筑紫女学園大学の子どもの居場所
筑紫女学園大学の子どもの居場所
所在地 | 〒818-0192 福岡県太宰府市石坂2丁目12-1 |
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TEL | 092-925-3511 |
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不登校の小中学生、大学が「居場所」になるのか
筑紫女学園大学の体育館で、大学生と一緒にバスケットボールやバレーボールなどを楽しむ不登校の小中学生
福岡県太宰府市にある筑紫女学園大学。
平日の昼間に大学の体育館をのぞくと、子どもと大学生、大人が一緒にボールで遊んでいた。
自由な雰囲気でワーワーと盛り上がっている。子どもたちは、いわゆる不登校の小中学生。
だが、「不登校」という言葉につきまとう暗いイメージはなかった。
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筑紫女学園大学は、太宰府市教育委員会と連携して、不登校の子どもの居場所づくり「キャンパス・スマイル」事業を今春スタートした。
同事業は、太宰府市内の小中学生を対象に、学校を休みがちな子どもの居場所を大学キャンパス内に作ろうというもの。
学内の研修を受けて認定された約80人のスマイル・サポーターが、子どもの伴走者として一緒に活動する。
同大には、教員や幼稚園の先生、カウンセラー、ソーシャルワーカーなどを目指す学生がいる。
彼女たちにとって、子どもと接する機会は学びとなる。
サポーターの1人は「私が中学生のとき、大学生のお姉さんたちが学校に来て一緒に過ごしてくれたことで救われました。
だから、今度は私がそんな存在になりたい」と活動に加わった。
■不登校の小中学生は増加の一途
文部科学省によると、不登校(年間30日以上欠席)の小中学生は2018年度に全国で約16万5000人となり、年々増えている。
不登校生の6割ほどが90日以上欠席し、長期化の傾向がある。
全国の自治体の約6割は、不登校の子どもが通う教育支援センター(適応指導教室)を設置している。
太宰府市では、登校したくでもできない子どもたちが通える「つばさ学級」を開設。小学4年生から中学3年生までを対象とし、今は18人が在籍している。
月曜から金曜まで学習・体験活動があり、学校長が認めた場合は学校の出席日数として扱われる。
キャンパス・スマイルは週2日開催。つばさ学級から月に1日8~10人が来るほか、自宅から通う子が7人いる。
来る日と滞在時間は自分のペースで選択できて、子ども1人に2人のサポーターがついてゲームやスポーツ、勉強など好きなことをする。
この日、キャンパス・スマイルに参加していたのは、つばさ学級の小中学生9人。
大学の食堂で昼ご飯を食べた後、本人たちの希望に応じて体育館チームと図書館チームに分かれ、サポーターと楽しそうに過ごしていた。
同行していたつばさ学級の教員は、こう話す。
「不登校のきっかけは、いじめとかではないんです。
イライラをコントロールできずに先生や友達とトラブルになったり、学校の大人数の前では自分を表現できずにかたまっちゃったり。
つばさでは一人ひとりに寄り添い、安心感を大切にしています。
対人が苦手な子には『例えば、こういうときはどうしたらいいと思う?』『相手はどう感じるかな?』と問いかけたり、毎週水曜はチャレンジの日として、できれば自分の学校に登校しようと提案したりしています。
でも、決して無理強いはしません。子どものエネルギーが回復したら、歩き出してくれるとわかっているから」
かつての教え子は、高校を転校しながらも卒業して大学生になった。
「つい先日、不登校児に関わるボランティアをしたいと連絡をもらいました。
『僕はあの中学の生活を大事に思っている』と言ってくれて、うれしかったです……」と目を細める。
事業を担当する筑女大の大西良准教授が、子どもに関わる活動を始めたのは10年ほど前。
夜間に徘徊していた女子中学生に勉強を教えてほしいと、保護司から依頼されたことがきっかけだった。
満足にご飯を食べたりお風呂に入ったりしていない子どもにも出会い、「居場所」が必要と痛感。
大学生と一緒に、子ども食堂や学習支援、生活支援などの場を作ってきた。
昨年、大学内の子ども食堂に教育委員会の職員が見学に来て、「大学で不登校の子どもたちを支援できるのでは」と奔走したことが、キャンパス・スマイル事業の実現につながった。
■大学が子どもたちの居場所となる
「ここ数年で日本の教育界は大きな方向転換をしました。
以前は不登校になると学校へ戻ることが第一でしたが、今は社会に出ていけるように支援する方向になっています」と大西さん。
「キャンパス・スマイルのおかげで学校に戻れたと報告してもらったこともあります。もちろんとてもうれしい。
ただ、無理して学校に復帰しなくてもいい。子どもがのちのち自立して、社会で生活していくことが大切なんです。
まずはここに来てくれることがありがたい。
大学が子どもたちの居場所となり、休息と活動でエネルギーをためて、自分で動き出すのをサポートしたい。
大学生が相手なら身近なお姉さんのように感じて、自分の趣味や思いを話しやすく、少し先の自分のことを考えるきっかけにもなっているようです。
これからも教育委員会と連携しながら、よりよい取り組みを広げていきたいです」
〔2019年12/13(金) 東洋経済オンライン 佐々木恵美:フリーライター・エディター〕