舌による感覚と感覚体験(1)
舌による感覚と感覚体験(1)―2の3-1
(2014年9月29日)
私は自分の舌が特別の動きをするのに気づいたのはいつのことだったか…たぶん小学生のころに少し変わっていることを知りました。
O字型に膨らませられます。U字型に丸められます。
舌の上下をひっくり返すことができます(付け根の部分は変えられませんが右側でも左側でも)。
舌の先端を上向き下向きに口の奥の方に曲げることができます(∩型にはできません)。
それによる利益はありませんでしたが、かなり器用に動かせるのです(食べ物の好き嫌いが多いのは味覚の敏感さによるはずで、これは別もの)。
『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記(下)』(1452年~1519年。岩波書店、1958年)の中に
「舌の主要な運動は七種ある。
すなわち伸ばす、抑える、縮める、膨らます、短くする、拡げる、細める」
(248ページ)とあります。
ここには丸める、曲げる、ひっくり返すがありませんし、膨らますは実態が違うかもしれません。
ダ・ヴィンチは画家として観察的な解剖学をしています。
舌は感覚器官としては味覚を担当します。
その感覚は内臓感覚とは違うのでしょうか?
『人体の不思議』では、舌と味覚をやや詳しく説明しています(82ページ)。
そのうえで「味覚には、まだ未知の分野が多い」(84ページ)としています。
「食物が口の中に入ると、舌が後方に動いて、食物を後ろへ送り、口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)の門を通って、喉頭蓋および咽頭の粘膜の上を滑る。
すると、咽頭は前上方へ引かれ、閉じていた食道の入口が開いて、食物が入る。
人を含めた哺乳動物では、口腔粘膜のほかに、喉頭蓋や咽頭にも味蕾のあることが、古くから知られている。
咽頭の味蕾は、気管に食塊が入らないように、喉頭が閉じる前に咽頭で味覚を受け、その情報を伝える働きがあるといわれている」
(85ページ)。
正統派の解剖学や生理学の説明では、このように味覚以外の感覚器官としての説明はありません。
手元の文献には舌に関する説明は少ないです。
『人類生物学入門』でも舌の説明はあまりありません。
後で見る『内臓とこころ』との関係では、乳児と母親・母乳の説明は参考になりましょう。
「注目すべきは、人類の乳頭の数と位置である。
…体幹が直立するとともに上肢が自由になり、育児にあたって子どもを胸に抱くためである。
つまり、サルでもヒトでも、乳児を胸に抱き、その顔を見ながら哺乳するわけであり、乳児も母親の顔をみながら乳房にすがることになる。
哺乳にあたって母子のスキンシップが満たされるばかりでなく、顔を見つめあうことにより、母子の紐帯が他の動物よりはるかに緊密になるといえよう」
(102ページ)。
このあたりは以前に読んだ『母乳』(山本高治郎、岩波新書、1983年)に詳しく書かれています。
舌の説明は少ないのですが、こうあります。
「新生児がきわめて鋭敏な味覚を持っていることは古くから知られています。
…彼らは甘・苦・酸を識別します。
単味の水と甘味のある水と、熱量を含んだ水を、そのときどきの必要に応じて弁別し、必要を充たしていきます」
(196ページ)。
「…乳首が唇に触れますと、口は自然に開いて乳首をくわえこんでしまうのです。
…乳頭が口の中に入ると別の反射が作動します。
吸啜反射と呼ばれる反射です。
吸啜は、下顎と舌によって母の乳首と乳輪を口蓋に圧し上げながら、前から後ろへと強い力でなでつけてゆく運動です。
…生理的な吸啜運動は、1分間100回前後のリズムでおこるきわめて律動的な運動です。
吸啜には下顎の活発な運動が伴っていますから、そのリズムは、容易に外から観察することができます。
…最初の抱擁において、このように吸啜反射が見られることは、生への第一の関門が見事に通過されたことを意味します」
(197-198ページ)。
この説明は解剖学や生理学とは少し離れますが、「西洋医学は病気を治す」ことに集約されてきたものとは少し違う説明になります。