自由選択方式のすすめ
自由選択方式のすすめ
―ひきこもっている人に訪問して話を聞くための手立て-
ひきこもって人に会わない、外出しない。家族もどこから手をつければいいのかわからない、このままでは行き詰まる。
そういうご家族への強制的ではない外とのつながりをつける方法です。
活用できるかを考えてみてください。
ひきこもっている人は訪問相談をしてもらうと聞くと、「何かをさせようとする」と身構えます。
訪問自体をいやがり、拒否します。何を話せばいいのかわからない、話すことはない、上手く話せない。
いや人は信用できない、人は怖いなどと感じている場合も少なからずあります。
それらを緩めるためにいろいろな経験から生み出したのがここで紹介する方法です。自由選択方式といいます。
もしかしたらそれならできそうと思えることを考えて、本人に提示する方法です。
家族(親)からいくつかの選択項目を示します。提示するのは1つではなく、5~6項目あるのがいいです。
なるべく具体的な提示にしたいので、何を提示するのかを事前に私と話し合うことから勧めます。
1回しかないと思って慎重に提案内容を決めます。
どんな内容なのか列挙してみます。各項目で1つずつ提案があるといろいろな提案が並びます。
提案は紙に書いて本人に渡すか、(読まないこともあるので)本人がよく見るところに張り出します。自室のドアとか冷蔵庫の扉などです。
1、自治体の相談窓口に一緒に行く―
ひきこもりの相談窓口、自立支援の仕事探しの窓口など自治体の相談窓口に家族と一緒に行くという提案です。
相談窓口に行くこと自体に意味があります。社会勉強ともいえます。
窓口で紹介を受けてどこかつながりそうなところがあればいいのです。
しかし、そうは期待できません。相談に行くこと自体が成果です。
2、技術収得・資格取得―パソコン教室(自治体など主催)に行きパソコンを使えるように習う。
経理学校に行き経理の勉強をし資格をとる。手芸や工作に関する資格など本人の趣味や得意分野の地味な資格でもいいと思います。
本人が関心を示すもの、していることをよく見て提案します。
3、働く方向に関すること―この中からさらに具体的にして提示します。
アルバイト先を探す・面接を受ける・履歴書を送る。週2回の比較的雇用されやすい所で働く。
親の知人などに頼めそうなところがあれば頼んでみると提案する。
年末年始や夏休みなどに短期集中で一度働く経験をする…など。
4、家族から離れて暮らす―こういう提案を考えた人もいました。
一人暮らしをするためアパートを借りる(当面の生活資金は援助する)、宿泊施設(牧場や農場など)への入所を勧める。
自動車免許を取るために宿泊型施設のある教習所を提案した人もいます。
5、誰かに訪問を受ける―この提案も入れます。
私が訪問することを予定するときは、「不登校情報センターの人に来てもらい話し合う」という提案になります。
他に訪問してもらえそうな人がいればそれを提案します。
6、もう一つは空白欄です―ここは本人自身がこうする、こうしたいと答えるところです。
親戚筋の事務所で働き始めた人がいまして、空欄を埋めて答えたのではありませんが、行動で答えを出してくれました。
親が具体的に提案したから本人は真剣に考えたのです。
親に相談しないで私のところ(居場所)に来る人も少なからずいました。
そういう人は自分で何とかしなくてはと、そういう行動で示したのです。
カウンセラーに行く人もいます。
これらの提示は、その家族の状況、当事者の状態によって実情に即した表現にした提案がいいです。
7、この提示には返事の期限を設けてください。
1週間から10日ぐらいで、「〇日までに返事がないと親で考えた方法にしてもらう」という主旨の話をします。
その結果、本人の回答でいちばん多いのが「5 誰かに訪問を受ける」です。
自分から動いたり自分から外出するものではありません。
他の提案にくらべて抵抗が少ないためだと考えられます。
そうはいっても「意識して訪問してほしい」と選んだのではなく、消去法によってそれが残ったばあいが多いものです。
強制ではなく、背中を押し動機づけるものです。
自由選択があるといっても半ば強制に感じることはあります。
回答の期限切れになった場合はこの提案に進めます。
「〇日から不登校情報センターの人に来てもらう」と決めるのです。
この形の「回答の期限切れ」による訪問を開始した人もいます。
「5 誰かに訪問を受ける」以外の回答があれば、それに応えます。
うまくいけばひとまず成功です。途中で行き詰まればもう一度はじめの原点に戻ります。
〔ノート〕この自由選択方式は2008年ごろ「強制的な“ひきこもり”引き出し屋」の方法に対して、他にどんな方法があるのかを私の経験に基づいてまとめたものです。
今回はその改正版に当たります。
会報『ひきこもり居場所だより』12月号を送るにあたり、十名余の方に同封しました。