Center:2000年11月ー専門家一任でなく背後で応援しよう
専門家一任でなく背後で応援しよう
*「進路指導のはざまで」『中学教育』2000年12月号。
19歳になる和良君のお母さんから手紙が届きました。和良君は中学2年以来不登校で、定時制高校に入学した生徒です。
入学直後に、担任から「不登校のとき何をしてたの?」ときかれ、下を向いて黙っていたら、「黙っていたってわからないでしょ! ちゃんと真っすぐ前を見なさい!」という調子の言葉に和良君はそまま休み始め、間もなく中退してしまいました。
中学2、3年生のときから不登校が始まり、卒業後どうするのか母親 が相談に来るケースは多数あります。全日制高校に進学した麻美さんは数日で登校できなくなり、家に引きこもりがちですが、やがてパソコンに熱中するように なりました。ときどき母親に暴力的に反抗するとのことです。
勇子さんは進学せずアルバイトを始めたのですが3か月たったころそれをやめ、やや引きこもりの生活に入りました。
智仁君は全日制高校に入学したのですが、籍を置いたままで農村地域の宿泊施設にはいりました。
そこを2週間ほどで『イヤだ』と断わり、別の宿泊施設に入り直しました。全日制高校は退学になり、2つ目の宿泊施設もやめ、東京に戻ってサポート校に籍を移しました。しかしここも実際には行きません。智仁君もときどき母親に暴力的に反抗することがあるようです。
中学校を不登校のまま卒業し、生活が安定せず、進路も決まらない子どもたちは多数います。ある子どもは引きこもり傾向になり、ある子どもは暴力的な形で、特に母親に向かっていきます。
私は、この子たちの多くが「休むこと」を必要としていると思います。引きこもり傾向にあるのは、対人関係に 恐怖心や不信感があり、それを生みだすだけの背景をもっていると考えていいでしょう。人と会うことを避ける方法が引きこもりです。その二次的状態として、 他人の目を気にしたり、自己否定感を強くしていることもあります。
暴力的な形に出るのは、自分さがしの成長過程が阻害され、自分の意思とは別に前進するレールが敷かれ、その不安感や理解がされないことの不満が爆発するのではないかと思います。
概して、引きこもり的な不登校の子は、内向的で、生まじめな子が多いのです。暴力の背景を考えてみることが必要です。
初めに紹介した和良君の場合は、母親があるときから「待つ」姿勢になり、母親の知人でスキーペンションを開設している人から、「ずっといていいよ」とアルバイトに誘われ“転居療法”を提供されたことが重なり、19歳にして生活と精神状態が安定しました。お母さんからの手紙はその経緯を述べたものでした。通信制高校に入学し直すようです。
待つ方法は、個人的事情に左右され、全てに共通の特効薬的なものはないと感じます。ただ、教師も親も、協力者(必ずしも専門家ではない!)を求めながら、協力者任せ(別名を一件落着方式)に陥らず、子どもの背後に離れていて、応援する姿勢でいることは共通しているように思います。