セロトニン仮説
セロトニン仮説
発達障害の一つである自閉症は、コミュニケーションが苦手、社会的相互作用が成り立ちにくいといった「社会性の障害」や、反復的行為や一つのことへのこだわりといった「脅迫的な行動様式」を主な症状とする。
自閉症の発症割合は150人に1人程度と言われ、最近は世界的に増加傾向にある。
原因については不明なところが多く、治療薬など有効な生物学的治療法も見つかっていない。
自閉症の病態を説明する有力な説の一つに「セロトニン仮説」があり、古くから研究が行われてきた。
例えば1960年代に、一部の自閉症者では、血中セロトニン濃度が上昇していることが指摘されている。
また、セロトニンの原料となるトリプトファンが欠乏した食事を続けることにより自閉症の症状が悪化すること。
選択的セロトニン取り込み阻害剤(SSRI)の投与により、社会性の障害や強迫的な行動様式といった自閉症の症状が改善することが報告されている。
日本でも浜松医科大学らが、PETを用いた研究で自閉症の全脳のセロトニン系(脳内セロトニン・トランスポーター密度)の変化を調査し、広範な領域でセロトニン・トランスポーター密度が低下していること及び、これが自閉症の社会性の障害や強迫的な行動様式と関連していることを明らかにしている。
これらのセロトニン異常がどのように自閉症に関係するのかは分かっていなかった。
このほど、理化学研究所らは、モデルマウスを使った実験で、発達期のセロトニンが自閉症発症メカニズムに関与する可能性を明らかにした。
研究では脳内セロトニンの役割についての新事実を解明したとともに、発達期におけるセロトニンの重要性を明らかにしている。
今回、研究グループは、ヒトの15番染色体重複と同じゲノム異常を持つモデルマウスを解析。
セロトニンの供給元である中脳の縫線核の働きの低下及びセロトニン神経の投射先である大脳皮質での感覚刺激の応答異常を発見した。
さらには、モデルマウスの発達期にSSRIを投与することで脳内セロトニン量を回復させ、上記の異常を改善することに成功。
同療法によって、モデルマウスの社会性行動異常が改善された。
自閉症の神経伝達系の変調に働きかけ、症状を軽減するのに点鼻方式のオキシトシンスプレーの有効性が示されているが、同様にセロトニンを用いた実用的な治療法についても研究が進められることが期待される。
〔財経新聞(編集担当:久保田雄城) 2017年7月15日〕