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労働といふは死ぬ事と見つけたり

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労働といふは死ぬ事と見つけたり

新しいアイディアが浮かぶのは風呂、トイレ、寝床に居るときと相場が決まっているそうな。
先日夜中にふと目が覚めると、突然脳裏に言葉が奔った。
「世の中には話している相手の気持ちを汲もうとしない人のほうがずっと多いのではないか」。
なぜ自分は友人と話している時ですらひどく疲れるのか、逆になぜ自分以外の大抵の人間は他人と話していても疲れる様子がないのか。
長年疑問に思っていた問題に対してようやく一つの回答が得られた思いがした。
私は常に相手の言葉の裏にある感情や意図を読み取ろうとしながら聞き、この場はどういう言葉が求められているのかと頭をフル回転させながら話す、というのが当たり前になっている。
例えて言うなら常に現国の試験を受けている感覚だ。
「傍線部aの際の話者の心情についてn字以内で答えよ」(配点2)をひたすら解いているようなものだ。
だが実際の会話は試験とは違いじっくり考える暇などない。
次々と話題が展開していく。
だから限られた時間内に適切な回答をしなければならない。
そして相手は一人とは限らない。
話す相手が多くなるほどその処理はより複雑で高度なものになるから加速度的に疲労が増していく。
いつもそんな七面倒なことをしているから疲れるのだ。
そしてだからこそ独りになることがない。
自分で言うのも何だが、私はこれでけっこう友人には恵まれている。
大学時代だけは入学間もない頃に対人関係のトラブルが続いたことで人と接することを半ば拒否していたが、それでも親友と呼べる友人は出来たし、彼との交友関係は今でも続いている。
それは私が常に相手の言葉に誠実に向き合おうと努力してきたその姿勢を評価してくれる人がいるからだと思う。
だが一方で相手の感情を汲もうとしないタイプの人間もいる。何も考えていないとか、空気が読めないとかいった話ではない。
シンプルに、言葉は言葉、それ以上でもそれ以下でもないのだ。
幽霊や死後の世界が存在しないのと同じように、存在を知覚できないものはそもそも存在しないと考える。
だから行間に込められた意図などないし、表向きの言葉の裏にある別の解釈などは存在しないのだ。
なるほどそうやって割り切って考えるのであれば相当負担は軽くなる。
そしておそらくそういうタイプのほうが多数派なのだろう。
だが私は相手の言葉の裏にあるものを読み取ろうと努力するのが当然だと思っているため、そこには大きな温度差ができる。
結果、自分はそうしているのに相手には自分の気持ちを汲んでもらえないと感じてしまう。
その時私にとって会話とは半ば相手への一方的な奉仕になっている。
結果、相手が私と話すのを快いと思ってくれていたとしても私の方は辟易してしまう。

それが分かったところで身に染み付いたものは変えられない。
今更言葉以上のものを受け取らないようにするということはできない。
ただやはり相手に多くを求めないようにしたほうが良いだろうとは思う。
勝手に期待することがなければ、勝手に失望することもない。
話は変わるが上の姉からPCとプリンタの無線接続が分からないのでやってほしいと頼まれて履歴書印刷を手伝った。
姉は以前から仕事を転々としており、昨年独学で保育士の資格を取って保育園で働き始めた。
だが女性の多い職場ならではのドロドロとした対人関係や、同僚が手のかかる子どもへ雑な対応をすることが嫌になってしまったそうだ。
一度はまた別の保育園に勤めたものの、結局以前やっていた事務の仕事に戻るつもりらしい。
そういったことを何度か繰り返しているから職歴の欄がずいぶん多い。
一般的にはこうして職を転々としていることはあまりプラスには見られないだろう。
ただそれが私には納得行かない。
「傷は男の勲章だ」というのなら、この経歴の「キズ」も勲章ではないのか?
少なくとも私には真似できない。
前の仕事をやめてからもう一度就職を決意するまで五年かかった。
姉は少し、いやかなり抜けている所の多い人ではあるが、その立ち直りと切り替えの早さは尊敬している。
そうやって他人のことを尊敬している暇があったらさっさと自分の仕事を決めろという話ではある。
それでもようやくここへ来て決意が固まってきた。
よくよく考えてみれば腹を括るのも首を括るのも大して変わらないではないか。
首より前にここはひとつ腹を括ってみよう。
その順番を逆にはできないので仕方ない。
駄目だったらその時こそ首を括れば良いのだから。
労働といふは死ぬ事と見つけたり。

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