里山ICT能開学校
所在地 | 北海道さいたま市 |
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ページ名 里山ICT能開学校 兵庫県上郡町 (居場所・兵庫県、)
特集 負担にならないような歩幅で、私もいっしょに。里山ICT能開学校(2)
旧鞍居小学校で35年間教壇に立ち、学生指導や就職支援も務めた尾鼻(おばな)弘光さん。
悩んでいる若い世代に思いを寄せ、「里山ICT能開学校」を設立しました。
出身地に空き家が増えつつあることからヒントを得て、空き家を活用した様々な取り組みも進めています。
若者、そして家族と向き合う尾鼻さんの姿勢から、人間関係を築くために大切なことを教わりました。
■一泊二日の車中泊
私が情報システムの専門学校で働いていた当時、「コミュニケーションの部分で就職大丈夫かな…」っていう学生がいたんです。
そのような学生を送り出すところの一つに、「山の学校」という県の進路支援の学校があって、私も何人か送り出したことがあるんです。
その当時、大学や社会人を経験して、新たにITを勉強する若者も専門学校に入ってきていたんですけど、既卒の学生でも同じようなケースがあったんです。
それで、山の学校に相談をしたら、「二十歳超えた子を受け入れていない」と言われました。
当時、そういう条件があって「そうなんや。しょうがないな」って断念したことがあります。
それで、空き家を活用して、そういう若者をITの技術者に育てて活躍できる場を、自分でつくれないかなと思って、徳島県の神山町に車中泊で、一泊二日で行ったんです。
そこは、1時間かけてスーパーに行くような地域なんですけど、インターネットの基盤が整っていて、東京のIT企業の若者がどんどん来て、生き生きと仕事をしているんですよ。
ITの環境さえ整っておけば、場所はぜんぜん関係ないんですね。
だから、「これは、もうやろう!」って決めたんです。
それで、神戸の空き家相談会があったんで行きました。
そのときにちょうど上郡町役場の人も来ていて、「今の話、もう一度教えてもらえませんか?」と声をかけられたんです。
それで、こんな取り組みをしたいと説明すると、「実は、旧鞍居小学校に視聴覚教室があるので、一回見に来てもらえませんか?」と提案してくださって、それがはじまりでした。
■現実と向き合うために
引きこもりの子というのは、経済感覚がないことがほとんどです。
自分の将来を描けていないので、正直、生きていくために、月に、年間で、どれくらいお金がかかるのか、イメージが全くできていないんです。
親がいなくなったら、水道光熱費などを自分で払っていかなければいけない現実があるわけです。
そのイメージもできていないので、この学校では、ライフプランを立てて、どれくらいお金が必要なのかを考えさせているんです。
そうすることで、自然と自分が生きていくためにこれだけのお金がいるんだと気づいてくれたらいいなと思っています。
自分で考えていくうちに、「親はそれだけやってくれていたんだ、親がいなくなったら、自分はそれだけのものを収入として確保しなければならない」そういうことを自分で気づけたら、「アルバイトをやってみようかな」という風に、一歩を踏み出せるんです。
そんな一歩を待ちながら、時期を見逃さずにやっています。
それと、時間の感覚もない子がほとんどです。昼夜逆転の生活をしているので。
就職の支援をやってきて、正直、企業が引きこもっていた人を受け入れるのはなかなか難しいです。
なぜかと言うと、生活のリズムが乱れているから。
「8時から仕事が始まるけど、大丈夫?」と聞かれても、朝起きて日中活動するリズムができていないと、実際に働くのは難しいですよね。
筆記試験をして少し点数が足りなかったとかじゃなくて、引きこもりの理由で、不採用になってしまうんです。
そこの課題を解決するために、「この学校に毎日通っていました」と言えたら、企業側も「じゃあ、一回会ってみようか」という風に、面接に進めるんです。
企業もできるだけ採用活動の費用を抑えたいので、働くにあたって不安要素が少ない人を採用した方が明らかに楽ですよね。はっきり言われたことがあります。
「普通の生活習慣が身についていない人を採用した場合、負担が大きくて、そこまで人を育成する余裕はないです」と。
今来ている若者は、はじめ昼の2時に来ていた子がいますけど、それが1時になって、今は11時まで早くできています。
生活リズムをだんだん早くしていっています。
■オンライン授業
この学校をやっていくなかで、ITの技術者を育成するという趣旨があって、そこで私が引きこもりの支援をしている。
これは、鞍居地区の皆さんのご協力があっての取り組みです。
ただ、ご家族としては、引きこもりの子がいることを知られたくない。
できれば家から出てほしくない。周囲の目線を気にされるところがあるんでしょうね。
その点で言えば、授業のオンライン化は、周囲に知られずに外部とつながることができる。
それと今月、学校の近くの空き家を活用して、少し気が向いたときに自宅から出て、ひとときを過ごせる場所を開設したんです。
■オンライン上にも「居場所」を
今回、兵庫県から委託を受けた「電子居場所」の事業は、学校に通えるようになる前の段階としてまずは、コミュニケーションの土台づくりをしようと考えています。
コミュニケーションを取りながら、「ホームページ制作に興味や学んでみたい気持ちはありますか?」と、話を切り出してみて、そこで「技能を身につけたい」という気持ちになった段階で、オンライン上で学んでもらうように考えています。
次に学校に来れる段階になれば、実際にホームページ制作の仕事を、と段階を追うように進めていくつもりです。
電子居場所は「きっかけづくり」なんですよね。「あ、こんな方法があるんだ」ということを、まずは知ってほしい。
それは、本人もそうですし、悩んでおられるご家族もそうですね。
以前、新聞に掲載してもらったときに、孫を心配しておじいちゃんが龍野から来られたことがあるんです。
世代を越えて悩んでおられるんやなと感じますね。
■気持ちの整理ができないから
この学校に踏み出せたあと、「就職とか、これからどうするの?」といったことは、タイミングを見て言わないといけないですね。
来て少ししか経っていないところで言ってしまうと、私との関係がだめになってしまう。
だから、「この”尾鼻”という人間は、なんか違うな」っていうような関係づくりを、まずはしっかりやっていく。
そうすれば、自分から話してくれるんですよ。
ちょうど今来ている子が、昨日「一人暮らししたいです」って言ったんです。
もうすぐ、来て3年になるんです。やっとですよ!自分から。
多分、私から焦らすようなことを言っていたら、だめなんですよね。
時間はかかるかも知れないけれど、どこかで階段を上がってくれる。そのタイミングがどこかにあるんです。
そのタイミングが来るまで、じーっと待っているんです。
私はその間、親のブレーキ役になるんです。ご家族は「早く立ち直らせてほしい」ということを言われるんですよね。
ですけど、私は「それを言ってしまうと、学校に来なくなりますよ」って伝えるんです。
とりあえず来て、来れている状態を維持することが大事。元の状態に戻ると、「もういやだ」となってしまうので。
本人もわかっているんです。頭で考えているから。それを言葉にできない、行動にできない。
人間、困っていることを相談して、相手に言われて「そんなんわかってるわ」っていうことあるじゃないですか。
たとえば異性関係で、うまくいかなかった。
「男も女もいくらでもいるやん」「そんなんわかってるわ!」っていう話と同じです。
気持ちの整理ができないから、悩んでいるんです。
だから、新しい彼氏や彼女を見つけたらって言われても、簡単にできたら苦労しないよって思うのと同じですよね。
■支援ってなんだろう
いろんな悩みのなかで、「支援ってなんだろうな」って考えるんです。
10人いれば、10通りの支援の仕方がある。
でも、引きこもりの子だから特別ではなくて、みんな違って当たり前なんですよね。家族でもそうでしょう。
毎日顔を合わせて「今日、ちょっと言葉を選ばなあかんな」とか「今日は、結構好きに言ってよさそうやな」というのと同じなんです。
そこを常に考えながら、一緒に歩んでいく。
この学校で言うと、しんどそうにしていたら、「(請け負っているホームページ制作の)写真を撮りに行こうか」なんて声をかけて「この時季ベストやな」とか話すんです。
やっぱり恵まれた自然環境に助けられます。そこが、都会と違うところ。
暑い寒いを感じられるのは良いことですね。
以前、私は車で学校まで来ていたんですけど、特にすごく寒い冬でした。マイナス8度だったと思います。
そんななか、佐用から50分かけて原付(原動機付自転車)で来ている子がいたんです。
それで私、車なんか乗ってたらあかんなと思って、バイクで来はじめたんです。
自宅から10分くらいですけど、マイナス8度のなかを走っていたら、学校近くの標識が見えた時点で、手が痛くて痛くて、仕方ないんです。
そんななか佐用から50分かけて原付で来ている子がいたら、「今日寒いね」なんて整然とした言葉は出ないですよ。
「今日、痛いな!」って言ったら、やっぱり通じるんですよ。
「よくこんななか50分辛抱したなぁ!」っていう会話になるんです。
そういう風に、身をもって自分も同じような環境に持って行く、それが大事だと私は思っています。
そうでないと、「この人が言っていることをとりあえず受け止めてみようか」って思ってくれないんです。
世間一般の、整然としたことを言っても届かないですよね。
さっき言ったように、みんなわかっているんですから。
本人の気持ちに立って考えていく必要があると思います。
本人が悩んでいる部分に共感していくことが大切ですね。
すると、やっぱり変わっていくんです。
■あたらしい居場所
この学校を卒業して、就職した子もいます。仕事が終わってからでも、どこかで時間を使ってから帰ってくるらしいんです。
ご家族からすれば、そこが喜びみたいですね。会社の行き帰りで、その子の世界が他にもできた。
社会に出たことで違う居場所を見つけてくれたって。
自分の働いたお金で家族にプレゼントしたりもして、やっぱり「思いやる」気持ちが大きいかなと思いますね。
今までは、その子の面倒を見ていたのが、気遣ってもらえるようになった。180度違いますよね。
人間が本来持っているパワーを出させてあげることが大事だと思っています。
共感することで、抑圧で満たされていた気持ちをどうやって出してあげるか、そんなことを考えながら接しています。
専門学校時代の経験がなかったら、若い子が苦しんでいるという気づきがなかったら、多分今、引きこもり支援はしていないと思います。
やっぱり「共感」が、私の根底にありますね。
■電子居場所
対面でのコミュニケーションや外出することが苦手な人など、引きこもりの状態にある人が、自宅にいながら他者と直接会うことなく、安心して会話できる電子媒体上の居場所。
仲間づくりや社会とつながるきっかけを作り、社会参加を支援する。
支援期間:支援中~令和3年3月31日(1年更新)
支援内容:カウンセリング・プログラミングホームページ制作など
支援料:無料(通信機器、通信費など実費あり)
問い合わせ:
【E-mail】obana@tiikisaisei.or.jp【電話】090-1147-0602(尾鼻さん)
■里山ICT能開学校
兵庫県赤穂郡上郡町野桑1303番地
ホームページ【URL】http://tiikisaisei.or.jp
問い合わせ:【E-mail】toiawase@tiikisaisei.or.jp【電話】0791-55-9499、090-1147-0602(尾鼻さん)
〔広報かみごおり 令和2年10月号
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