動きのない生活はセロトニン神経の機能低下
動きのない生活はセロトニン神経の機能低下
ひきこもり経験者のホームページを見て有田秀穂さんは現代の生活が、とくに子どもにどう影響するのかを次のように書きました。
「ここ約20年間で起きた生活環境の変化…をもう一度ここでまとめてみましょう。
少なくとも子どもを取り巻く環境はバブル経済を経てその延長線上にあり、子どもたちには何不自由ない生活が保障されています。
少子化によって、個室ばかりか、早い時期からAV機器やパソコンを手に入れ、子ども部屋は一種のアミューズメントパークのようになっています。
そこにテレビゲームまで出現、おかげでゲーム漬けの生活に突入していきます。
テレビゲームのバーチャルな世界は現実との乖離を増幅していきます。
こうして、閉じた世界にひきこもり、ゲーム漬けの生活を続けることで、常識では考えられない事件を発生させる温床が形成されていきました」。
有田秀穂『セロトニン欠乏脳』(生活人新書、2003)。
有田さんがいう「ここ約20年」というのは、この本の出版が20年前なので、およそ1970年代後半以降の時期になります。
現代人のゆたかな生活、高度経済成長で達成しさらに情報社会に向かう大きな変化の時期に、子どもの生活に変化が表われました。
有田さんはその生活が身体的にはセロトニン神経の機能低下になると説明し、私はそれがひきこもり発生の背景事情になると考えます。
これらは全てのひきこもり経験者に当てはまるわけではなく、またセロトニン神経の機能低下が自動的にひきこもりになるわけでもありません。
人の行動や生活状態の全部を1つの原因で説明することはできません。
個々の要素はいろいろな環境条件と組み合わさって表われますが、セロトニン神経の機能低下を引き起こす生活はその要件の1つに欠かせないのです。
これは子どもの生活に影響が強く表われますが、生まれたての新生児にはあまり当てはまらないでしょう。
しかし成人した以降の大人には当てはまります。
なぜならそのセロトニン神経の機能低下(セロトニン欠乏脳)は、遺伝的な問題ではなく、ある種の生活習慣病(後天性)になるからです。
この要因によるひきこもり経験者は、発達障害の様子と似ていると思います。
両者が区別されるのは脳神経系の先天的(遺伝)と後天的(生活習慣)の違いがあるからです。
発達障害やひきこもりの支援現場ではこの区別が難しいときがあります。
区別を優先して対応するのがいいわけでもありませんので、頭の片隅におく程度でしょう。
有田さんはセロトニン欠乏脳の内容をかなり詳しく説明しています。このエッセイはその部分を大幅に省きます。
ここではひきこもり状況の人に欠かせない2つの神経の働きを挙げます。
セロトニン神経とノルアドレナリン神経です。
セロトニン神経は、睡眠中に停止し覚醒とともに低い頻度でインパルスを発生させます。
インパルスによりセロトニン(神経伝達物質)を情報伝達にして全身に送ります。
のための
これでからだは動きの準備状態になります。
生理的な呼吸、循環、消化(咀嚼)など平静期の生命維持のための活動です。
人が活動的な働きをするときにはノルアドレナリンが働きます。
ノルアドレナリン神経は脳内の危機管理センターの役割を担います。
その興奮は大脳皮質を強く活性化し、覚醒レベルを上げます。
これがストレスを回避する各種の行動や自律神経反応を引き起こすのです。
『ひきこもり国語辞典』にこういうことばがあります。
〇 戦闘民族の顔:「30台にして初めて仕事に就いてから数か月。
その職場に誘ってくれた人が…顔の表情が変わってきているのを戦闘民族の顔…と評しました」
仕事に就くというのは運動と太陽の光を浴びる生活なのです。
そこをおもしろく表わしてくれました。
セロトニン神経の機能を回復するのは、リズム運動と太陽の光です。
リズム運動には、散歩、ラジオ体操、呼吸法、チューインガム、階段昇降など運動量の激しくないものが多いです。
日常生活の中でからだを動かすと自然にできています。
動かない生活ではこの機能は低下し、動き出すのをつらく感じるものです。
セロトニンの材料は食べ物から採りますが、食べ物の役割は二次的です。
セレトニン合成の材料は食品から摂取するのですが、有田さんは食べ物よりもリズム運動と太陽の光を採ることが重要であるととくに強調しています。