冲方丁『天地明察』
冲方丁『天地明察』
『天地明察』と『塵劫記』の文庫本
『塵劫記』(じんこうき)という岩波文庫が本棚にあります。
いつ手に入れたのかは覚えていません。
1977年発行ですが、実は江戸時代初期(1620年代)に書かれたものの現代版です。
事典に手を出しやすい私が、安いものだからとりあえず手に入れ、捨てずにとっておいた本というところです。
おおよそは当時の数学書というべきですが、校注をしている大矢真一さんの解説によると「江戸初期経済生活の百科事典と言うことができる」(258ページ)そうです。
読み散らかしては乱雑な書き込みをする私の手持ちの本にしてはそれらしき書き込みが皆無です。
読むよりも事典なのでそうなっているのでしょう。原著者は吉田光由という人です。
この本の意味を意外なところから知る羽目になりました。
最近、ある人から多数の本を寄贈されたのですが、その中に『天地明察』という角川文庫の上下2冊があります。
作者は冲方丁(うぶかたとう)さんといいます。
江戸時代の初期に大和暦(貞享暦)をつくり(1684年採用)、旧来の宣明暦を廃した渋川春海の物語、歴史創作物語です。
物語には『塵劫記』だけではなく当時のいくつかの数学書(当時はまだ数学という言葉がなかった)や、和算の創始者・関孝和なども出てきます。
科学という言葉がなかった当時ですが、自然に関するかなりの理解が進んでいたことを教えてくれます。
高校時代の教科書に関孝和の名前があって西洋の近代科学に続く数学(ライプニッツやニュートンなど)に比べて、和算は実用的な学問ではなかったと教えられたのですが、あれは何だったのか。教科書をつくった人の無理解だったのかと思います。
手元の『塵劫記』を見るに、日本人の学問の歴史は、風土と生活に根ざし、西洋におとらず独自の発展を遂げていたと思わずにはおれません。
『天地明察』の2冊も捨てがたいです。
暦作成の過程以外にも、当時の時代認識や神道の見方が斬新に思えます。
〔2015年11月26日FB〕