Center:134ー新しい方法論を模索し提示
新しい方法論を模索し提示
〔2011年5月29日〕
松井孝典『宇宙人としての生き方――アストロバイオロジーへの招待』(岩波新書、2003年)。
〔その2=システム論〕
(7)新しい方法論=「システム論と歴史に基づいて総合化」(27ページ)。
「二元論と要素還元主義を超え、俯瞰的に全体がわかるような科学が必要である」=総合化。
「我々がその要素の一つになっているような全体をどうやって認識するのか」(27ページ)。
自分がその中にいる全体をどう認識するのか。自分に生じていることを全体(宇宙)との関係で理解しようとすること。
全体は大きすぎるので、一見何の関係もない特定の物事との関係で理解しようとすることが出発。
シンクロニシティも、その一つになる。全体と自分の関係性を追求する。
どこかに接点はあるのか? 「システム論と総合化」と比べてユニークでおもしろみがある。
(8)システムの構成要素
地球を構成する物質圏=
磁気圏、プラズマ圏、大気圏、海、大陸地殻、生物圏、海洋地殻、上部マントル、下部マントル、外核コア、内核コア。+人間圏。
「人間圏…が付け加わったのが現代という時代の特徴」(35ページ)。
内部に生まれた人間圏が全体を見る目になる。それは自然の一部であるが、自然を超えてしまう。
(9)システムの〔構成要素間の関係=省略〕
駆動する力
1、 太陽からの放射エネルギー。
2、 地球内部の熱⇒外側に向かうエネルギー。
この2つが地球の物質圏間の相互関係を生み出している。
(10)地球生物学は太陽系生物学(?)
観察できた範囲の太陽系において「地球にしか大陸地殻がないから、地球にしか海がない、あるいは、地球にしか海がないから、地球にしか大陸地殻がないともいえるのです。
もっといえば、地球にしか大陸地殻がないことは、地球にしか生命がいないということとも結びつきます。…海と大陸と生命の存在は三位一体のような関係なのです」(43ページ)。
(11)人間圏の成立と地球の歴史
人類の誕生は700万年前。
「人間圏をつくったのは1万年くらい前のことです」(57ページ)。
「人類が農耕・牧畜を始めたことによって人間圏という新しい構成要素が生まれたと考えられるのです。
生命の惑星から文明の惑星への進化です。
…今までは次々と構成要素(物質圏)が分化してくるというのが地球の歴史でした。
しかし、これからは、今までうまれてきた構成要素が一戸ずつ消えてなくなっていきます。
物質圏が一個ずつ消滅し、システムとしては分化した状態からだんだん均質化していき、最初の火の玉の状態に戻っていく。
これが地球の未来です」(58ページ)。
(12)狩猟採集と農耕牧畜
「地球システムという考え方に基づいて農耕牧畜という生き方を分析すると、農耕牧畜とは、地球システムの中に人間圏をつくって生きる生き方といえます。
これは狩猟採集という生き方と農耕牧畜という生き方を、地球システム論的に比較してみればすぐわかることです。狩猟採集という生き方は、生物圏の中の物質とかエネルギーの流れを利用する生き方です。
…生物圏の食物連鎖に連なって生きる生き方ともいえます。…(60ページ)
…狩猟採集はほかの動物もしている生き方です」(61ページ)。
(13)農耕牧畜による人間圏の成立
「農耕牧畜では、森林を伐採して畑に変えたりします。この結果、地球システムの物質・エネルギーの流れが変わります。
…太陽から入ってくるエネルギーが地表で反射される割合…農地と森林では違います。…森林を畑に変えることで、太陽のエネルギーの流れを変えていくことになります。
…森林を伐採して農地に変えるという行為が、地球という星全体の物質やエネルギーの流れを変えているのです。
地球全体の物質やエネルギーの流れを変(61ページ)えるということは、システムの構成要素を変え、その間の関係性を変えるということです。
したがって、農耕牧畜という生き方は、概念的には地球に人間圏という新しい構成要素をつくり、地球システム全体の流れを利用する生き方ということになるのです。
これまでも農耕牧畜の開始によって文明が生まれたと考えられてきたわけですから、文明を人間圏をつくって生きる生き方と定義し直しても、実質的には何の変化もありません。
したがって人間圏の誕生は約一万年だということになります」(62ページ)。
(14)気候変動
酸素同位体の変動を気温変化に換算して「最近、40万年くらい前からの気候変動が詳しく議論できるようになりました」
「一万年くらい前に大きな気候変動があることがわかります。
一万年前以前のほう(63ページ)が、気温が低くその変動幅が大きいのに対し、一万年前以降は、気温も高く、その変動も小さくなっています。
この前後の時期を氷期、間氷期といいます。
一万年くらい前から気候が安定化し、気温が少し高い所でほぼ一定になったからです。
…この気候変動が、なぜ一万年前に農耕牧畜が始まったかということに対する一つの答えです」(64ページ)。
(15)農耕牧畜が始まった理由=「おばあちゃん仮説」
「おばあちゃん仮説」…「生殖年齢を過ぎたメスが生き延びている状態…自然の状態では、哺乳動物には、この意味での“おばあさん”という存在はありません…現生人類の祖先(クロマニヨン人)には、おばあさんの骨の化石があります」(65ページ)。
「ネアンデルタール人の化石を調べても、おばあさんの骨は見つかりません。
…これは生物学的な意味で現生人類が哺乳動物、サル、猿人類と違うだけではなくて、人類の中でもほかの人類と違うということを示しています」(66ページ)。
⇒人口が増えていく(娘の次の出産までの期間が短くなる)⇒人口移動(出アフリカ)・地球に拡散する。
(16)農耕牧畜が始まる、共同幻想
会話・コミュニケーション⇒脳内の神経細胞網の伝達回路の接続が変わり、抽象的な思考ができる⇒“共同幻想”を抱ける(67ページ)。
「旧石器と新石器のという違い…抽象的思考ができるようになるということは、経験しないでも頭の中にイ(101ページ)メージすることができるわけですから、その結果みんながそう思い込む、というようなことも起こってくるはずです。
それを脳の内部に構築する内部モデルといってもいいのですが、私はそれを“共同幻想”ともよんでいます…いちばんわかりやすい例は宗教だと思います。
もちろん自然を崇拝するという非常に原始的なレベルでも宗教的な概念はあったでしょう。
しかし、抽象的にも神という概念が生まれると、それを求心力とした共同体が生まれます。
共同幻想を抱くことによって、それを求心力にした共同体が人間圏のさまざまな階層レベルで構築されるようになると考えられます」(102ページ)。
(17)人間圏成立後の二つの段階
前段階
「フロー依存型とでも呼べる人間圏…駆動力が構成要素間の関係性を生み出す」(68ページ)、
「地球システムの、もともとの物質・エネルギーの流れ(フロー)を利用するだけだからです」(69ページ)。農耕牧畜。
ストック依存型人間圏=「産業革命による工業文明の誕生がその段階へ移行した時です。
…地球の物質循環の速さが変わります。…人間圏へのエネルギーや物質の流入量を我々が欲望に応じてコントロールでき、したがって人間圏が無限に拡大(71ページ)できるようになる」(72ページ)。
(18)人間圏の拡大の異常さ
「20世紀の人口増加は100年で約4倍。この調子で計算すると二千数百年で人の重さが地球の重さと等しくなる。
⇒21世紀にはこの人口増はありえない?「このままでは地球システムから負のフィードバックが強制的にかかり、人間圏は縮小せざるを得なくなる」(73ページ)
「宇宙からの視点で考えると、人間圏をつくって生きているのが現在の我々です。…ここでは地球学的人間論と呼ぶことにします」(83ページ)。
「われわれが文明、すなわち人間圏を築いて1万年です。たった1万年で我々は、地球環境問題や資源・エネルギー問題など文明の問題を抱えています。
地球規模の文明、つまり地球規模の人間圏をつくる段階にならないと、知的生命体は宇宙の歴史を解読することができませんが、皮肉なことに、宇宙の歴史を解読する段階になると、地球規模の文明であるがゆえに、右肩上がりでどんどん拡大していくという発展はできなくなります」(182ページ)。