体験記・逸見ゆたか・精神的ひきこもり脱出記(2)
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2023年11月7日 (火) 00:59時点における最新版
精神的引きこもり脱出記(その2)
著者:逸見ゆたか(女性)
自分を取り巻く状況がたくさんの人々を苦しめた、という点で似たような時代が60年前にありました。
1945年、第二次大戦に敗北し、海外に派兵されていたたくさんの軍人がぞくぞくと故国に帰ってきました。
しかし、日本の東京、大阪を初めとして、文化と経済の中心地の都市はことごとく、じゅうたん爆撃で瓦礫となっていました。
戦地で言葉に尽くせないほどの惨苦を味わった彼等を「ご苦労様!」と声を掛けるものや、思いやった人々はどれ程いたでしょう。
でも、国内にいた人間たちも、食料もなく家も焼かれ、今日一日を生き延びるのが精一杯だったから仕方がなかったかも知れませんが。
しかし、身も心もぼろ屑のようになった復員兵たちの大部分は、気を取り直し自分たちの暮らしや、日本の国を立て直すのに頑張りました。
そして世界中が驚くほどの驚異的な経済発展を遂げる原動力になりました。
しかし全部の人々が前向きに頑張った訳ではなく、中には戦争の理不尽さを恨み、トラウマに心を蝕まれ、酒に溺れ、気力が出ないまま身を滅ぼしてしまった人々もたくさんいます。
歴史を振り返ってみると、どの時代にもそれぞれの良さもありましたが、理不尽さも無残さもたくさんありました。
「社会が悪い!状況が悪い!」と言い立てるよりも、それらの状況にしなやかに立ち向かい、生き抜く力をつけることが出来ますように、私のそんな願いが、「引きこもり」を生む時代の状況に心を潜ませるのかもしれません。
「引きこもり」の原因
さまざまな専門家がこの引きこもり問題について書かれた本を出されています。
さらに、第一線で活躍されている方々の見解なども新聞や雑誌の切抜きなどから調べてみました。
私はまったくの素人なので、世上に出たもののごく一部しか調べることができなかったことをお断りしておきます。
以下は、それらから拾い上げた見解です。
・原因は不明……
――「引きこもり」問題に熱心なS精神科医
・本人たちが余りに純粋でデリケートなので、この世の汚濁に適合できないのだ。
――引きこもり者たちの交流雑誌から
・自分を守るための緊急避難だ。
――「引きこもり」NP0
・母子密着と過保護、愛情に名を借りた学習管理、生活管理で子どもをがんじがらめにし、いい子育成にした弊害だ。
――「引きこもり」問題に詳しい精神科医
・上記の背景に偏差値教育、受験戦争、など学校の変質も指摘されています。
社会学者のある方は、「引きこもり」問題に限定せずに、子どもの人間力が落ちているのは、ゲームに熱中するためだ、とゲームが子どもの脳の発達を妨げると、ゲーム脳の恐怖を警告しています。
・核家族、地域社会の崩壊、テレビ、ゲームの悪影響・・・・・・・社会学者
・母親、父親のありかたや躾けこそが問題の根幹だ。・・・・・・・・塾経営者
次に掲げたのは、「引きこもり」問題に詳しい精神科医や関連の本からまとめたものです。
1.統合失調症(以前は分裂病といわれていた)
2.強迫性精神障害
3.境界性人格障害
4.対人恐怖症
5.トラウマ
6.醜形恐怖症
7.いじめ
8.さまざまな挫折(受験、失恋、就職、学業についていけない…)
9.人間関係につまづいて。
10.その他、燃え尽きて。
11.王子様、王女様子育ての結果、子どもの自尊心が肥大化し、ささいなことに傷つくもろい人間が増えたからだ。
12.原因は不明。
*解説
1.統合失調症・・・以前は精神分裂病といっていた。思春期に発病することが多いといわれている。
最近はよい治療薬があるので、早期に治療を開始するほど効果があるといわれている。
2.強迫性人格障害・・・歯磨きや手洗いを何時間でもしつづける。
登校したら教室は汚いと保健室にしか行けない、など本人も無意味と分かりながらも止めることができない。
うつ病についで日本人には多いと言われている。
もともとの素因に、受験の失敗、学校や会社での人間関係のつまづきなどのストレスが加わると思春期ころ発病する。
ほかの心の病と違い、本人が医師に相談するという特徴がある。
3.境界性人格障害 (ボーダーライン)・・・進学、就職、失恋などの挫折や失敗が引き金になり、それまで“いい子”でいた子が、家庭内暴力を振るうなど一挙に表面化してくる場合が多い。
愛情要求が非常に強いため、見捨てられることを非常に恐れる。
とか、非常に衝動的な行動や感情の起伏の激しさが見られる。
過保護、過干渉で大事に育てられたため、自分が育たず、自尊心の傷つきに非常に弱い。
4.対人恐怖症・・・人前に出ると緊張して物が言えない、手が震える、赤面する、外に出られないなど。
人目を気にする日本人は「自分がどう思われるのか」「どう評価されているのか」ということに敏感だ。
個人主義が当たり前で、自己主張の強い欧米ではほとんど見られない。
非常に日本的な病気だといえる。治療は比較的に短期間で改善する。
5.トラウマ・・・精神的な外傷のことをいう。
恐怖、自責、怒り、などの心理状態が現れるその人の対処能力を超えた、親や大人からの身体的、性的、精神的な虐待によって心に傷を負った状態を指す。
精神的虐待の中には、暴言なども入る。ネグレストは精神的虐待の一つだが、親の育児放棄、無関心などによっておこり治療は長期にわたり、困難がともなうという。
大地震や地下鉄サリン事件、戦争などによるものは、PTSDとして、単なるトラウマとは切り離して考える。
6.醜形恐怖症・・・対人恐怖症と共にこの病も、人目をきにする日本人に多く見られる心の病なのだという。
他人から見れば、たいしたことに感じられない顔や、体の特徴を醜いと非常に気に病み、学校に行けなくなってしまう病気。
醜形恐怖症の特徴は、妄想的なところがあって、他人がいくら醜くないと言っても、耳を貸さない。
しまいには、親が悪いと家庭内暴力に発展するケースもままあるという。
ビジュアルに価値が置かれがちな今の時代風潮の中で非常に増えていると言われている。
以上原因を拾い出してみましたが、実に多岐にわたっていて、ぼうっとしてしまいそうです。
しかしこの手記を書き綴る四年半の間に、少しずつ見えてきたものがあります。
それは第5章「引きこもりを生む現代の状況……私の背丈から見えたもの」でもう一度書きたいと思います。
第2章 暗いトンネルの中で
Yさんへ
どこをどう直せば
あなたのお手紙を拝見したのは、4年前の『ひきコミ』4号にのった文章です。
私とまったく同じ体験や悩みを持っていらっしゃることに驚きました。
貴女は――自分は中学の頃から人間関係に悩んでいたこと。
社会に出てからもそれが続いて、仕事が長続き出来ず、すっかり人間が怖くなってしまった。――
「私のどこをどう直せばいいのでしょう。もうこれ以上拒絶されたり、嫌われたりするのが怖いのです」と書いていらっしゃいました。
何て率直で、的確な言葉でしょう。
私は自分が長年苦しみながら、これ程にきちんと自分を見つめることも、素直に表現することも出来ませんでした。
あれから4年余たってしまいました。
聡明な貴女は、もしかしたら辛く悲しい事態から脱出しているかもしれませんね。
それならそれでその体験を、もしあなたさえ良かったらお話ししてくださいませんか。
なぜ4年もたってから……とお思いでしょうね。
実は貴女のお手紙を見てから直ぐにお返事を書き始めたのです。
それは、私の貧しい引きこもり脱出体験記です。
誰かを指導したり、教えたりなど私にはできません。出来ることは、こんな脱出ルートもあったということだけです。
体験記を書こうと思い立ったものの、すらすら書けるような力はまったくありません。
まず文章を書く勉強せねばなりませんでした。
泥縄もいいところです。
勉強をしながら、私は封じ込めていた暗い私の人生の道筋や角々を、丹念に掘り起こし、光を当て、それらと脱出へのルートをなるべく客観的に書く努力をしました。
明るい世界を求めて私は、たくさんの試行錯誤をしました。
その時間の経過の中で、私は自分の中に、新しい心の芽が生まれ、その芽が道を開き、生きる力を生み出し、喜びが発見出来るようになりました。
そしていつの間にか、人を恐れなくなり、交流を楽しみ、青い空の下で、何の不安もなく息を吸うことが出来るようになりました。
もっとも、ページをめくるように、一挙に新しい世界が訪れたわけではありません。
一挙にならない自分自身に、ずいぶん我慢も忍耐も必要でしたが。
自分の体験から、私は次のことを「引きこもり精神脱出」の大切な鍵だと思っています。
その一、「鍵は自分が持っている」ということ。
その二、持っている鍵は一人ひとりその人独自のものらしい。けれど共通性もかなりあるらしい。
その三、その鍵を回す自分の手を助けてくれるのは「外部から訪れる」のではないかということです。
自己紹介(ゴッホとDr・キリコ)
Yさんに、私という人間についてお話しなければいけません。
話し手が正体不明であったら、これからの話は信用されない、と思うからです。
とはいえ、自分を正直に語る!ということは、辛いことです。
あなたはどうですか。
現在でも私は過去を振り返ることが辛いため、同窓会関係の集まりはほとんど欠席しています。
地獄の中を這いずり回った年月を、同窓生と何のわだかまりもなく、懐かしむ!という心境には今でも出来ないからです。
でも貴女の心に届くお話をするには、ここを避けては通れません。
勇気を出して少しずつお話いたします。
ゴッホの描いた自画像の中で、頭に白い包帯をぐるぐる巻いたのがあります。
どうして、こんなに醜い自分を描いたのでしょう。
ゴーギァンとの共同生活を楽しみにし、彼を迎えるため“ひまわり”の絵をいっぱい描いたゴッホです。
そのゴーギァンとの仲が破局を迎え、「お前は気違いだ!」と罵り去られたこと。
さらに弟テオが結婚し、今までどおりの生活援助が危ぶまれていたこと。
もう一つ彼を苦しめていた“てんかん”の発作があります。
これだけの事情が重なったゴッホの絶望と、自己嫌悪はどれほどのものだったことでしょう。
暗くみっともない自画像は、もしかしたら最も勇気ある絵かもしれない、とこの頃やっと気がついてきました。
長いこと心の問題と向かい合ってきて、分かったことは“自分”こそ私たちの死角に居て、なかなか実像が見えないという事実です。
美しく生きたい、という夢と現実をごちゃまぜにして、自分を美化してしまう。その錯覚から覚めるのに私は長い遠回りをしました。
辛いけれど、勇気を出して自分を紹介いたします。
私ととても似た人物がいます。
1998年12月、日本中が驚いた一つの事件が起こりました。
それは、「インターネットによる毒物宅配事件」です。事件の概要は次のような内容です。
ある女性が、インターネットの自殺サイト『Dr・キリコの診察室』の専属医師、草壁竜次から青酸カリ入りカプセルを分けてもらい、それを飲んで死んでしまった、という事件です。
インターネットの最も心配していた悪い面が出た!と一般社会は憂慮し、私ももちろん同じような禍々しさを感じましたが、その後の続報や後に出た本『Dr・キリコの贈り物』によって、実態はかなり違ったニュアンスを持っていることが分かって来ました。
本を読んで驚いたのは、自殺サイトは四百もあるということ、自殺願望に苦しむ多数の人々が居る、という深刻な実態も私は始めて知り衝撃を受けました。
宅配事件を起こした自殺サイト『Dr・キリコの診察室』の嘱託医、草加竜次という人は、事件から想像した陰険な危険人物とはほど遠い人間らしいということも分かってきました。
事件と草壁竜次という人物をちょっと紹介します。
ハンドルネーム彩子という人が、インターネットの自殺サイトに「Dr・キリコの診察室」を立ち上げた時、その嘱託医に草壁竜次を依頼したのです。
彼を委嘱した理由は、他のサイトで彼の誠実さと科学的な態度に信頼感を持ったからだそうです。
彼の人柄を知る人は、一様に彼が誠実で真面目で純粋すぎるほど純粋過だったといいます。
こんなエピソードがあります。
高校時代、生徒会長になった彼は壇上から、よりよき学園生活のために、友情のために、成長のために、と熱弁をふるいました。
生徒たちは一様にうんざりし、「ついていけねーよ」と小声で言い「なに一人で熱くなっているんだよ」とも言いました。
彼は学園生活を良くしようと思いました。けれど、だれ一人ついてきては来てはくれませんでした。
彼の中に燃えている理想も情熱も、どこも受け入れてくれず、苦々しいしい孤独ばかりが堆積していきました。
誰よりも社会に貢献したいと願いながら、どこにも定着の場所の場所をみいだせなかった。
彼は限りなく純粋に生きようと努力したし、世俗的なそろばんをもたず、世の汚れを排斥しました。
彼は次々と職を変えましたが、どこにも彼を受け入れてくれる場所はなかったと言います。
しだいに彼はうつ状態となり、厭世観と自殺願望が定着していきました。
その自殺を食い止めるお守りとして、青酸カリ入りカプセルをペンダントにすることを思いついたのです。
この方法は霊験あらたかで、彼が心の危機に陥っても、これにそっと手を触れればすぐ落ち着きました。
彼はこのペンダントを常時首にぶら下げ、海外の危険地帯に旅行した時も、いくども無事に切り抜け、落ち着いた行動を取れたといいます。
彼はこのペンダントの絶大な効力を、自分と同じ絶望と自殺願望を持つ人々にもそっと教えてあげたいと思いましたが、さすがにとても危険なことなので、本当に信頼してよい、と確信しない限り絶対渡さなかったようです。
この服毒死した女性は、インターネットを立ち上げた彩子の紹介だったので、彼は送ったのです。
私はここでは彼の行為の善悪を論じる積もりはありません。
ただかっての私の分身のような純粋で、そしてあまりにも皆から浮いた独り善がりな人間像に、思わず泣き笑いしてしまいます。
かわいそうな草壁竜次、そして私……。
私がなぜ草壁竜次を持ち出したかといいますと、彼の持っている性格のいくつかが私とかなり共通性をもっていること。
私だけでなく、私が集めた新聞、テレビ、関係専門書からうかがえる「引きこもり」や自殺願望の人々に、この純粋、誠実という人柄が共通項として、実に多く見受けられる、のです。
私は彼のように外部に自分の思いを口にしなかったものの、心情はとてもよく似ています。
自分では真面目に誠実に良心的に一生懸命仕事をし、同僚の悪口も言わず、控えめにし、いやな仕事も進んで引き受ける! という生き方をしてきました。
けれど、この充足感のなさはなんでしょう。みんなから“浮いていて愛されても必要ともされていない”という居心地悪さに、いつも苦しめられていました。
それがどういうことなのか、自分では皆目分からないのです。
職場の人々は、大人のエチケットとして、表面には口に出さないので、何が悪いか判らないのです。
けれど、私自身が一番敏感に居心地悪さを感じ、同僚や仲間が敬遠していると、不安感を堆積していったように思います。
のちに私は、この“純粋”という言葉をキーワードとして、見えない檻のような世界から脱出できました。
でもそこへ至るまで、気の遠くなるような紆余曲折を経ねばなりませんでしたが。
(つづく)
⇒体験記・逸見ゆたか・精神的ひきこもり脱出記(1)
⇒体験記・逸見ゆたか・精神的ひきこもり脱出記(2)
⇒体験記・逸見ゆたか・精神的ひきこもり脱出記(3)
⇒体験記・逸見ゆたか・精神的ひきこもり脱出記(4)