Center:117-東洋医学と西洋医学の融合へのアプローチ
東洋医学と西洋医学の融合へのアプローチ
〔2011年4月4日〕
今北純一『西洋の着想 東洋の着想』(1999年、文春新書)を見ました。いくつかの注目する点がありますが、ここでは著者が引用している渥美和彦の記事が具体化への実例を挙げています。
〔私の手元に、ある雑誌の切り抜き記事がファイルされている。「東西医学の超越」と題されたこの記事は、医学博士、渥美和彦東京大学名誉教授のインタビューをまとめたものである。
本質的に異なった東西の医学が本当に融合できるか、とのインタビューの質問に、渥美氏は、こう答えている。
「……東洋医学には独自の宇宙観・自然観があり、科学を超えたところに基盤があると考えられています。一方、西洋医学は科学に基盤を置いています。さらに東洋医学は心身は切り離せないという一元論、対する西洋医学は二元論ですし、診断方法も全体から見るのに対して局所的と、両者は本質的にまったく異なります。ですから、両者の融合は不可能で、従来と違う発想法が必要になると思います」
具体的にどんな医学になるのか、との質問に対しては、渥美氏の答は、
「将来さらに研究が進むと、東西の医学の中でその人の個性やその時々の状態に最適な医学が(158ページ)わかるようになると思います。Aさんの肝臓病には西洋医学、Bさんの風邪には東洋医学というようになると思います。その人の病気にどの医学がいちばん適合するかを考える医学が本当の医学になるのではないでしょうか」
そして東洋医学と西洋医学とを超越した第三の医学にたどり着くためのアプローチの方法を聞かれて、渥美氏は、東洋医学は「超科学」、西洋医学は「科学」だから、決定打といえるアプローチの方法はないが、あえていくつかの方法を考えてみると、と断った上で四つのアプローチを提案している。要点だけを引用しよう。
「まず一番目は、文化的なアプローチです。……医学は文化です。そこで文化人類学的見地から異文化を比較研究して、そこからそれぞれの医学の本質を引き出す方法が考えられます。
二番目は、東洋医学の経絡、鍼などの診断法や治療法を西洋医学の視点で検討して、解明する方法。……
三番目は宗教の分野に入りますが、キリスト教や釈迦、マホメットなどは手をかざして治療したといわれています。これも経験医学のひとつだと思うのです。……宗教の原則ともいうべき認識法をどのようにして生命をとらえたのかという観点から分析するアプローチの方法だと思います。
四番目は人工生命の研究です。魚が泳いだり、鳥が渡るというのは他愛もないことのように見えますが、これは生命の流れの現象なのです。この生命の流れをコンピュータに入れて人工(159ページ)的な生命をシュミレーションして考えるのが、人工生命の研究です」
これら四つのアプローチに共通しているのは、超科学的である東洋医学を、西洋医学の根底をなす科学的方法で解明することは、一体可能なのかとの一大テーゼ(命題)である。…東洋医学と西洋医学を超越したところに、第三の医学の創造を、渥美氏は直感しているのだ。(160ページ)〕
融合の前提となる、東西医学の違いまたは性格の把握、そして四つのアプローチの提案、いずれも参考になる意見です。
東洋の非分析的・全体的な事態の把握方法(認識のしかた)を、論理として表現する方法はどうなるのか。
西洋では芸術や思想などとして展開する傍らで、分析的方法がすすみ、やがて科学になりました。全世界的に活用しているのが現在かもしれません。
東洋では全体的な把握が分析的な表現にすすまず、芸術や思想やほかのいろいろなことの中に残りました。
しかしその中にも発展がありました。その発展したものを現代的な表現(言葉を含むけれども言葉に限定されない)でなそうとすることが、いま考えていることになるのかもしれません。