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トランスジェンダーの子ども

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トランスジェンダーの子ども

新型コロナで男女別の分散登校 追いつめられるトランスジェンダーの子どもと制服の選択制
GID(性同一性障害)学会会場で行われた「選択できる制服」の人気投票
男女別の分散登校に困難を感じる子どもたち 
  新型コロナウイルス感染拡大とともに,教育の現場ではソーシャルディスタンスを保って授業を行う必要があり,分散登校が行われた。
学年別やクラス別,あるいは出席番号による振り分けなどが行われる中,東京都や埼玉県など複数の自治体では,男女別の分散登校を実施していたとされる(注1)。
心の性と身体の性とが一致しないトランスジェンダー(性同一性障害を含む)の子どもにとっては,自身の希望しない性別で扱われることは非常につらいことである。
男女別に登校日を決められることで学校に行くことができなくなる子どももいる。
「制服の選択制」を訴える2つの署名活動
東京都江戸川区の中学校における男女別の分散登校の実施を知ったことを契機として,区内に住むトランスジェンダー男性(心は男性,身体は女性)の高校生が,スカートの制服がつらかった中学時代を思い出し,署名サイト「Change.org」で「江戸川区の制服を選択制にしてください!」と訴えている。
並行して仙台でも,すでに性別適合手術を受けて戸籍上も男性となっているトランスジェンダー男性が「宮城県でも中学校、高校の制服が選択出来るように要望致します」と署名活動を始めた。
トランスジェンダー(性同一性障害)の子どもたちの不登校や自殺
岡山大学ジェンダークリニックを受診する性同一性障害当事者(トランスジェンダーのうち医学的な治療を求める人々)約1,000名のデータを見ると,半数強が物心ついた頃から,そして約9割が中学生までに性別違和感を持っている(注2)。
特に小学校に入学すると,持ち物,トイレ,各種の活動などが男女別になることが多くなる。
トランスジェンダーの子どもにとって,希望しない性別での学校生活を強いられることも多く,つらい経験となりやすい.
実際に,ジェンダークリニックを受診する性同一性障害当事者の約3割が不登校を経験している。
また,約6割が自殺願望(自殺念慮),約3割が自傷・自殺未遂の経験を持っている。
不登校や自殺願望は小学生から見られるが,中学生の頃には高率となる。
これには,自身の身体が希望しない性の特徴を持ち始める二次性徴が起きることに加えて,自身の希望しない制服を着なければならないことが影響している。
学生服と自殺願望
中学生の頃の自殺願望の原因として「制服」を挙げたトランスジェンダー当事者は約25%にも及んでいる.
特に,トランスジェンダー男性にとっては,スカートをはくことに大きな苦痛を感じるため不登校の大きな原因となっている。
このためトランスジェンダーの子どもが希望する制服を選択できるようにすることは不登校や自殺を防止することにつながる。
2015年の文部科学省の通知における「性同一性障害に係る児童生徒に対する学校における支援の事例」の中にも,服装への対応として「自認する性別の制服・衣服や,体操着の着用を認める」としており,早急な改善が求められている(注3)。
制服メーカーの取り組み
岡山は世界に誇るデニムの生産地であるが,学生服に関しても国内シェアの約7割を占めている.
学生服の生産では大手と呼ばれる3社も全て岡山県内に本社を置いており,種々の研究・開発を行っている.
現在,多くの学校で採用されているブレザータイプの制服も岡山発祥である。
ダイバーシティ(多様化)社会を反映し,トランスジェンダーの児童・生徒のため,「スカートとスラックス」「ネクタイとリボン」などを「選択できる制服」,あるいは「右前左前のないジャケット」「ユニセックスなズボン」などを組み合わせた「ジェンダーレス制服」などの開発が続けられている。
さらには,学校の教員がトランスジェンダーの児童・生徒へのサポートに関する相談ができる体制をとっている制服メーカーも見られる。
教員の意識は?
トランスジェンダーの児童・生徒の制服についての教員へのアンケート調査の結果を見てみると,「正規の制服を着るべき」との意識が強いことがわかる(図1).
FTM(トランスボーイ:心は男性,身体は女性),MTF(トランスガール:心は女性,身体は男性)ともに,小学生までは5割弱の教員が「希望する服装」での登校を認めていたが,中学生以上になると約3割と低下する。
このように「全員が制服を着て来ることは重要」と考えている教員は多いことがわかる.
このデータを前提とすると,「制服の選択制」,すなわちトランスジェンダーの子ども自身が選択できる多様なスタイルの制服を正式な形で採用しておくことが必要である。
図1.トランスジェンダーの子どもが希望する性の服装で登校することへの対応は可能か?(当研究室が実施した小中高校の教員への調査結果から)
  トランスジェンダーの子どもが望む性の服装で登校することを「対応可能・構わない」とする教員は,子どもが小学生の場合は5割弱,中学生以上の場合は約3割と低い。
図1.トランスジェンダーの子どもが希望する性の服装で登校することへの対応は可能か?(当研究室が実施した小中高校の教員への調査結果から)
  トランスジェンダーの子どもが望む性の服装で登校することを「対応可能・構わない」とする教員は,子どもが小学生の場合は5割弱,中学生以上の場合は約3割と低い。
「選択できる制服」は誰のため?
学校で制服を選択できるようにするためには,「なぜ,いろいろあるの?」という質問をしてくる子どもに対して,教員や保護者などが適切な回答を準備しておく必要がある。

このことは,大人が「性の多様性」について知り,そして考える契機になる。
制服の選択制は,トランスジェンダーの子どもへの特別な対応ではなく,全児童・生徒が対象となるべきである。
「寒いのが嫌」「パンツスタイルが好き」「足を見せたくない」などの理由でスカートをはきたくない子どもも多いと考えられる.
誰かへの特別な配慮ではなく,ユニバーサルデザインの概念で,すべての人にやさしい制服の採用,あるいは多様な組み合わせを認めることが求められている。
また,トランスジェンダーの子どもが,学校の中で感じる困難は制服のことだけではない.
この制服の問題を契機として,トランスジェンダーの子どもが生きやすい学校にするために,さらなる議論が広がることを期待する。
図2.学校におけるトランスジェンダーの子どもの課題と対応について書いた本の表紙(注2).子どもたちはどこに向かって走るのだろう。
図2.学校におけるトランスジェンダーの子どもの課題と対応について書いた本の表紙(注2).子どもたちはどこに向かって走るのだろう。
言葉の意味】
◆トランスジェンダー:身体の性(そして,それにより社会に割りあてられた性)と心の性(性自認)とが一致しない状態であり,自身の身体の性を強く嫌い,その反対の性に強く惹かれた心理状態,すなわち性別違和感を持つ。
◆性同一性障害:トランスジェンダーのうち,ホルモン療法や手術療法などの医療的対応を希望する人々が治療を受ける場合の診断名.
2022年をめどに,「障害」という言葉がなくなり,性別不合との診断名に変更される予定。
【参考】
(注1)男女別登校は「人権侵害」と専門家が指摘.1人の母の疑問に賛同の声.ハフポスト日本版,2020年6月16日。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5ee818d4c5b6ddc7bdcaa8fb
(注2)中塚幹也:封じ込められた子ども,その心を聴く:性同一性障害の生徒に向き合う.ふくろう出版,2017年.http://www.296.jp/books/data_books/t1501583556/index_html
(注3)文部科学省:性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について.2015年4月30日.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/27/04/1357468.htm
【Change.orgに開設されている2つの署名活動サイト】
◆江戸川区の制服を選択制にしてください!
◆宮城県でも制服を選べるようにしてください
中塚幹也 岡山大学教授 産婦人科医 GID(性同一性障害)学会理事長
産婦人科医(岡山大学病院不妊・不育外来,ジェンダークリニックで診療)。
岡山大学大学院保健学研究科・生殖補助医療技術教育研究(ART)センター教授(助産師,胚培養士(エンブリオロジスト)等の養成・リカレント教育)。
GID(性同一性障害)学会理事長(LGBTQ+,特に「性同一性障害・トランスジェンダー」の医学的・社会的課題の解決に向けて活動).
岡山県不妊専門相談センター,おかやま妊娠・出産サポートセンターセンター長。
妊娠中からの切れ目ない虐待防止「岡山モデル」の創始,LGBTQ+支援,思春期~妊娠・出産~子育てまでリプロダクションに関する研究・教育・実践活動中.インスタ #研究科長のひとりごと
〔2020年7/28(火) 中塚幹也 岡山大学教授 産婦人科医 GID(性同一性障害)学会理事長〕

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