Center:2004年11月ー「ニート(若者無業者)」に向き合う
「ニート(若年無業者)」に向きあう
〔「しんぶん赤旗」2004年11月2日〕
インタビュー・ひきこもり経験者への支援を通じて考える
アルバイトも職探しもしていない若年無業者「ニート」。
社会や他者と積極的にかかわれず、「ひきこもり」との共通性も指摘されています。
どんな働きかけをしたらいいのでしょうか。
ひきこもり・不登校を経験した若者を支援するNGO・不登校情報センター代表の松田武己さんに聞きました。
聞き手・坂井希記者
不登校情報センター代表 松田武己さん
3年前、政府がひきこもり対策を出しました。
都道府県・指定都市に置かれている精神保健福祉センターや保健所を拠点に、相談活動や家族会づくりの支援を強化しようというものです。
厚生労働省の「厚生」の取り組みとして、医療的、心理的な対応が主でした。
私は、労働の側面からの対応がいずれ必要になると思っていました。
今回、ニート対策を同省が打ち出したことには、同じ問題意識があると思います。
今後は教育の側面からの施策も必要でしょう。
学校教育で薄れてきた人間発達や〝人間関係づくり〟にかかわるものです。
生きる道見いだせず
私たちのところに集まる若者のなかには、一度も就職したことがない人や、一度は仕事に就いたが「二度とあんな世界に戻りたくない」と感じる人たちがいます。
彼らに共通するのは、先天的に感性が敏感なことです。
いつも周囲に気を使い、自分の思いを率直に伝えられません。
「もっとテキパキと臨機応変にやれ」などと言われてもできません。
そういう姿が周囲とは波長があわず、いじめや非難の対象になりやすい。
自己否定感がいっそうつのり、社会に踏み出す意欲を失うのです。
決して怠けているわけではなく、むしろ誠実です。
完ぺきをめざして手が抜けないためにテキパキとできない。
また、〝もうけやカネが最優先〟といった価値観に拒絶反応を持つ人も多いのです。
たとえば、販売会社に就職しても、「自分がやっているのは押し売りではないか」と思ってしまい続けられない。
問題は、自分の能力を発揮すること、理想に近づくことと、現在の社会のあり方が一致しないことです。
おとなはよく「仕方なくやったんだ。世の中こんなものだ」などと自分の体験を語りますが、彼らは「そういうのに自分は染まりたくない」と思うわけです。
だからといって自由気ままに生きているわけではない。
むしろ自分の生きる道が見いだせずに、苦しんでいます。
取り組み 到達点は
私たちのところでは、2年前に仕事おこしを始めました。
「外では無理だが、ここの仲間となら働ける」という声が、三十歳前後の当事者グループからあがったからです。
最初は書店を開きましたが、条件がなく、成功しませんでした。
そこでそれに加えて、パソコンや印刷機を譲り受け、文書入力、ヘルプデスク(パソコンの設置などの援助)、印刷、発送、ポスティング(チラシの各戸配布)の請け負いを始めました。
毎月の収入はだいたい8万円前後。
ここ2年での最高は37万円でした。
20人見当で稼ぐので、一人あたりの取り分は平均で数千円。
小遣い程度にもなりませんが、これが到達点です。
政府は若者の自立支援にとりくむNPO(民間非営利団体)に期待しているようですが、実際に成果をあげるには大きな困難があります。
成果を焦らず、育てるつもりで見て評価してほしい。
合宿形式で労働体験や生活訓練を行う「若者自立塾」も一つのやり方だと思います。
でも「訓練」という言葉には「自分が納得していない社会に適応を迫られる」という響きがあります。
“財界が使える人材づくり”に流れないようにしてほしい。
「引きこもり」もそうですが、ニートの増大は若者たちの現状に対する“静かな反乱”という側面があると思うのです。
マルクスに「各人の自由な発展が社会の発展に結びつく」という言葉があります。
私は大事だと思うのはそれです。
若者が、自分の可能性や希望を生かすことと社会がよくなり発展することがつながっている、一致すると感じられる社会をつくる。
それが現状打開の方向ではないでしょうか。