Center:154ー心理・精神現象の合理的・規則的説明のために
心理・精神現象の合理的・規則的説明のために
〔2012年7月11日〕
先日の「大人の引きこもりを考える教室」で「指導ということの有効性」ということばを使いました。
またこれまでは「見当をつける」というのもときどき使います。
引きこもりの人の心理・精神状態の判断、それに基づく対応につながることばです。
自然科学的な原因・結果論(因果関係)の立場から見ると漠然としたことのように見えるのかもしれません。
人間に関することでは了解的関係というのがよく使われます。
因果関係のようにはっきりしたものではないけれども因果関係を求めるのが困難な場合に、確からしさを表すことで使います。
さて、自然科学においては因果関係は確立しそれ以外には証拠は求められないのでしょうか。
大木幸介『量子化学入門』(1970年、講談社ブルーバックス)を読んでいると、自然科学においてもそうとばかりはいえない事情があるとわかります。
現代物理学は量子力学で、根底は量子理論、「物質粒子には量子と波動の二重性がある」というものです。20世紀になって原子とその構造が発見されつくられた理論です。原子は原子核とその周囲にある電子から構成されます。原子核が大きくなり周囲の電子数が多くなると、応用科学としての量子化学では計算が複雑になります。厳密な計算ができなくなります。「1個の問題として解けば厳密に解けるが、2個以上多数個の問題を同時に解くことはできない」(32ページ)からです。
量子化学者はここで、変分法や接動法なるものを考え出しました。
著者によると前の方は試行錯誤であり、後の方は類推することです。
もう少し正直にこういっています。
「こういうときには、“ごまかして”解く。
ごまかすというと聞こえが悪いので、通常、近似的に解くといって、この方法のことをことさらに『近似』(アプロキシメーション)という。
ただし、サギ師にも上手、下手があるように、近似にも上手、下手があって、上手な近似は真実というか実体にごく近くまで肉迫できる」(34ページ)といいます。
ここに私はむしろ自然科学の精神に誠実さを感じます。
人間科学は、少なくとも心理・精神を扱う世界においては因果関係で全体を表すことは出来ません。
2個以上の多数個の問題を同時に解くことばかりだからです。
そこで了解的関係において確からしさを得ようとするわけです。
しかし、それさえも十分ではないように思います。
自然科学の方法では「真実というか実体にごく近くまで肉迫」する近似に向かおうとしています。ここを見習いたいものです。
人間の心理・精神にはもって生まれた遺伝的な素質、生育環境とかかわる成長による変化、家族関係、友人関係、社会関係などが多数の要素が関係し、しかも一つひとつの要素を実験的な方法では把握できません。
とても数値化するとか数学的な関数で表すことができません。
物質的な生産、流通、所得など生活と経済に関することはある断面を数値化できます。
もちろん自然科学的な厳密さを求めるには距離があり難しいとしてもです。
人間の心理・精神ではその困難さをいいことに、そこの安住ないしは何でもあり的ないい加減さも通用しています。これがおかしいのです。
私は見当をつける、直感的に判断する、その場その場の状況しだい…の必要性はことに対人関係の実際状況からは避けられないと認めます。
そのうえで、実証的な事例と、他の事例との共通性や異質性を同一原理で説明できること、いろいろな言動に規則性を持っていることを追求したいと思うところです。
それが自然科学の方法から学ぶべきところではないでしょうか。