対人ケア型家事以外の家事労働の社会化
対人ケア型家事以外の家事労働の社会化
〔2024年2月6日〕
教育誌の編集者をしていたころある小学校教師から聞いたことです。
「家の手伝い」を作文のテーマにしたところ子どもがなかなか書けなかったといいます。
かつては畑仕事とか風呂だきやごはんを炊くとなどの家の手伝いがありました。
今は「電気のスイッチを押す」だけが、ごはん炊きの手伝いという例もあったようです。
いや子どもばかりではありません。
かなり以前ですが「まな板のない家庭」というのを聞いた記憶もあります。
食事は外食か、出来合いの食材を買ってきて並べるということでしょうか?
これらは昔には考えられないほどです。
家事労働が減少しつつある事態が極端な形で表われる例です。
炊事(食事づくり)、室内整理・掃除、衣類準備・洗濯…などの家事労働の量は、減少に向かっているに違いありません。
要因の1つは外注です。家庭外に専門事業者が次つぎ生まれました。
食堂(レストランからカフェまで多様)、クリーニング店とコインランドリーは当たり前になりました。
室内掃除の外注利用は少ないですが家の整理・掃除の事業者もいます。
家事の分業化、社会化がかなり進んでいます。
要因の2番目は電化製品(家電)の発展と普及です。
特に冷蔵庫はどの家庭にでもあるでしょう。
掃除機も100%近いでしょう(ほうき・チリ取りはかつての主力から外れ、コロコロとともに補足道具)。
そして洗濯機もかなり普及しています。
これはコインランドリーの普及により普及率はある時期から下がっているかもしれません。
炊飯器とポット、オーブンの普及も高いはずです。
食器洗い機もできています。
家具器として減った物は、ミシンやアイロン(衣類の家事労働用)ではないでしょうか。
私の子ども時代にはTV、冷蔵庫、洗濯機はありませんでしたが、ミシンとアイロンはありました。
衣類の家事労働は、早い時期に減少し始めたものと思います。
家事として増えたのは、買い物かもしれません(?)。
食材(冷蔵庫)は日常の生活必需品であり、これを揃えるのが買い物です。
街中のスーパーなどでは、母親と一緒に子どもが付いてきて半分は手伝いになっているのも見かけます。
スーパーやコンビニの広がりは食材・日用品の買い物という家事労働の広がりに関係しているものと思います。
以上が家庭で見かける家事労働の変化(主に減少)です。
しかし家事を考えるときにはその環境を整えているもう1つは社会的インフラです。
とくに電気、ガス、そして水道・下水道です。
いずれも明治以降の社会の近代化がすすむなかで、都市域から始まり全国的に整備されました。
私の子ども時代(高度経済成長以前)に電気は通っていましたが、水道は整備を終えたところでした。
家が点在している地域では水道・下水道とも普及が計画されない地域もあります。
これは現在でもそうだと思います。
それでも多くの地域で井戸や洗濯場は減少しました。
公共(公衆)的色合いの強いもので、井戸や洗濯場地域によっては今なお存続しています。
まず電気が普及し、それが新しい電化製品(家電)の製作と普及を促したのです。
パイプによるガスの普及は住宅集合地では普及しやすかったのですが、持ち運び(移動可能)なプロパンガスがそれに代わって普及しています。
水道もガスと似た事情はありますが、地域内の井戸を利用する比較的小範囲の水道網を持つ地域もあるようです。
しかし100㎞以上も離れた水源地からパイプを敷設する水道事業も珍しくはあります。
要するに、電気・ガス・水道・下水道という生活に不可欠な社会的インフラの整備が進んだことが、家事労働の減少の背景にあります。
その社会経済的事情は、明治以降の、戦後の、とりわけ高度経済成長期以降の日本に順次整備されてきたことを認めなくてはなりません。
もう一回り外側に家事労働の変化を生み出す要素があります。
必ずしも家事に直結するのではなく一部は重なる要素です。
公衆衛生、交通・運送、通信および情報伝達の発展も関係します。
家事労働との結びつきは、電気・ガス・水道・下水道ほど直接的ではない面もあります。
公衆衛生では下水道の普及が重要です。
水道と同じく都市などの住宅集合地域ではほぼ完全ですが、住宅散在地ではそうもいきません。
古くから農業用肥として使われ、それ以外は自治体による回収が行なわれています。
銭湯(公衆浴場)も欠かせません。古くは家庭内で木材などを熱源とする風呂でした。
風呂焚きは家事になります。温泉地など特別の地域では地域浴場ができています。
他方、都市域では電気・水道による家庭用浴室の普及により、銭湯は減少傾向にあり、家庭用浴室のあるところでは家事の1つになります。
交通・運送および通信分野を見ると、明治以降全国に鉄道網が整備されてきました。
それが高度経済成長期を境として変わりました。
乗用車・トラックの利用増大と道路網の整備が進んだからです。
80年代の国鉄民営化以降、鉄道は急速に減少しその交通体制の衰退が続いています。
バスを公共交通の代替に勧められてきましたが、それも減少傾向にあります。
「買い物」の家事としての役割は自家用車の普及により大きくなっているのではないでしょうか。
都市域よりも郊外地や農山村地域では欠かせなくなっています。
通信と情報伝達の役割も大きな変化があります。
古くは新聞が中心であり、郵便制度が整えられ、ラジオが普及して全国的な情報伝達が行なわれました。
テレビが登場し大きく広がったのも1960年代の高度経済成長期と重なります。
いま新聞もラジオもTVもそして電話も、そして郵便物も全体としては斜陽期に向かっています。
代わって登場したのはインターネットであり、パソコンですが、今やそれもやや停滞してスマートフォン(スマホ)の時代です。
情報伝達も、日常の連絡もスマホが主流になりつつあります。情報伝達におけるスマホにはいろいろ弱点があり、ニセ情報・詐欺利用の増大など社会問題レベルになっています。
それでも歴史的には整備途上の不具合となっていくでしょう。
鉄道と郵便の民営化、インターネットと携帯スマホを運営するのは民間企業です。
これらはサービス向上をめざし、利用の安全性の向上をめざしていますが、公共性、公益性あるいはサービス提供の公平性において不安要素をもっていることは留意しておくことです。
公衆衛生、交通・運送、通信および情報伝も社会的インフラですが、家事労働にどういう影響をしているのかは十分明確ではありません。
ある部分は増え、別の部分は減っているところしょうが、家庭間の差が大きいように思います。
以上、対人ケア部分以外の家事労働を、私の中学生レベルの知識に頼って考えてみました。
家事労働については外注型(社会的分業の増大)と、電化製品等による家事負担の軽減化が進んでいます。
それでも炊事(食事)は家族の健康に関わり、「買い物」も含めて時間的にも大きな役割を持つでしょう。
これまでの家事労働の変化は商品開発・市場原理が作用した社会的分業=家事の社会化と考えられます。
「買い物」が独自の家事として増大しつつありますが、ウーバーイーツ型の配送業、住宅散在地や高齢化地域における移動式商店の登場などそこを補完ないし起点とする新しい産業の芽なのかもしれません。