居場所は管理的でなく学ぶ機会にするー松田武己
(質問163)お答え:引きこもりが長期化し居場所に行けない人への対応ー松田武己
(質問164)お答え:親の会と子どもの外出の関係ー松田武己
(質問165)お答え:選択的で了解的な訪問の方法ー松田武己
(質問166)お答え:繊細な感覚を持っているが言葉化しづらいー松田武己
(質問167)お答え:当事者の仕事づくりを応援するー松田武己
講演「長期化する引きこもり支援活動」
回答者と所属団体
松田武己・不登校情報センター相談室