大人の発達障害
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大人の発達障害
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ページ名 大人の発達障害 (発達障害のニュース、)
【大人の発達障害】専門医が解説!自分、家族が診断されたら…〈後編〉
本日2月24日(水)のNHK「あさイチ」では大人の発達障害にスポットを当てます。
そこで、「婦人公論」の記事から発達障害の専門家による解説を。
一般にも知られるようになってきた「発達障害」ですが、症状の表れ方は人それぞれ。
もし自分や家族が発達障害であった場合は、どのように対処すればよいのでしょうか。
大人の発達障害の患者を数多く診断・治療してきた、専門医の宮尾益知先生にうかがいました。
後編は「自分、家族が診断されたら…」です。
(構成=田中有 イラスト=石川ともこ)
ASD、ADHDセルフチェックリスト
◆親にとっても子にとってもくつろげる家庭にするために
当院へ発達障害の疑いのある子どもを連れてきた両親に、ASDやADHDの特性が見られることはよくあります。
親世代は発達障害という考え方がなかった時代に育ち、「変わった子」などと言われながらも学校や職場で周囲と同じ程度かそれ以上の成果を出してきた人も。
ところが、家庭を持ったり管理職に昇進したり、環境の変化をきっかけに周りとうまくやれなくなることがあるのです。
たとえば妻が体調を崩して咳き込みながら洗い物をしていても、夫は気にせずゲームをしている。
「手伝おうと思わないの?」と妻は腹を立てるでしょうが、もし夫がASDだったなら、察するなんて到底無理。
こういう日々の小さな行き違いが、夫婦間の亀裂を深くしていくのです。
さらに深刻な場合は、暴言や暴力の問題が起こります。
自分のルールにこだわるASDの夫が、日頃から口うるさく文句ばかり言ってくる妻に手を上げる。
あるいはADHDの母親が、衝動的に子どもを罵倒してしまう。
こうなると家の中は殺伐として、家族の誰にとってもくつろげる場所ではなくなります。
◆あなたが発達障害の場合「特性についてよく理解する」
診察を受けて自分が発達障害だとわかったら、まず自分の特性についてよく理解することです。
自分の歩いてきた道を「発達障害」というフィルターを通して捉え直してみましょう。
「今思えば……」ということがいくつも思い浮かぶはず。
人によっては、長い間人知れず苦労してきた原因がわかり、納得がいくようです。
そこからいろいろな対策の立て方が見えてきます。
ASDの人は、基本的に「学べばできる」のです。
職場ではうまくやっているという人は、無意識のうちに「褒められたことをする/られたことはやめる」という鉄則を自分に叩き込んで、どうにかうまくやりすごしてきたのでしょう。
パートナーがなぜ怒るのかわからない、と思っているなら、この鉄則を家庭でも実践してみてください。
どうも自分は家庭では感謝されない、味方についてもらえないと思っているなら、自分から変わっていかなくてはならないのです。
ADHDの人によく見られるのが、持ち物や資料などを片づけられない、という身辺整理の問題。
これに対しては治療薬が効果を発揮する人が多いです。
また、まず試してほしいのが「ビッグボックス」方式。
出勤の際に必要な物を一式、ひとつの箱に投げ込んでおく。
朝はそこからすべて引っ張り出せばいい。
細分化して整理することを諦めて、大きなカテゴリーで管理する発想です。
またADHDには時間の管理や先の見通しを立てるのが苦手、という人も多い。
朝起きて身支度をして出かけるまでの日常生活の基本動作は、できるだけ同じ手順で、同じ時間帯に行うといいでしょう。
動作をパターン化して体で覚えると、時間配分を間違って慌てたり、遅刻したりすることが少なくなっていきます。
◆夫が発達障害の場合「自分が悪いのではないと気づく」
ASDと診断された夫を持つ妻のなかには、コミュニケーションが不得手な人と家庭を営むうちに、不満が鬱積していたり、うつを患っていたりする人も。
ASDのひとつにアスペルガー症候群(AS)がありますが、ASの夫を持ち、心身に不調を来した妻の状態が「カサンドラ症候群」と呼ばれて話題になっていますね。
夫にASDの診断が出たカサンドラ妻は、現在の苦しい状態について「自分が悪いのではない」と気づくことから始めましょう。
そのうえで、発達障害にくわしい精神科を受診してカウンセリングを受けたり、同じ悩みを抱える自助グループに加わったりするといいと思います。
“ASの夫あるある”のグチや悩みを話し合うだけでも、かなり気持ちが落ちつくでしょう。
また、夫に極端な偏食や、音や光にうるさいところがあるなら、発達障害からくる感覚の過敏が考えられます。
またASDの夫は子育てに協力しない傾向が見られ、妻たちを大いに失望させますが、これも、環境の変化を受け入れるのが難しい特性が影響している可能性が。
いがみ合うばかりではなく、診断によって見方を変えて、夫婦で話し合うきっかけにしてほしいものです。
子どもの障害を否定したり無視したりするのではなく、見守って
片づけられない、あるいは極端に落ち着きのない夫がADHDだとわかった場合、妻はある意味、「夫に期待しないでいい」ことになります。
どんなに口を酸っぱくして整理整頓や時間を守ることを頼んでも、夫の努力だけではどうにもなりません。
まず夫が医療機関に通えるように導いてください。
日常生活では、たとえば「頼みごとは一度にひとつを簡潔に伝える」「大事なことは書き出して示す」などの工夫をしましょう。
時間の管理や仕事に必要な物の管理は、前項の自分がADHDだとわかった場合を参考にしてください。
◆子どもが発達障害の場合「受け止め、共感する」
高校や大学を出て、すでに大人になったわが子が発達障害だとわかったら、両親は何よりもまず、その事実を受け止めてほしいと思います。
子どもはすでに学校や職場でトラブルを起こし、いじめや叱責の対象になっているかもしれません。
時に過干渉になりがちですが、子どもの気持ちをしっかりと受け止め、共感することが大事です。
また、子どもの障害を否定したり無視したりするのではなく、見守ってください。
親自身にASD傾向がある場合は、家族に関心を持ち、家族は変わるものだと考えるように意識してください。
子どもに「自分を見守る親のイメージ」を根づかせることが大切です。
子どもにとって家庭は安心で安全な場であり、家族は安らぎをもたらす存在であるべきです。
ただし、子どもが引きこもり状態にあるなら、腫れ物に触るように接したり、スマホやテレビ、クレジットカードなど、何でも与えて過度に快適な環境を作ってはいけません。
反対に、一足飛びで「真っ当な道」に戻ることを無理強いしてもダメ。
子どもは社会の中でもみくちゃになりながら、必死に頑張った挙げ句、疲れ果てています。
すぐにも大学に復帰するべき、正社員になるべき、などとは考えないことです。
引きこもりがちでも趣味のためには外出ができるというなら黙って見守って。
家庭内では家事を分担して役割を持たせるなど、一歩一歩立ち直っていくための伴走者になってあげてください。
◆影響は一生涯続くと考えて
子どものものとばかり思われていた発達障害が、実は社会に出てからも、家庭や職場で問題になることが世の中に知られてきました。
歳を取って怒りっぽくなり、物忘れがひどくなってきた高齢者の中にも、ベースに発達障害がある人は一定程度いると考えられています。
ただ、今はようやく大人の発達障害が研究されるようになった段階で、まだ高齢者にまでは手が回らないというのが実情です。
発達障害は生まれつきの特性に端を発しているので、その影響は一生涯続きます。
しかし、薬物療法や心理療法、環境の調整など、できることはたくさんある。
発達障害の症状や困難は人それぞれです。
悩んでいる人は、ためらうことなく医療機関や支援機関にコンタクトを取ってほしいと思います。
(構成=田中有)宮尾益知
〔2021年2/24(水) 婦人公論.jp〕
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ページ名 大人の発達障害 (発達障害のニュース)
大人の発達障害「《察する》ことを求める文化は私たちにとって暴力です」小島慶子×沖田×華×岩波明
本日の「あさイチ」で取り上げているのは「大人の発達障害」です。
この特性については、本人はもとより周囲にも知識や情報が届かず、苦悩を抱えたままの当事者も少なくありません。
そこで、ADHDであることを公表したエッセイストの小島慶子さんとトリプル発達障害の漫画家・沖田×華さんが、精神科医の岩波明さんを聞き手に、当事者の生きづらさと、発達障害をとりまく現実について語り合った座談会を2回にわたって掲載します。
前編に続き、後編では職場でのトラブルやパートナーとの衝突などについても語っていきます
(構成=篠藤ゆり 撮影=浦田大作)
アナウンサー時代、苦悩もあったと語る小島慶子さん
◆過剰な集中力がもたらすパワーと、切れたときの反動
小島 ただ、興味のあることが掛け算になると、マイナスもプラスになることがあるんです。
あるラジオの生番組では、聴取者から電話を受け、ゲストに話を聞き、スタッフから差し込まれるメモをさばき続けるという超マルチタスクでした。
でも面白かったし、気が散る特性がプラスに働き、どんなに白熱した議論でも隅々に目配りして収拾できた。
お陰さまで、それが評価されて大きな賞もいただけて。(笑)
岩波 過剰集中のスイッチが入ると、パフォーマンスが一気に上がることがありますからね。
沖田 2018年に、7本の連載を抱えていたのですが、過剰集中でサクサク仕事が進むので、「この状態がずっと続いてほしい!」と、楽しくやっていたんです。
でも住んでいるマンションの大規模修繕工事が始まると、一気に脳が壊れて、字も書けなくなってしまって。
小島 わかります! 私も大規模修繕の時、恐怖心や過呼吸などのパニック障害の発作が起き、うつ気味にもなり、結局引っ越しました。
岩波 音が一番苦手でしたか?
沖田 音もそうですし、工事の人の気配や部屋の薄暗さなどで、無意識のうちにペースが狂っちゃうんですかね。
電話もかけられなくなり、やっとのことでLINEで編集者に「なんか死にたくなったんですけど」と送ったりして(笑)。
そんな状態を、当事者の間では《メルトダウン》と呼んでいるようです。
小島 私も2人目の子どもを産んだ後、不安障害を発症して、パニック発作とともに、一時的に字の読み書きができなくなりました。
それと肛門から脳にかけて脊髄がムズムズする感じがして、我慢できず部屋の中をぐるぐる歩き回ったりして。
◆知識はあってもコミュニケーションがとれない
沖田 実は私、中学生の時にアスペルガー症候群の疑いがあると言われたものの、障害のことは大人になるまであまり理解できていなかったんです。
小島さんも言っていたように、私も性格の問題だと思っていて。
でも、漫画家になる前に看護師として働いていた時、周りとコミュニケーションがまったくとれなくて、これはおかしいなと思い始めたんです。
小島 看護師同士のですか?
沖田 はい。国家試験も受かったし、仕事はできると思っていたんですよ。
でもそれは大きな間違いで、看護師というのは、ひとつの団体なんですよね。
そのコミュニティの中に入っていかないと仕事ができないということに気がつかなかったんです。
小島 なるほど。知識があってもね。
沖田 看護師のコミュニティからは弾かれるし、医師からは無能扱いされる。
ASD特有の、抽象的な指示が理解できないというのは、医療従事者としては致命的でした。
岩波 ケアレスミスも多かったのですか?
沖田 一度覚えたことは、どんなに都合が悪くても、そのやり方でないとだめ。
それで、わざとやっていると誤解される。
小学校の時に二次障害で特定の場面で話せなくなる場面緘黙症が出たのですが、病院でもそれが出てしまい、師長さんに呼ばれると石みたいに固まって声が出ない。
頭の中には言葉もあるし、謝らなきゃいけないとわかっていても、一切喋れなくなるんです。
岩波 重い自閉症の人だと、すべての動作が止まる「カタトニア」という症状が出ることもあります。
沖田 それもありました。
でも周りからは、無視している、開き直っていると思われる。
この仕事を辞めたら生きていけないと思い込んでいたので、自殺を試みたのですが死にきれず……。
でもそこから憑き物が落ちたようになって、自分にとってラクな生き方をしたいと思い、次に選んだ仕事が風俗でした。
小島 風俗もコミュニケーション能力が必要なのでは?
沖田 マニュアル通りにやれば大丈夫です(笑)。お客様をとにかく褒める。
そして「いらっしゃいませ。ご指名ありがとうございます~」と言えばいい。
仕事さえすれば感謝されますし、働いている人たちはみんな源氏名なので、本当のことは言わなくてもいいし、なんてラクなんだろうと思いました。
◆夫にだけは完全に理解してほしい
岩波 パートナーの方との関係は、いかがでしょうか?
小島 私が夫と出会ったのは20代の頃なのですが、当時は携帯電話が出始めたばかりで、電波が安定していなかったんですよ。
しょっちゅう電波が切れるのでイライラして、「もういらない、こんな電話!」と道に叩きつけたことがありまして……。
すると彼は黙って、壊れた携帯電話を拾ってくれたんです。
後で謝ったら、「慶子の落とした携帯電話を拾うのは俺の仕事なんだと思った」と。
沖田 なんじゃそれ。(笑)
小島 親からも、「お前は失敗作」だとか言われていたので、感激しましたね。
だから、結婚するならこの人しかいない、と思ったんです。
岩波 病院に来るのは逆のパターンが多く、だいたい妻が夫を連れてきて、「この人は私の言うことを何も聞いてくれない、どこかおかしいに違いない」と言うのです。
小島 身近な人がアスペルガー症候群であることで、心身に不調をきたしてしまう「カサンドラ症候群」が話題になりましたよね。
夫は私がADHDだと診断されてから、本をたくさん読んで知識を増やしてくれています。
それでも時々、私が口頭での連絡を覚えられないことを忘れて、口頭で予定を伝えてくることがある。
悪気がないとわかっていても、なんでわかってくれないのと、ついしつこく怒ってしまうこともあります。
岩波 攻撃的になるのも、ADHDの特性のひとつですが、それを理解し、耐えているわけですね。(笑)
小島 夫にだけは、私を完全に理解してほしいと過剰な要求をしてしまう。彼への甘えでしょうね。
ただ、今のところはこんな私を面白いと言ってくれるので、ありがたいです。
◆料理は夫が担当する理由
沖田 私は言われたことは、言葉通りに受け取ってしまうのですが……。
夫と暮らし始めた時、「いてくれるだけでいい」と言うから仕事以外何もしなかったら、ある日「食器くらい洗えよ!」と怒られてびっくりしたことがあります。
「何もしなくていいって言ったじゃん!」って。(笑)
岩波 それまでは彼がやっていたのですか?
沖田 はい。料理も全部彼です。「ごちそうさま」と言って食器を放置し、さっさと仕事に戻っていました。
ある日、レトルトのカレーを温めてみろと言われてやったら、鍋に入れたお湯の量が少なすぎて、袋が熱で溶けてぐちゃぐちゃに。
それ以来、「もうしなくていい」ということで決着しました。
小島 私は料理はできるのですが、2時間くらいかかってしまうんです。
ADHDの特性で、とっ散らかってしまい、段取りが組めないんですね。
そこである時期から、うちも夫が料理を担当するようになりました。
沖田 私の場合、自分は料理ができないくせに、今日はカレーだと言われていたのにうどんが出てきたりすると、ちゃぶ台をひっくり返してしまう。(笑)
岩波 決まったことが変わることが苦手なんですね。
沖田 はい。でもどう考えても私のほうが悪いので、謝るところから始めようということになりました。
小島 えらい!
沖田 あと私は人間関係でいつもトラブルを起こすので、同業の夫に仕事でやってはいけないことを教えてほしいとお願いしたんです。
それをノートに書いて、その通りにしたら、人間関係もうまくいき、仕事も途切れないようになりました。
◆ニューロダイバーシティという考え方
小島 今私が住んでいるオーストラリアでは発達障害に関してもオープンで、公立のハイスクールでも、発達障害がある子はテストの時間をプラス15分もらえます。
それに対して、誰も不平等だとは言いません。
目が悪いから眼鏡をかけるのと同じ、という認識なんですね。
岩波 一般に欧米の学校は個別指導が徹底していて、日本みたいに画一的に授業をやるのは明らかに時代遅れになっています。
帰国子女の方がよく言うのは、外国の学校にいた時は普通だったのに、日本の学校に入ったとたん不適応になった、と。
小島 学校と専門家の連携ができていて、診断がついたら、その子に合った学習方法を指導してくれるクリニックもある。
日本みたいに、親が右往左往することは少ないと思います。
岩波 発達障害の人に聞いてみると、小学校でいじめられた人が3分の1から半分くらいいる。
だから学校が抱えるいじめの問題を減らすためにも、こういう分野をしっかり考えていく必要があります。
日本社会は画一性を求める傾向が強いので、個性のある人間が排除されるようなところがありますから。
小島 日本は「察する」ことに重きを置く文化だと言われていますよね。
夫には「察しろというのは私にとって暴力なんだよ」と言っています。
沖田 察するとか、無理無理! ただ、ほかのことは何もできないけど、自分の専門分野だけは優れているという人も多いですよね。
岩波 歴史に名を残すような偉人たちが、ADHDやASDの人であるケースは多いです。
ただ当事者のご家族の中には、うちの子は発達障害だけど、特別な能力もない。
だから、褒めるような言い方はしないでくれ、という意見の方もいます。
小島 それはよくわかります。症状は人によって幅がありますし、表れ方も違いますから。
最近欧米では、発達障害をニューロダイバーシティ(脳の多様性)と捉えようという動きもあります。
だから決して単純化はできない、ということを理解してもらいたいなと思っています。
(構成=篠藤ゆり、撮影=浦田大作)
小島慶子,沖田×華,岩波明
〔2021年2/24(水) 婦人公論.jp〕
周辺ニュース=
ページ名 大人の発達障害 (発達障害のニュース、)
【大人の発達障害】ASD、ADHD、LDの特徴を専門医が解説!〈チェックリスト付き〉前編
一般にも知られるようになってきた「発達障害」ですが、症状の表れ方は人それぞれ。
もし自分や家族が発達障害であった場合は、どのように対処すればよいのでしょうか。
大人の発達障害の患者を数多く診断・治療してきた、専門医の宮尾益知先生にうかがいました
(構成=田中有 イラスト=石川ともこ)
ASD、ADHDセルフチェックリスト
◆原因は生まれつきの脳機能のアンバランス
一見「普通」の大人が、会社や家庭でさまざまなトラブルに直面し、生きづらさを抱えて困っている──。
その原因が発達障害にあるかもしれないということが、少しずつ知られてきました。
私は小児精神神経科医として20年近く臨床の現場で過ごし、これまでに発達障害の子どもを1万人ほど診察しています。
また、大人になってから「自分は発達障害ではないか」という疑いを持ち、悩んでいる方の診断も行ってきました。
発達障害とは、生まれつき脳機能の発達に遅れやかたよりがあり、かつ育った環境の問題などが重なって、社会生活をうまく送れない状態のことです。
近年は大学に入ってから、あるいは就職してから生活につまずく例が注目されています。
それまでは学校や家庭にある程度適応できていたのに、地方から上京してひとり暮らしを始めたり、会社で働き始めたりすると行き詰まってしまうことがあるのです。
そうして睡眠障害やうつを患ったり、引きこもりになったりして医療機関を受診するというケースは少なくありません。
発達障害は大きく分けて、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の3つです。
人それぞれ症状にはバラツキがあり、また重複して表れることもあります。
発達障害の種類。人それぞれ症状にはバラツキがあり、重複して表れることも
ASD(自閉症スペクトラム障害)◆社会的なやりとりが苦手
ASDは、以前の診断名である「アスペルガー症候群」や「広汎性発達障害」などをまとまった一連の症状として捉えたものです。
最も大きな特性は、社会的なやりとりが苦手なこと。
ASDの人は根本的に人への興味・関心が薄いので、他人の気持ちや立場をイメージするのがとても難しい。
日本の「そこは察して」という文化の中では苦労します。
次に、相手の表情や声音から心情を推し量ることや、あいまいな表現や指示語の意味をくみとることが苦手という、コミュニケーションの障害があります。
「適当にやっといて」と言われても困ってしまったり、「目がまわりそう」というような比喩を真に受けたりします。
3つ目の特性は、強いこだわり。
好きなことには文字通り寝食を忘れて没頭し、道順や着るものなどのマイルールにこだわります。
突然の予定変更などでそれが崩れると、パニックやかんしゃくを起こすことも。
また、音や光、味、感触などの感覚の過敏や、その反対の過鈍も見られます。
手先がひどく不器用な人もいますし、初めてのことは苦手なので、スポーツ、特に集団競技や球技が不得意なこともあります。
ADHD(注意欠如・多動性障害)◆ひとつのことに注意を向け続けられない
不注意、多動性、衝動性という3つの特性があります。
ひとつのことに注意を向け続けることができないため、多動、衝動的になるのです。
注意力が弱くて周囲の状況を読み取れない、聞きもらしや忘れ物が多いといった困りごとを抱えます。
さらに、時間の管理や、見通しを立てることが苦手なので遅刻が多い。
その場でものごとを単純に覚える短期記憶(ワーキングメモリー)の弱さを抱えています。
ADHDの人に多いのは、ほかの人が最後まで話すのを待てなくて話に割り込んでしまうこと。
子どもの場合、先生が問題を出すとすぐさま大声で答えたり、話のオチを言ったり。これでは周囲とうまくやれません。
大人になっても周囲から責を受けがちで、成功体験がなかなか持てないケースが多く見られます。
LD(学習障害)◆読字障害、書字障害、算数障害なども
知能全般は正常なのですが、読み書き、計算などの能力のうち特定のものだけがうまくできない状態を指します。
文字を目にしてから意味を頭で理解するのに時間がかかる読字障害、文字が書けなかったり、漢字のへんとつくりを逆に書いたりする書字障害、計算や暗算ができない算数障害などがあります。
小学校に入って勉強が始まってからわかることが多いのですが、大人になっても困難は続きます。
たとえば買い物中に値引き額をさっと計算する、メモを取る、長い文章を書くなどが苦手です。
LDはASD、ADHDの特徴を併せ持つ場合がよくあり、表れ方は人によって違います。
◆疑いがある場合は生育歴と特性のチェックから
発達障害を疑って医療機関を受診された18歳以上の方には、初診時に、症状が小学校に上がる前からあったかどうかなどの生育歴を確認します。
親御さんに同行していただき、子どもの頃の様子を聞くことも重要。
もしくは、通信簿の担任の先生のコメント欄などを参考にします。
次に、ASDやADHDのチェック項目に回答していただきます。
さらに、知的能力や認知能力をはかる成人用の心理検査や、発達障害以外の症状がある場合などは脳波やCTの検査も同時に行い、現在の症状について問診をしたうえで診断します。
ASDチェックリスト
下記の項目に当てはまるものがあり、日常生活でトラブルが生じている場合は、
専門医に相談してみるとよいでしょう
●こだわり行動
□ 物の収集癖がある
□ 好きなことだけに集中してしまう
□ 気になることを何度もしつこくくり返す
□ 順番や道順にこだわる
□ 予定が変わったり、行動を妨げられたりするとパニックを起こす
□ 過去のことにとらわれ、その通りでないと行動できない
●感覚過敏・過鈍
□ 突然の大きな物音が苦手
□ 痛みに鈍感
□ 話し声を雑音に感じる
□ 音、光、においなどがとても気になる
●社会的なやりとりの障害
□ 他人と目を合わせられない
□ 名前を呼ばれても反応しない
□ ひとりでいてもさみしがったりしない
□ 相手に合わせて行動することができない
□ 状況を読み取って行動することができない
□ 自己主張が強く、一方的な行動が目立つ
□ 自分がわかっていることは相手に説明しない
●コミュニケーションの障害
□ 表情から気持ちをくみとれない
□ たとえ話を理解するのが難しい
□ 難しい言葉や漢字・英語の表現を好んで使う
□ 言外の意味は理解しにくい
□ 代名詞を理解することが難しい
※宮尾益知監修『この先どうすればいいの? 18歳からの発達障害』より改編
ADHDチェックリスト(省略)
◆一番困っていることへの対処法を考えていく
治療の目標は、あくまでも大きな問題なく社会生活を送れるようにすることです。
ASDやADHDの特性そのものを「なくす」ことはできません。
特性とその表れ方、そして置かれている環境はひとりひとり異なります。
一番困っていることは何か、どんな生活を希望するかなどを聞いたうえで、対処法や環境の調整などを考えていくのです。
ASDの場合はグループでのSST(ソーシャルスキル・トレーニング)、カウンセリングや認知行動療法などの心理療法を行います。
また、発達障害に合併して発症しやすいうつや不安障害などの二次障害が見られる時は、気分を安定させる薬などを処方します。
ADHDの場合は、症状そのものを抑える薬があり、不注意や多動性、衝動性、すぐにカッとなるといった問題行動が、薬で軽くなるケースも。
私のクリニックではサプリメントも利用します。
神経伝達物質であるドーパミンを増やし、神経伝達のネットワークを強化する狙いがあります。
整腸作用のある乳酸菌を摂取したところ、こだわりが薄れるなどの効果が見られた人もいました。
発達障害を持つ人が、二次障害をきっかけに病院を受診することは多いのですが、精神科や心療内科では発達障害の知識を持つ医師が限られているため、発達障害の発見につながらないことも。
もし発達障害の疑いがあるなら、根本的な治療を受けるためにインターネットなどで病院を探す際は、「大人の発達障害」で検索してください。
今や、発達障害が子どもだけのものでないことは周知されています。
社会に出て何年も苦しんで、やっと発達障害だと気づく人も珍しくない。
「もうこの歳だから」「今さら」と諦めず、医師や支援者とともに打開策を考えましょう。
(構成=田中有)
〔2021年2/24(水) 婦人公論.jp宮尾益知〕
特集・増える「大人の発達障害」「就労」「家庭」に悩み 医療、相談の対策急務
2005年4月に「発達障害支援法」が施行されて12年。
「学習障害(LD)」「注意欠陥多動性障害(ADHD)」「アスペルガー症候群」など、発達障害に対する一般の理解は急速に広がった。
乳幼児健診による早期発見、小学校での支援体制整備など、発達障害を持つ子どもに関する取り組みも進んでいる。
そうした中で近年、クローズアップされているのが「大人の発達障害」だ。
障害のタイプによっては、幼児期に明らかな発達の遅れが見られず、成人してから対人関係などで問題を抱え、表面化することは多い。
また、発達障害への認知が進む中、就労や家庭生活に悩みを抱える人が、相談機関や医療機関を訪れるケースも急増している。
対策が急務となっている大人の発達障害。
現状や課題について、相談支援に携わる人たちに話を聞いた。
◇100人に1~2人
厚生労働省の患者調査によると、14年度に診断やカウンセリングなどのため医療機関を受診した発達障害者は19万5000人。
支援法が施行された05年度の5万3000人と比べ、大幅に増加している。
ただ、発達障害は、知的、身体、精神の各障害者制度と違い、固有の「手帳制度」がないため、医療機関を受診していない場合も含め、発達障害を持つ人が全国にどれだけいるのか、正確な数は分かっていない。
発達障害には幾つかのタイプがあるが、生まれつきの特性で、病気ではないという点で共通している。
代表的なのは、「読み書き、計算などが極端に苦手」というLD、「不注意・集中できない」「多動・多弁」などが特徴のADHD、そして「自閉症スペクトラム障害(ASD)」だ。
ASDは、「自閉症と連続体(スペクトラム)の障害」の意味で、基本的には「相互的な対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」「パターン化した行動、こだわり」など、自閉症と共通した特徴を持つ障害のことを指す。
症状の強さによって分類され、知的な遅れ、言葉の遅れがないものは、アスペルガー症候群の症名で呼ばれる。
厚労省によると、最近の報告では「ASDは約100人に1~2人存在する」とされる。
しかし、知的能力の高いアスペルガーなどの場合、子どものころは「少し風変わり」というぐらいで、見過ごされやすい。
社会に出てから、仕事や家庭生活でコミュニケーションに困難を抱え、問題が表面化することが多いのだ。
◇大半が大人
支援法に基づき、全国の都道府県と政令市に設置されている「発達障害者支援センター」。
発達障害を持つ人とその家族に対する相談支援、地域の関係機関との連携・調整、地域住民や企業に対する普及啓発・研修などに関する業務を担っている。
東京都発達障害者支援センター(TOSCA)の山崎順子センター長に聞くと、「ここ10年くらいで小学校はかなり変わった」という。
支援法施行前は、発達障害を持つ子どもも、特に知的障害を伴わない場合、「法の谷間」に置かれ、支援が行き届かない状況にあった。
しかしこの12年で、発達障害に対応した「通級指導」などをはじめ、体制整備が大きく進んだ。
同センターでの相談も、03年度は小学生以下に関するものが約半数を占めていたが、15年度は1割程度となっている。
乳幼児・児童に関しては、市区町村の支援体制が充実し、同センターで受ける相談件数は減った。
一方で増え続けているのが、「大人の相談」。
15年度の相談件数約2600件のうち、約3割が20代で、約2割が30代。
18歳以上に関する相談が7割を占めているのが現状だ。
「学校教育から社会参加というところで、職業生活の定着がうまくいっていない人たちからの相談が多い」と山崎センター長。
ハローワークなど就労を目的とした相談窓口から、「就労だけではなく、生活支援が必要」として、同センターに来る事例もかなりある。
センターを訪れる相談者は、いろいろな問題を抱え、「混乱状態」に陥っていることも少なくないそうだ。
まず、話を聞いて、「本人が困っていること」など状況を整理。
その上で、「どういうふうにしていくといいか」考えていく。
相談者の中には、「『仕事ができない』と上司からずっと叱責され、苦労を続けてきた。
障害者として支援を受けて仕事をしていきたい」と、明確に意思表示するようなケースもあるという。
同センターは、本人の意向、希望などを整理した上で、行政窓口や支援機関などにつないでいく。
ただ、その「つなぎ先」でも、発達障害の特性で、「相手の様子を見ないで、いきなり自分の用件を言う」「自分が困っていることを、苦情のように畳み掛ける」といった状況に陥り、必要事項を伝えられないこともある。
センターでは、「まずは一言、あいさつを」などと、「相談の仕方」からアドバイス。
職員がつなぎ先に同行し、相談者をサポートすることもあるそうだ。
◇人事管理上の相談も
発達障害を持つ人が、就労に困難を抱える一方で、雇用する側も対応に戸惑っていることは多いという。
同センターでは、会社に対する相談や研修も実施しているが、企業の人事管理担当者らからの相談も非常に増えている。
関係者に聞くと、発達障害を持つ人が「極端なこと」を言い、会社側とトラブルになるケースが多い。
発達障害には、「自分の頭に浮かんだことを、そのまま口にする」ような特性があることに起因するもので、仮に「裁判所に訴えてやる」と言いだしたとしても、「裁判所」という言葉が、知識として頭にあったから「言っただけ」という可能性も高いそうだ。
ここで会社側が「弁護士を立てる」などと感情的になると、対決状態が続き、双方が疲弊することになる。
「そういうときには、専門機関が間に立つべきだ」と山崎センター長。
障害特性に通じた専門家が、「本人の言いたいこと、考えはこうだ」と企業側に伝え、本人には、「こういう言い方をしたらいい」と教える。
いわば、「通訳」を介在させることによって、うまくいくこともある。
さらに、組織の人事管理者らが、個々の障害の特性を把握し、適材適所、適切な配慮をすることで、能力を発揮させることができるケースは多い。
例えば、障害特性の一つに「知覚過敏」があり、光に過敏で、「光の下だと仕事ができない」という人もいる。
「蛍光灯からずれたところに机を置く」ということだけで、人材を活用できる。
同センターは、障害者として雇用されている人に限らず、発達障害で仕事に困難を抱える人全般を「要配慮」として、環境の整備、対応の工夫などを進めるべきだとしている。
◇「カサンドラ症候群」
大人の発達障害をめぐっては、当事者以外の「家族の問題」も指摘されている。最近知られるようになってきたのが「カサンドラ症候群」という言葉。
「相手の気持ちや立場を理解することが困難な発達障害を持つ夫と、うまくコミュニケーションができずに苦しみ、妻が身体的、精神的な不調に陥る」ような状況を指す。
正式な病名ではなく、明確な診断基準もないが、抑うつ、不眠、パニック障害などの症状が出るとされる。
妻・女性パートナーが発達障害で、夫・男性パートナーがカサンドラになる場合もあるが、障害の発生率は男性の方が高いため、女性のケースが多いという。
横浜市の心理カウンセラー、久遠ナオミさんは、アスペルガー症候群やADHDに関連した夫婦問題を専門としているが、最近はカサンドラ症候群の相談も増えているという。
電話を含めると年間200件にも上り、深刻なうつ状態などに陥っている相談者も少なくない。
発達障害のパートナーを持つ人の自助会なども全国で組織されている。
神奈川県を中心に活動を展開する自助グループ「フルリール」は14年9月、参加者がそれぞれ抱える問題を話し、悩みを共有する場所として設立された。
現在の会員数は約500人。神奈川から東京、埼玉など関東の都県と仙台市にまで広がっている。
「障害自体、外から見えにくいし、その家族のことは本当に見えない」と、フルリール代表の真行結子さん。
例えば、「思ったことをすべて口にする」発達障害の夫が、本人は意図せず、「モラルハラスメント(精神的暴力)」を繰り返すようなケースがある。
しかし、妻が苦しみを訴えたとしても、夫が「仕事をして、結婚をして」基本的には問題なく生活しているように見える場合、信じてもらえない。
「誰にも理解されない」と追い詰められ、孤立していくのだという。
相談機関やカウンセリングでも、「男の人ってみんなそうよ」「あなたがおしゃれをして、優しくすれば変わるわよ」などと言われ、さらに傷つく「二次被害」も多いそうだ。
久遠さんも、真行さんも、「医師やカウンセラー、弁護士、各種相談窓口担当者らのカサンドラへの理解」の必要性を強調していた。
◇意識の変化
「乳幼児期から成人期まで、ライフサイクルを通じた支援が必要」との認識で、発達障害の問題に取り組む自治体は増えている。
TOSCAの山崎センター長に聞くと、東京都内の自治体でもここ3年ぐらいで、「大人の発達障害に取り組むのは当然」という意識に変化しているという。
ただ、大人の問題で難しいのは、「精神保健、生活保護、障害福祉など、行政のいろいろな課で登場してくる」ところ。
成人に関する相談が多い自治体では、それぞれ保健福祉行政の歴史、特徴に合わせて、工夫して対応しているが、「結果としてこの課になった」というケースが多いのが実情のようだ。
成人の発達障害について、生活支援の1次窓口を設置したり、相談体制を整えていたりする自治体はまだまだ少ないという。
「就労、あるいは生活での『困り事』をまず、どこに聞けばいいか。住民に分かりやすい形で、示すことが必要」と指摘する関係者が多い。
また、「『発達障害』の観点からの連携」を求める声も切実だ。
就労、福祉の各種相談窓口、関連部署の職員らが、障害に関する知識を持ち、多面的に適切な支援につなげることが期待されている。
〔◆平成29(2017)年4月25日 時事通信 官庁速報〕