スポーツ推薦
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不登校を生む教育現場の課題(2)「スポーツ推薦」「スクールカウンセラー」の真実―― ☆
子どもが不登校・ひきこもりにならない/から脱出するための子育て術
私立校で不登校や退学になりやすい背景に、スポーツ推薦制度があります。
若者の不登校・ひきこもり問題に30年以上支援活動を続け、延べ1万人以上の生徒を立ち直らせてきた著者が、事例を踏まえて解決の糸口を贈る『不登校・ひきこもりの9割は治せる』(7月18日発売・光文社刊)より、不登校を引き起こす教育現場の内情についてご紹介します。
「スポーツ推薦」、「スクールカウンセラー」編です。
◆スポーツ推薦は退部=退学?
もうひとつ、私立校で不登校や退学になりやすい背景に、スポーツ推薦制度があります。
昨年は日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル事件を皮切りに、スポーツ現場でのパワハラ問題が相次ぎましたが、事の本質は同じです。
朝日新聞記者の中小路徹さんのスポーツ推薦や部活動の問題に迫った『脱ブラック部活』(洋泉社)という本にも詳しく現状が書かれています(私もこの取材に協力しています)。
スポーツの強豪校では、部活動の成績が学校の知名度や評価に直結しますから、監督やコーチも、勝てれば何をやってもいいといったマインドになりがちです。
先輩からのしごき、いじめもあります。
相談を受けたあるケースでは、柔道部で先輩からのいじめがありました。
団体戦に出られる選手は1年生から3年生までを含めて5人だけなので、実力のある1年生が、試合に出られない3年生の先輩に猛烈ないじめを受けるのです。
こうしたことはたいてい、大人が見ていないところで起こります。
相談に来た生徒は、先輩から「締め技ってこうなんだぞ」と死にそうになるくらいの技をかけられたり、わざと耳をつぶされたり、指一本だけを持って背負い投げされて、けがをしたりしたといいます。
こうしたパワハラを受けて部活を辞めようとしても、スポーツ推薦で入学した場合、部活を辞めてしまうと、事実上高校生活自体を続けられなくなります。
部活のスポーツばかりをやらされて、きちんと勉強を教えてもらっていないので、スポーツ推薦の生徒が在籍するコース以外の普通コースに移れないのです。
実際にあったハルトくん、リュウタくんの例をあげます。
【ハルトくんの事例】
(現在、通信制高校2年生。野球のスポーツ推薦で高校入学後、不登校になり、退学)
中学3年生の時、ある大会で活躍したハルトくんが、都心の私立高校のスカウトの目に留まり、チームの監督の薦めもあり、この私立高にスポーツ推薦で入学しました。
順風満帆に見えたハルトくんでしたが、野球部のグラウンドが電車で1時間以上かかる郊外にあったのが誤算でした。
朝は5時に家を出て、朝練をこなしてから授業を受け、放課後に部活でみっちり練習して帰宅すると、いつも夜10時をまわっていました。
監督や先輩からのいじめはなかったものの、あまりに厳しく長時間にわたる練習で、身も心もすり減ってしまったのです。
勉強して大学進学を目指す普通コースと、部活で結果を出して推薦で大学進学を目指すスポーツコースでは、校舎の場所も違い、グラウンドのすぐ隣がスポーツコースの校舎でした。
当然、部活を休んだのに、学校だけに行ける雰囲気ではありません。
ハルトくんは部活に出なくなると同時に、学校にも行かなくなりました。
行かなくなって1週間くらいしてから、学校だけに行ってみたのですが、ハルトくんが教室に来ただけで、クラスの空気が一変したといいます。
「異様な空気で、とてもその場にいられませんでした」とハルトくんは振り返ります。
スポーツコースから普通コースへすぐ移りたいと学校へ願い出たものの、受け入れてもらえず、それ以来、学校へは一度も行かず、1年間ひきこもってゲームばかりしていたそうです。
その後、ひきこもりから脱出して、通信制高校に編入学しました。
ハルトくんは「スポーツ推薦で入学すると、あまり勉強は教えてもらえずにスポーツばかりやらされますが、そのスポーツがうまくいかなくなったら、学校にいられず、進学の道も閉ざされてしまいます。
将来生きていくためには、やはり勉強して高卒資格を取ったり、大学に進学したりすることが大事です」と言い、今は大学受験に向けて勉強しています。
【リュウタくんの事例】
(現在、通信制高校2年生。サッカーのスポーツ推薦で私立高校に入学し、先輩から執拗ないじめを受けて退学。その後通信制高校で高卒資格取得を目指している)
リュウタくんは幼稚園生の時にサッカーを始め、地元のクラブチームでめきめきと力をつけて、小学生の時は全国大会で活躍し、海外へサッカー留学していました。
現地では朝から昼までサッカーの練習で、昼ご飯の時だけ日本語学校へ行き、ご飯を食べながら勉強しました。
午後はまたサッカーの練習をして、サッカー漬けの毎日を送っていました。
中学校3年生で日本へ帰国すると、全国の高校からスポーツ推薦入学のオファーが来たといいます。
そのなかのひとつのサッカー名門高校に進学しましたが、リュウタくんは1年生なのに最初からレギュラーで特別待遇だったことが、先輩たちのいじめにつながりました。
いじめをするのは、レギュラー以外の2年生、3年生です。
部室に呼び出され、先輩たちに周りを囲まれて、スパイクで体を蹴られるなどの暴行を受けました。
いじめは半年くらい続いたといいます。
監督もまるで独裁者のようで、自分の思った通りにしないと、試合にも出してもらえず、個人攻撃されたそうです。
「自分のプレーの質も落ちるし、モチベーションもなくなった」とリュウタくんは退学しました。
現在は通信制高校で高校卒業資格を取るのを目標にしながら、同時にクラブチームでサッカーの練習をしてプロを目指しています。
これまで見てきたように、私立校で不登校や中退、ひきこもりが生まれる背景はさまざまです。
ただ、学校側がその対策をとっているかどうかといえば、私は不十分だと考えています。
◆スクールカウンセラーへの過剰な期待
私立側が不登校対策としてよくあげているのが、スクールカウンセラーです。
「スクールカウンセラーが週に3日来ているので相談できます」などと、胸をはって言いますが、私に言わせれば、何の解決にもなりません。
なぜかというと、カウンセラーは聞くだけだからです。受容して肯定するだけなのです。
「不登校なのです。どうしたらいいですか」と相談しても、「そうなのね、不登校なのね」と言うだけ、肯定するだけで終わってしまいます。
確かに生徒や親の気持ちを肯定することも非常に大事ですが、そこから先に進めません。
また、スクールカウンセラーは外部委託の場合が多く、学校内の人間関係もほぼわかっていません。
「A先生がこうで、B先生がこう言った」と相談されても、わかってあげられないのです。
「ああ、B先生、ちょっと面倒臭いところあるよね」などと生徒に共感してあげることもできません。
ですから、適切なアドバイスをしにくいのです。
「スクールカウンセラーに相談して、カウンセラーさんと仲良くなったはいいけど、その後、結局何も事態は変わらず困っています」といって当会に相談に来るケースはよくあります。
当たり前ですが、先生は自分のクラスの担任だけでなく、教科ごとにいます。9教科あれば9人の先生がいるわけです。
担任の先生に悩みを相談できればいいのですが、担任の先生と相性が合わない場合もあります。
それなら別の先生に相談すればいいのです。
すると、学校内の人間関係もよくわかっているので、生徒の納得するアドバイスができるのですが、最近多い外部委託のカウンセラーでは、ほとんど話が通じなくなっているのです。
不登校の子が学校へ行くようになるために、ひきこもりの子が自分の部屋から出てくるために必要なのは、カウンセラーのような自分と全く違うポジションにいる人ではありません。
一番効果があるのは、親でも先生でもない、ちょっと前まで自分と同じ体験をしていたような、同じくらいの年齢の友達と関わることなのです。
〔2019年8/24(土) 本がすき。〕