心的外傷の経験
心的外傷の経験
暴力や心的外傷を経験した子どもは加齢早い 論文
暴力や心的外傷を経験した子どもは、加齢が早まるとみられ、そうでない子と比べ、思春期が早く始まり、細胞には老化の兆しが多く観察されたとする論文がこのほど発表された。
論文によると、若いうちに逆境を経験すると、それが「生物学的に刻み込まれ」、後の人生で健康に悪影響を及ぼすとする研究はこのところ増えており、今回の調査結果もこれに加えられることになるとしている。
論文の共同執筆者である米ハーバード大学のケイティ・マクラフリン博士は、「今回の調査結果には、明白な実用的意義もある」と主張。
思春期を早く迎えた子どもの中から逆境を経験した子どもを探すと、早期に心身に問題を抱えるリスクのある子を特定しやすくなるかもしれないと述べている。
マクラフリン博士のチームは、約80の研究を分析。
二つの形の逆境が、思春期の始まりと細胞の老化マーカーにどう影響するかを調べた。
暴力または心的外傷(貧困以外)のいずれの場合も、これらを経験したことがある子どもは、その経験のない子どもと比べ、加齢が早まっていたことが示された。
研究によって数値は異なるが、暴力を受けていない子と比べ、繰り返し暴力にさらされる経験は、女児の初潮が最大で数か月早くなることに関係があると思われ、影響は小さいかもしれないが、思春期が早く始まることと、その後起きる心身の問題との関連はこれまでも指摘されているため、重要な意味を持つ可能性があると研究チームは述べている。
細胞の老化は、染色体の末端部を保護しているテロメアの短縮と、メチル基のDNAへの蓄積によって測定される。
こうした細胞の老化に関して研究チームは、暴力や心的外傷を経験した子どもの場合、実年齢よりも数か月から数年は年齢が上と思われる結果が出たと指摘している。
「(これらの測定法は)健康状態や、その後に訪れる死でさえも予測できる強力な手段だと私たちは理解している」とマクラフリン博士は述べている。
成人を対象とした研究では、細胞レベルでの生物学的老化の加速が、がんから心疾患に至るまでのさまざまな病気リスクの増加に関連しているとする結果もある。
研究チームはまた、子どもの頃に経験した逆境が、脳の外側の層、大脳皮質の薄化(加齢によって起こるもので、処理効率の増加と関係がある)にどう影響しているか、さらに25件の研究を精査した。
「ここから分かるのは、危険な環境で育つと、社会的・感情的情報を処理したり、脅威を特定してそれに反応するのを助ける脳の領域の加齢を加速させることだ」とマクラフリン博士は説明。
これは短期的には利点があるが、他の研究で示される通り、脳でこうした変化が起きると、精神衛生上の問題につながりやすくなる、と同博士は指摘している。
英ロンドン大学キングスカレッジのアンドレア・ダネーゼ教授は、マクラフリン博士のチームによる研究を評価し、「研究結果は、子どもの経験をより詳細に調べることで、生物学的老化の潜在的リスクを明らかにする可能性を示唆している」と指摘。
「暴力のように脅威となる経験は、子ども本人、家族、地域社会が持つ複数の特徴に関係し、今回の研究で観察された違いの主原因となり得るため、より深い理解が必要だ」と述べ、「それによって、私たちは因果推論を強化できるようになり、子ども時代の有害な経験に関係した健康上の負担を軽減するため、効果的な介入についての新たな情報を知らせることも可能になる」と続けた。
研究結果は、米国心理学会が発行する心理学紀要に掲載された。
【翻訳編集】AFPBB News
「ガーディアン」とは:
1821年創刊。デーリー・テレグラフ、タイムズなどと並ぶ英国を代表する高級朝刊紙。2014年ピュリツァー賞の公益部門金賞を受賞。
〔2020/8/10 The Guardian【記者:Nicola Davis】〕