成人した当事者が性格を変えるのに必要なこと
成人した当事者が性格を変えるのに必要なこと
〔2014年11月21日〕
18日に書いた「気質は変わらなくとも性格は少しずつ変わる」は、一般論として“正しい”と言えるのですか。こう問われました。
私に知識を与えてくれたのは『性格』(宮城音弥、岩波新書、1960年)です。
「知能とならんで、感情的な面にも、先天的で固定したものがある。これを気質という。気質を中心として、環境の影響で、次第に後天的な行動様式がつくられてゆく。これが狭義の性格であり、また、道徳的、社会的な意味をもつ人格である。これは気質よりも変化しやすい」(5ページ)。
人間の成長とともに全ては変化するものですが、比較的変化しやすいものと変化しづらく固定的と思えるものがあると私は理解してきました。
それを要約的に言うと「気質は変わらなくとも性格は少しずつ変わる」になります。それを経験による実感から18日は書いたのです。
しかし、厳密に言うとさらに奥行きがあり微妙な点はあります。
少し前に『脳と心はどこまで科学でわかるか』という東大社会人科学講座の1冊を入手しました(南山堂、2009年)。
そのなかの「意識を分子で語る」(石浦章一)ではこう書かれています。厳密性にふれています。
「人間のパーソナリティというのは、いろいろな個人の持つ、精神的、社会的、身体的、いろいろな総体ですが、その中で、気質と呼ばれているものと性格と呼ばれているものがあります。生まれつきのものを気質といって、学習するものを性格と、定義するわけです。この生まれつきの気質というのは、神経質とか、新しいものがあるとすぐに飛びつくという性質が相当します。後は、冷たい人、温かい感じというのも気質です。もともと、生まれつき決まっていると言われています。
ところが性格とは何かというと、人と仲良くする協調性というのが、その典型的なものです。後は、クリエイテイビリティ、創造力、何か新しいことをつくり出すというのも性格です。これは、学習だけによるものです。
その他に、宗教を信じる、これは、学習だけで決まります。俺は人を押しのけて社長になるんだというような、人を押しのけるという性質も性格だと言われています」(23ページ)。
こう書かれると、何を気質とし、何を性格と分けるのか迷うものが出てきます。
だ、気質は先天的、性格は後天的というのは最近の脳科学の裏づけがあると感じます。
相談事例や当事者との接触から考えると、性格は容易には変えられません。
成人の場合、意識的に努力を続けている範囲では努力が続かないほどです。短期的な結果を求めては、上手くいかないはずです。
目標のための行動を日常化し、性格を変えようとする意識が落ちてもそれをしている状態があり、その環境に身を置きつづけることです。
だから長期戦にならざるを得ません。その先に変化が現われる実例をみて書いたのです。
自分の肯定面を受け入れ、否定面をニュートラルに見るように心がけることですが、多くはそれを実感するまでに目標を失くし、その意識がなくなるのです。
居場所をそのために有効な場にするには、性格を変えたいと思う本人が“カスタマイズ”していくことです。
“カスタマイズ”とは、可能な条件を生かして自分仕様に有効にすることです。これは居場所を運営する人のスタンスに左右されます。
不登校情報センターの居場所は、各自が自分なりの居場所の使い方をするのを大幅に認めているつもりです。禁止事項が少なく結局は“ゆる~い場” になります。それでもそこをどうするかに取り組むのは当事者です。
「何となく居場所に通いつづけている」状態が長くなって、結果が出るというのが居場所設定者である私のねらいとなります。
「自分を変えたい!」という雰囲気が感じられる時点では、まだ何も始まってはいないのかもしれません。
同様なことは、家庭や家族関係を考える方向にも共通します。
居場所とは別の力学や感情が影響しますが、そのあたりを考えるのが親の会です。