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浜松トランスジェンダー研究会

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浜松トランスジェンダー研究会

所在地 静岡県浜松市
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浜松市の「ブラック校則」がバズった舞台裏
「下着の色は白限定」「ポニーテール禁止」のようにあまりにも厳しく、不合理な「ブラック校則」。
昨年末から年明けにかけて、浜松市の「ブラック校則」とそれを見直す動きが話題となった。
その背景には、市議会議員と市民団体が地道な調査を行って、浜松市と教育委員会を動かしていたことがある。
PublicLabの小田編集長が、浜松市の鈴木恵議員にインタビューした。(JBpress)
※本記事はPublicLab(パブラボ)に掲載された「多様性こそ子供たちの財産。「ブラック校則」という見えない鎖を解き放つ」を再構成したものです。
(聞き手・文=PublicLab編集長 小田理恵子)
――鈴木さんが、ブラック校則について取り組み始めた経緯を教えてください。
2019年8月に、トランスジェンダーの中学生が私のもとに相談に来たのがきっかけです。
浜松トランスジェンダー研究会(以下:TG研究会)に同伴されて来たのは、身体的性別は女性ですが性自認は男性という生徒でした。
彼の話によると、入学当初から、セーラー服は着たくない、学ランを着て登校したいと訴えていたのですが、学校からの許可が出なかったそうです。
生徒指導からは制服で登校するルールだが、「皆に見つからないように体操服を着て早めに登校すれば良い」と指導されたそうです。
でも友達と一緒に登校したいから、嫌々セーラー服で登校していたそうです。
――体操服を着て早朝に一人で通えと言うのはずいぶん乱暴ですね。
TG研究会と一緒に来た当初、彼はずっとうつむいて声も小さくて。
セーラー服は着たくない、学ランでないと学校に行きたくない。
もう不登校になるしか・・・と追い詰められていましたね。
我々が話を聴くうちにだんだん顔を上げて話をしてくれるようになったので、やっと話を聴いてくれる大人に会えたという想いだったのだろうなと感じました。
――学校に理解がなかったのは残念な話ですね。
ここ数年で、LGBTに関する認知と理解は上がってきたと思っていたのですが。
その中学校では、その年の夏休みにTG研究会がLGBTについての講座を開催していたのです。それでも理解がなかったということですね。
私は以前よりトランスジェンダーの方と付き合いがありまして、そうした方々の悩みや置かれている環境はずっと気にかけていたんです。
そんな折、文部科学省から指針が出たので、それを受けてすぐに性的マイノリティに関する議会質問を行いました。それが2015年のことです。
当時の(浜松市)教育長からは「個別の配慮をするよう各学校に伝える」「教職員が性的マイノリティーについての理解を深めていくよう努める」と答弁があったのですが、それから4年経っても現場では合理的配慮がなされていなかったということですね。
――この生徒の抱える問題からブラック校則にはどう繋がっていったのですか? 
この話を聞いて「きっとほかにもまだ同じような子がいるに違いない」と考えまして、まず「なぜ男子は学ランで女子はセーラー服なのか?」を調べてみることにしたのです。
TG研究会と一緒に、浜松市内の公立中学校48校の校則を調べ始めました。
最初は保護者に聞いたり、SNSで情報を募ったりして、校則が記載されているものの写真を送ってもらいました。
これで23校ほど集まりました。
ただ、このまま進めても全校網羅するのは難しいと判断し、11月初旬に情報公開請求を出して全48校分の校則を集めました。
――校則って「校則」という冊子があるわけではないですよね。どういう形でどこに掲載されているのですか?
  各校バラバラです。何らかの文章として記載はされています。
でも媒体はさまざまですし、名称も「校則」と書いてあったのは1校で、あとは「生徒の心得」とか「〇〇中学校の一日」とか。
――それが「校則」だと認識していない場合すらありそうですね。
製本されたものが配布される学校もあれば、入学時に手引としてプリント1枚が渡される学校もあります。
それだと保護者が気づかず捨てちゃう場合もありますし、おっしゃるように、これが「校則」だと保護者や生徒が認識しているかどうかも不明です。
そうやって集めた校則を調べてみました。
最初は男子と女子の服装や髪型の違いなどを調べていたのですが、続々と「変な校則」が見つかりました。
例えば「うちわ・扇子不可」「マフラーは不可」。
暑さ寒さを我慢せよということなのでしょうか。
それから10校では「下着の色は白」と決まっていました。
下着の色をチェックするのは人権侵害ですよ。
――白い下着って、制服だとかえって透けますよね。
浜松市では48校中46校が登下校は制服でも、学校に到着したら即座に校内服(体操服)に着替えるという決まりがあります。
夏の校内服は白いジャージだから透けないように下着は白という理屈だと思われます。
しかし、終日体操服で過ごさねばならないので、体育の授業があっても着替えられず汗臭いまま一日過ごさなければならないこともあります。
だから制汗剤の使用について「制汗剤は無臭のものに限る」という校則がある学校もあるくらいなんです。
――つまり登下校だけ制服なんですよね。なぜ制服で授業受けてはならないのか理解できません。
「登校したら速やかに着替えること」と校則に書いてあります。
ちなみに上着の裾はジャージの中に入れるようにとも書いてあります。
――多感な時期に、上着の裾をズボンに入れた格好をさせられるとは・・・辛いなあ。
おしゃれとは無縁ですね。髪の毛は耳より上で縛ってはいけないのでポニーテールもダメです。
このように校則の中に、合理性に欠けていたり今の時代に合っていなかったりする校則が多く見つかりました。
いま公立の中学校には外国ルーツの生徒もたくさん入学してきますし、なにより生徒それぞれの個性や多様性を大事にしてもらいたいと思っています。
そうした中で、学校が下着の色や髪型まで指定するのは、生徒たちに無言の同質化・同調圧力をかけることにほかなりません。
そこで調査結果をもとに、12月の浜松市議会一般質問で、市に対して多様性の尊重という観点から校則に関する考え方を質しました。
教育長の答弁は、「グローバル化が進む社会の中においては、学校生活に必要な一定のルールやマナーは保持しつつ、多様な価値観を尊重する社会の変化に対応するように、常に見直され、更新されていくべきものである」
「生徒指導主事・主任に対し、多様な価値観を尊重する視点を持てるように研修を行った上で、校則についてより積極的に見直していくことを促していく」というものでした。
また市長からは「自主性や自発性を尊重することは重要である」という答弁を受けました。
――ほぼ満点回答だったわけですか?
  議会質問が12月10日だったのですが、教育委員会はすぐ動いてくれました。
全小中学校に校則を時代に合わせて見直す旨の通知を出し、12月24日には生徒指導の先生向けの研修会を実施し、そこで下着や靴下の色指定などの校則の見直しを促しています。
しかし校則の見直しは各学校長が決めることなので、どこまで改善されるかはわかりません。
本当は「生徒自らが考えたり話し合ったりする機会の提供」まで踏み込みたかったのですが、そこまではできませんでした。
教育委員会は市の組織中でも変えるのが難しい「聖域」ですよね。
そこをここまで動かせたのは、「当事者の声」と「全中学校の校則の分析データ」という両者をしっかり揃えたからだと思いました。
まさにEBPM(Evidence-based Policy Making、エビデンスに基づく政策立案)で教育委員会を動かした好事例です。
実はそれだけではないのです。それと同時にメディア対応も行いました。
議会質問は午前中だったのですが、同じ日の午後にTG研究会とともに記者会見を行い、校則の調査結果を公表しました。
地元紙2誌、全国紙3誌、テレビ局2社が参加し、それが各社から「浜松市のブラック校則」といった形で報道されたのです。
週刊文春デジタルに掲載された記事は2日間でコメントが4000に上るなど、社会の問題意識として広がりました。
その後もテレビ、新聞などの取材が続きました。
――私もこれらの記事がSNSでシェアされて何度も目にしました。
全国で「浜松市のブラック校則」がバズっていました。
それだけ世論の後押しがあれば市も動かざるを得ないですね。
そこは戦略的に進めました。メディア対応に関してはTG研究会に前面に出ていただき、議員である私は極力表に出ないようにしました。
議員はとかく自分が目立ちたがる傾向がありますが、メディアはそれを嫌いますからね(笑)。
当事者、団体、事実とメディア、うまく絡めて進めていく必要があると考えました。
――そこまで考えて進めていたとは驚きました。議会質問から3か月ですが何か変化はありましたか?  教育委員会からの指導はすぐに実現しましたが、先ほど申しましたように、校則は各校長の判断なので、そこをどう動かすかですね。
教育委員会の指導を受けて「靴の色は白」という指定を「何色でもよい」とすぐに変えた学校もあります。
それもどうかと思うのですが・・・。<br というのも校則については「どのような手順でどう修正・加筆していくのか、どこにも書いてない」のです。今後の課題です。
現在のところ、目に見える成果としては、新聞の切り抜きをもって三者面談に臨んだ保護者がいたり、自分ごととして新聞を初めてちゃんと読んだという生徒がいたりというところです。
今回の件を通して学校や社会との関わり方について考えてくれる、保護者や生徒が増えてきたのがうれしいことです。
校則に関する法的な根拠についても調べました。年明けに弁護士会に相談して、「校則はルールというより目標のようなもの。
守らないと学校に入れない、授業を受けさせないといったことがあれば「教育の義務」を果たしてない、つまり違法であると言える。
また指導であれば、教育の効果や合理性を明らかにしなければならない」という見解をいただきました。
教育は子供の権利であり、校則を盾にそれを阻害するようなことはあってはならないということです。
今後この解釈を前提に、何かあれば弁護士会の「子どもの権利委員会」への訴えなど進めていきます。
――今後浜松市の校則は変わっていくのでしょうか?
  校則を変えるとなると冊子等の差し替えなどもあるので、新学期の4月に刷新される可能性があります。
今はそこを注視しています。4月に調査します。
制服に関して、今の制服を丸ごと変えるのはとてもエネルギーが必要です。
ですから浜松市の「標準服」を提案しています。
「標準服」とは、シャツ、ジャケット、ベスト、スカート、ズボン、リボン、ネクタイなどの「基準服のパーツ」があって、その中から、好みや、暑さ寒さの感覚に応じて、組み合わせを子ども自身が選択できるものです。
ポイントは、男子は「この形」、女子は「この形」と2つにキッチリと分けないこと、特にジェンダーに違和感を持つ子どもたちや、暑がり寒がりの子どもたちにも対応できることです。
浜松の中学生は、既存の制服を着てもいいし、先に説明した市の標準服を着てもいいという選択型になったらいいなと提案しています。
これは北九州市の事例を参考にしました。
――お話を聴いていると、鈴木さんが真に願っているのは「子供たちが多様性・個性を持ったまま成長してほしい」ということなんだな、と伝わってきました。
昭和の時代は働き手に同質化が求められたかもしれませんが、これからは多様性・個性の時代です。
同質化した人材は不要となり、AIやロボットに置き換わっていきます。
しかし今の中学校は、同調圧力が強い場所です。他の生徒と違うことがいじめや不登校の原因となることもあります。
今の子どもたちが未来をたくましく生きていくためにも、理不尽な校則によって見えない鎖で自分たちを縛ることがないよう、私たちが手を差し伸べていくことが大事だと思っています。
〔2020年3/13(金) JBpress PublicLab編集部〕

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