活動記録・岡山吉備高原カウンセリングルーム
11年ぶりに働ける喜び
本城 稔
(株)I・B・P総合研究所
岡山吉備高原カウンセリングルーム所長
心理カウンセラー
「先生!私の弟が、10年間働かないでいるのですが、相談に乗っていただけないでしょうか!」
私が開催しているメンタルヘルスセミナーに参加されたKさんのお兄様がセミナーが終わってすぐに駆け寄っての第一声でした。
間もなくして、私のオフィス、岡山吉備高原カウンセリグルームにKさんとお母様と一緒に来られました。
大自然の中ゆったりとした流れの中で、Kさんが心ゆくまで3時間以上話しを聴かせていただきました。
Kさんは大学を卒業して、4年間は就職したのですが、担当の部門が変わったことをきっかけに退職され、10年間働いていないとのことでした。
働いていないのではなく、働けない状況にまで、追い込まれてしまった・・・・。
その10年間の心の葛藤は凄まじく「早く働かないといけない、仕事のことを考えると苦しい、親に申し訳ない・・・」という気持ちばかりで、焦り、イライラして、自転車を飛ばして、逃げるように本屋へ行くそこが唯一落ち着ける場所だったと・・・・。
そこへ行けば一時でも仕事のことを忘れられるから・・・と、苦しそうな表情で話しをされました。
そう思いこみ出すとすべてのことがマイナスになってしまい「どんな仕事についても、すべてうまくいかないのではないだろうか」という思考に囚われてしまって、自信がもてないと話されました。
ここで、第一回目のカウンセリングは終わり、第二回目に備えて、Kさんが自分らしく歩んでいくことを目指して、具体的な取り組みをしていくことから始めるようにと、自宅で成育史を書いていただくようにお願いしました。
成育史とは、今までの人生を1年ごとに区切り、印象に残っている出来事、両親を中心とした周りの人々から言われた言葉に対して、その時の気持ち、感情、心境、現在そのことについてどう感じているのか、そのことが現在の自分に影響していることはあるのか、と言うような心の中にあるもの、一つ一つ、丁寧に吐き出し、書き出す作業をしていただきました。
そしてその成育史を元に毎週一回のカウンセリングを通して、Kさんに合わせ、ゲシュタルト療法、認知行動療法など、さまざまな心理療法を取り入れました
カウンセリングが終わると、毎回、カウンセリングルームの大自然の中で自信を付けるため、2分間スピーチトレーニング、こころの栄養とエネルギーを充電するプラスストローク療法、大自然の浄化力を通して、心とカラダを癒す農作業療法などを進んで取り組んでいただきました。
半年経った頃から、具体的な就職活動に向けての準備をしていきたいという気持ちが芽生え始め、就職活動指導もさせていただきました。
Kさんの地元の求人広告、求人雑誌を持参していただき、職業の選択の考え方、履歴書の書き方、電話応対でのアドバイス、面接のアポイントの仕方、面接のロールプレイなどをトータルに実習を何度も繰り返し行い、少しずつ自信を付けて行かれました。
そのような取り組みをしていても、働きたい気持ち50%と逃げ出したい気持ち50%で心は揺れ動きます。その取り組みが、心理療法と並行してさらに半年がたちました。
求人の条件の中に「フォークリフト免許取得者優遇」という文字がよく目につき、迷いに迷って、その免許を取りに行くことにしました。
そして、めでたく、免許を取得できたのです。
そのことを通してKさんは、思いもかけないくらいに、自信がつき就職活動をする意欲が出てきました。
人に言われたからと言って変わることは出来ない。
自らが行動を起こそうと思わない限り、基本的に人は変わることは出来ないのです。
まさに、「自信があるから行動するのではなく、行動するから自信がつく」ことを自らが納得し、行動し、体験されたのです。
体を動かすことの好きなKさんは、物流の管理をする会社に入りました。
最初はうまくやっていけるかどうか、続けて働けるかどうか心配されていましたが、日ごとに仕事に慣れていき、今では毎日張りきって、休むことなく、働いておられます。
何より、喜んでおられるのはKさんのご両親です。
そのご両親様からの感謝のお手紙の一部をご紹介いたします。
「先生のご指導のお陰で、働き始め、毎朝お弁当持参で週5日1日も休まず残業もこなし張り合いよく出勤いたしております。
11年間、家にいたことが、嘘のようによく働いてくれています。
毎朝「いってらっしゃい」夕方は「おかえりなさい」を11年ぶりに気持ちよく、息子に言ってあげられることの嬉しさは遠い昔にこんな当たり前のように言っていたのに、今夢のように感じています。
毎朝のお弁当作りもウキウキ楽しくやっています・・・・」と。
このようなさまざまなご相談を通して、どの人にも無限の可能性があり、自分らしく歩んでいくことが出来ると確信させていただく日々を実感し、過ごさせていただいております。
Kさんのケースは、働けないことを周りがうるさく責め立てるのではなく、なぜそのような状況になっているのか、そうせざるを得ない気持ち、感情を聴かせて頂き、そっと見守る辛抱強い愛で、完全受容していくことにより、勇気と希望と自信を取り戻していかれました。
こちらの物差しではなく、相手の歩幅に合わせて、共に歩むカウンセリングをさせていただくことがとても大切なのです。