Center:148ー薬物療法の趨勢
薬物療法の趨勢
〔2011年11月24日〕
『化学療法』(ミシェル・プリヴァ・ガリル著、塚田隆・訳、文庫クセジュ、1974年)を読む。
MichelPrivat de Garilhe:La Chimioterapie.
1974年初めに日本語訳が発行されたのでもう古いのかもしれません。
化学療法の対象が精神病領域ではなく、寄生虫、細菌、ウイルスおよびがん治療を主な対象としていること、何よりもこの手の本は事実上始めてのものなので、この1冊を根拠に多くのことを言うことはできません。
「化学療法は明確に知られている化学構造を持った有効成分(天然の、あるいは合成された)を、治療に用いようとする科学である。広い意味からいうと、化学療法は経験的な段階を超えて、有効な化学成分あるいは薬物の、作用機構をいっそうよく知ることを目的とした科学である」(13ページ)。
まずこのように定義されます。“いっそうよく知る”には有効とともに、限界や毒性という、いわゆる副作用の働き、個体差、長期間使用したときの影響なども含まれると考えなくてはなりません。
西洋医学の源流をなすヒポクラテス以来の多くの成果と「化学療法の実験上の一般的な原則」をここでは省略します。
抗生物質…薬物のなかでも特別の意味を持つを「概論的に定義すれば、抗生物質とは微生物によって作られ、稀釈された溶液のなかで、ある種の細菌あるいはその他の微生物の発育を阻止し、さらには死滅もさせる能力のある物質のことである」。「多くの抗生物質は、その化学構造が完全に解明されるように、またその合成が実現するように、かなり高度な物理化学的研究の対象となってきた」(50ページ)。
ペニシリン発見(1929年、フレミング)以来の、抗生物質の発見、研究も省略します。
抗生物質が化学療法において重要な役割をすること、それとともに「ある抗生物質の抗菌スペクトルに関した一般的な法則を立てることもできない」、「抗生物質の作用様式について、まだ完成されなければならない多くの研究が残っている…、この作用様式はまだ非常に漠然としているので、抗生物質の作用上の特異性を示す機構と微生物の耐性を理解するためにも、それを明らかにすることに大きな関心がもたれて当然…。抗生物質を産生する微生物の生活に、その抗生物質がどのような役割をしているか…ほとんど知らない…」(86ページ)。
「薬理学の面でも臨床の面でも、…抗生物質療法に関して、研究者たちはすべて、理想的な抗生物質を、すなわち広範囲な抗菌スペクトルを有し、経口投与でも有効であり、副作用が全くなく、ある一定時間持続的に作用する抗生物質を見つけることに努力を集中してきた。このような抗生物質が容易に入手でキ、穏当な値段であることが望ましい。…」(87ページ)。
ウイルス性疾患の悪化、腫瘍の発育に対する化学療法…2つの様式。
①ウイルスや癌細胞の分裂を支配するDNAを復旧できないほど変化させる(放射線療法)。
②代謝拮抗剤を使用し、DNAの連鎖反応を行きづまらせ、ウイルスの増殖や腫瘍の発育を阻止してその反応の連鎖をどこででも阻害する(ウィルス抑制剤、細胞抑制剤)。「しかしこの薬剤は二重の刃を有していて、正常な増殖に(90ページ)も影響を及ぼし、発育を遅らせ、骨髄細胞を抑制し、催奇性作用する」(91ページ)。
この「催奇性」の注記。「子孫に奇形を生ぜしめる作用をいう。ことに精神安定剤、サリドマイドによって起こった恐怖のため、医薬品の規制を制定する国家機構あるいは国際機構は、医薬品規制に慎重になった。そこで化学療法はときにはその進歩がはばまれることになった」(91ページ)。文章(翻訳?)が少し変?
精神安定剤に関するほとんど唯一の記述。
結論の部分…「寄生虫病や感染病などの多くの疾患の治癒は、明らかに…薬剤によるものであるが、それらの薬剤の作用は、習慣的に他の領域(特に考えられるものとして、鎮痛、精神安定、抗炎症、ホルモンなどの領域)に属する薬品や技術によって、完璧なものとされねばならない。…」とされている。薬物療法の傾向として留意しておきたい。