アイデンティティの話
アイデンティティの話
会報『ひきこもり周辺たより』2024年10月号
アイデンティティとはよく耳にする言葉ですね。
曲のタイトルや歌詞、テレビやゲームなどで聞いたことがある人もいるかもしれないですね。
アメリカの心理学者E,Hエリクソンは人間の人格の発達段階を8段階に分けて、それぞれの段階での重要なテーマとその形成について理論化しました。
この中で、第5段階の青年期の主題がアイデンティティの確立です。この青年期にいろいろな物事に挑戦することで「自覚、自信、自尊心、責任感、使命感、生きがい感」をもてる自分の生き方を選び取る。そんな段階だと述べています。
ちなみに彼の言うところの各段階は
1)乳児期:「信頼感vs.不信」 愛情豊かな母親的存在から「生まれてきてよかった。大丈夫」という安心を学ぶ時期
2)早期幼児期:「自律性vs.恥・疑惑」 自我が芽生え、「自己主張」と、両親から「我慢」を学ぶ。反抗期でもある。
3)遊戯期:「主導性vs.罪悪感」 遊びの中から「自分の本当にしたいことをする」ことを学ぶ。独創性、創造力が培われる。
4)学童期:「生産性vs.劣等感」 集団の中で社会の仕組み、ルール、基本的技術を学び「なんとかやっていける」という自信を学ぶ。
5)青年期:「アイデンティティ統合vs.拡散」 挑戦することで「自覚、自信、自尊心、責任感、使命感、生きがい感」をもてる自分の生き方を選び取る。
6)初期成人期:「親密性vs.孤立」 他者と本当に親しくなることを学びとる。
7)成人期:「生殖性vs.自己吸収」 社会で働くことでアイデンティティを実践し、次世代を育てる。
8)老年期:「統合性vs.絶望」 たった一つの人生を「ああ、よい人生だった」と受け入れることができる。
ということです。
と、こんなことで人の一生を述べています。
ちょっと回り道をしましたが、この説によればアイデンティティは青年期に確立し、自分は何者として生きていくのかという覚悟や自覚ととらえた方がよいようです。
しかし、日本にこの説が入ってきた当時、ニートという言葉などが社会問題化した時期と重なり、文科省では高校生に対してアイデンティティを将来の職業・仕事と結びつける教育が盛んになされたようです。
その結果もあるようですが、青年たちの間に「アイデンティティ・クライシス」ということが起きてきているという話も聞きます。
アイデンティティの危機! という心理的な危機です。
自己同一性が保てなくなる。
「自分は将来どのような人間になるのか」「自分にはどのような仕事ができるのだろうか」「本当に自分が目指しているものは何なのだろうか」というように将来の自分自身に迷いを生じることが発端となって悩みの中にいる青年が増えてきているようです。
肉体的には大人でありながら現実的には大人と同じように活動できていない自分自身に対して空虚感や不安が積み重なり、アイデンティティ・クライシスに陥る青年が、「他者や社会の中での自分らしさ」を見つけて確立していくには時間と経験が必要ですよね。
その中で急がずゆっくり「自分は何者なのか、どういう人間なのか」を見つけていってほしいものです。
そして自分にしかないアイデンティティを大事にしてほしいものです。