今西家の物語
今西家の物語
種類・内容 | |
---|---|
所在地 | 〒 熊本県宇城市 |
運営者・代表 | |
TEL・FAX |
皆さんは、家族というものを思い浮かべるとき、どのようなカタチをイメージしますか。
大家族? 核家族?
年々増加する未婚化や晩婚化、少子化など社会情勢や環境によって変化する家族のカタチ。
同性の婚姻カップルや事実婚も認識されるようになり、近年は家族の多様化が進んでいます。
さまざまな家族の中から、今月号は里親家庭を考えます。
■今西家の物語
市内にもたくさんある家族のカタチの中から、松橋町の里親家庭、今西さん宅を尋ねてみました。
◇今西家のカタチ
今西家は、父・母・長男・長女・次女の5人家族。
中学生になる姉妹はそれぞれ、2歳半で今西家にやってきた。
母の美奈子さんは長男の出産時に医療事故に遭い、2人目はもう望めないとの宣告を受けた。
「でも、命を助けてもらい、私にも何かできることはないかと考えるようになりました。大家族に憧れもあって――。」
長男の小学校入学のタイミングで宇城市へ引っ越し。
美奈子さんは、里親になりたいと夫に相談し、里親登録をした。
それから、八代乳児院でボランティアを始める。すると、半年後に児童相談所から姉妹の委託について打診があった。
わが子として迎え入れる特別養子縁組を希望していたが、受けた話は18歳になるまで預かり育てる養育里親。悩んだが、姉と面会してみることに。
すると、顔を見るなり大泣き大暴れ。
初めての出会いは交流とは程遠いものとなった――。
それから、関係づくりのため、半年間乳児院へ通った。
小さい子の面倒を見るのが好きだった長男は、一歩引いて姉妹を優先。
それでも、「妹は夜になると寂しくて泣くけれど、本当は自分も寂しかった。」と当時の作文に気持ちをつづっている。
周りから、「お兄ちゃんにも目を向けてあげなんよ。」と言われるほど、美奈子さんは必死だった。
体調を心配する両親からは反対の声も上がっていた。
さらに、自分をどの程度まで受け止めてくれるか探る姉の試し行動は1年にも及んでいた。
その後、落ち着き始めたのもつかの間。2歳半になった妹を迎え入れるとまた元に戻ってしまう。
にこにこしていたのに急に「助けて〜」と店員に言ったり、ブロッコリーが虫に見えて、料理を食器ごと投げたり…。
連日夜通し泣き叫ぶので、美奈子さんは気力も体力も消耗。
「本人もつらそうだし、息子にも悪い影響を与えているかも知れない…限界かな…。
誰かに困難を分かってもらいたいけれど、守秘義務がある。今日まで頑張ろう。明日だめだったら連絡しよう。
当時は気持ちを共有できる場が少なかったんです。」
発達の遅れがあることは後から分かった。一連の行動は、発達障害の特性である感覚過敏も影響していた。
それからは、療育センターやデイサービスへ親子で通い、息子や自分にかける時間はさらになくなっていく。
しかし、本人の状況を考えると、一時保育やファミリーサポートに預ける勇気はなかった。
しばらくすると、夜泣きが安定。「信頼してくれている? うちが拠(よ)り所(どころ)になったのかな?」と、うれしさがこみ上げた。
◇母、家族という概念
「2人共、母という言葉を知ってはいるけれど、概念はなかったんです。優しい人はみんなお母さん。
だから、優しい人について行ってしまうことも。でも一緒に暮らすことで、段々と理解するようになって。
母の日に手紙もくれるんです。ささやかな出来事の一つ一つが幸せです。」
◇多様化する家族を考える
「2人共、年長になる誕生日を迎えた後にそれぞれ告知しました。
小学2年生で名前の由来や生まれた時のことを紹介する授業があるからです。
やはり娘たちにとってはつらい時間となりました。」
しかし、いろいろな角度から物事を考える大切さを知る機会となったと美奈子さんは話す。
◇愛情の再確認
今のように里親支援専門相談員がいない時代に心強い存在だったのは、乳児院の先生。
何かあれば相談できるという安心感があった。
告知後も娘が不安そうにしていたので、施設へ連れて行った。
すると、「ごはん食べて寝ていたところ覚えてる?」と優しく声を掛け、案内してくれた。
「記憶は薄れていましたが、当時かわいがってくれていたことを再確認できたようです。」
施設内ではサロンや交流会、同窓会もある。運動会にも誘ってもらった。
開かれた施設は里子にとって心強い味方。不安も解消され、自然と落ち着きを取り戻していった。
◇みんなが応援団
「多くの人と接し、子どもたちが甘えたり頼ったりできる人や場を作りたい。」と今西家が話すように、地域のみんなが応援団。
たくさんの優しさに包まれ暮らしている。
「近所にもご理解いただいて、大声も通報されずに済みました(笑)。」と美奈子さん。
「里親にならなかったら出会えなかった人たちとの出会いで、私たちの視野も広がったように思います。」と続けた。
◇家族の想い
姉妹は、療育手帳の交付を受け、今では支援学校でのびのびと育っている。
母「悩みは尽きませんが、〝まぁいっかぁ〞をモットーににぎやかに暮らしています。」
父「血のつながりがなくても、一緒にいれば家族になれますね。」
息子「里親家庭の実子、貴重な経験だと思います。」
姉妹「お母さん、漫画も料理も上手。でも、仕事は無理しないでほしい。
幼い頃は不安もあったけど、みんな優しくてうれしかった。みんな大好き。」
〇今西美奈子(いまにしみなこ)さん、今西智雄(いまにしともお)さん
今西さん夫婦は、2021年九州社会福祉協議会連合会会長表彰を受賞した
〔広報うき 令和3年10月号〕