ミドルエイジ人材養成バンク(素案)
ミドルエイジ人材養成バンク(素案)
(江戸川区におけるひきこもり対策)
まえがき
自治体でのひきこもり対応にどんな方法があるのか。より効果的な対応を考えた素案です。
2015年4月に生活困窮者自立支援法(自立支援法とします)が施行されて、公式に基礎自治体(区市町村)がひきこもりにも取り組むようになりました。それから3年経ちますが、江戸川区において十分に納得できる施策はありません。
以前は都道府県と政令市が設置する精神保健福祉センター(その1セクションであるひきこもり支援センター)が管轄していました。相談が中心で医学・心理的な対応と家族の関与の仕方の相談になっていると判断しています。社会的対応が中心におかれているとは言えないでしょう。
他方ではひきこもりの家族や当事者が取り組んできたいろいろな経験の蓄積があります。その中の優れた方法をもってしても、社会参加や自立に十分な効果や広がりは見られません。難しいテーマであり、人や金があれば容易に解決できるテーマではないのです。
課題解決に必要なことは方法、施策内容になるのではないか? 自立支援法により自治体が関与するステージができました。この枠組みを生かし、発展させることはできないでしょうか。
来年には全国的な統一地方選挙があります。そこに向けていろいろな働きかけをするつもりで、何を訴えていくべきかをまとめた素案です。
しかし素案ではひきこもり当事者の感覚にどこまで通用するのか心配です。就業経験のないDくんに読んでもらい話しを聞かせてもらいました。
Dくんの主な感想は、就職に向かうのはきついし、その過程に区役所が出てくると気分が重くなる。居場所的なソフトな雰囲気にしたいと言いました。Dくん的には居場所という言葉でもすでに自分の気持ちとは段差を感じる人がいるだろうといいます。
そういう言葉を使わないで対応策ができるのか? 頭の中をかき回していると、半年前に相談に行った江戸川区シルバー人材センターが浮かびました。短時間就労をすすめる準公的機関ともいうべきシルバー人材センターならどうだろうか。働くとしても就職でなく、区役所ほどの役所感もない。それなりに安心・安定感がある。ひきこもりなる言葉もありません。
重要なのはシルバー人材センターが事業者(企業)から仕事を請負などの方法で受託していることです。事業者と結びついているのが注目点です。
これを援用するとどうなるのか。年代はシルバーではなくミドルエイジ。人材センターというよりは対人関係づくりや仕事・技術の養成の役割があります。養成部分に事業者の求人難・後継者育成の可能性が生まれるのではないか。これも地域の重要な社会課題であり、一緒に取り組めるテーマです。名称をミドルエイジ人材養成バンクとしましょう。
これまで関わった多くのひきこもり経験者の状態への対応策(資料参照①)と照合し、不登校情報センターが到達した「ひきこもりを仕事につけるリクルート活動」(資料参照②)を結び付ける。その結び役がミドルエイジ人材養成バンクとすれば全体がまとまりはしないか。
素案をこのフレームの中で書き直しました。内容・方法などが明瞭になりました。
在住の東京都江戸川区を想定し、雛形をつくり、他の地域にも広げる参考にしてもらえれば…。
提案の内容(素案というよりは粗案)
(1)シルバー人材センターは1つの見本
60代以上の現役を引退した人の経験を活用するシルバー人材センターが全国につくられ活動しています。江戸川区では全国に先駆けて1970年に設立され、4000人が登録し、実稼働者60%と言われます(数値の確認は不十分です)。
短時間労働(週20時間以内)、請負型か派遣型であり正規雇用(正規社員)ではありません。自治体から独立の法人として運営され、公的機関に準じると理解されています。
事業者(企業)との間に入り高齢者の可能な仕事を取り次ぎます。
この方法をある程度援用した「ミドルエイジ人材養成バンク」を素案のひきこもり対策の中心におきます。ミドルエイジ人材養成バンクは行政(江戸川区または東京都)と連携する組織にします。
(2)2つの目的
1つはひきこもりを中心とする20代から50代までの非就労者、失業者、求職中の人、ニート、ひきこもりを、人とつながり、できそうなことを探しながら、社会とつながり、就業につなげることです。
もう1つは、主に区内事業者が事業に関わる内容で関与しながら、人材不足、後継者難を改善・解決につなげます。
(3)対象者
江戸川区内には数千人のひきこもり&その周辺領域の人・家族がいると推測されます。
主に区内在住の非就労者、失業者、求職中の人、ニート、ひきこもり状態である20代から50代までの男女とその家族が対象者です。
厚生労働省が定義する「ひきこもり」を念頭におきますが、実施においては「ひきこもり」に限定せず孤立状態の人、人間関係が不得手の人など広く対象にします。
江戸川区くらしごと相談室の「ひきこもり」相談者など固有名詞で把握することを重視しつつも、災害時の弱者救護に見られるプライバシーも守る状態を重視します。
(4)事業者(対応者①)による講座・教室・研修機会
とくに求人・後継者を必要とする事業者の協力により講座・教室・研修機会を設けます。
ミドルエイジ人材養成バンクが、従来のひきこもり等の支援団体の協力を得て、事業者に講座・教室・研修機会をつくるように働きかけます。事業者は採用から始めるのではなく、人材の養成から(後継者を含む)に関わります。
いくつかを例示してみます。
*パン・ケーキづくり教室の講師役:
*縫製・服飾・編み物・手芸教室の講師役:
*木製品制作・大工教室の講師役:
*金属工作の講師役:
*絵画・イラスト教室の講師役:まんが・アニメ作成など
*パソコン教室の講師役:
*スマホの使い方教室:
*身体療法(カイロ・マッサージなど)の実習の講師役:
*フィギュア・アクセサリ制作教室の講師役:
*ユーチューバーの養成教室:ユーチューブ動画の作り方
*軽作業の実演:事業所の掃除、墓掃除、ポスティング
*テープ起こし・チラシ作りの実習:
*ゲーム・遊びのリーダー:
*動物の飼育補助:犬の散歩など…。
事業者からも事業内容に即した講座や教室等の提案を受けます。人材募集の切実な事業所からの養成講座の開講を期待するのです。
(4-2)講座・教室・研修機会の留意点
① これらの教室や研修の場は、人間関係づくり、居場所の役割をします。
② 事業者側に講師、テキスト、教材などを用意してもらいます。
③ これらの場の事業者に対して、ミドルエイジ人材養成バンクを通して江戸川区は会場の提供、広報活動(広報紙、区のホームページ)、資料作成費などの負担をします。
④ 人材養成バンクは事業者が合同でこれらを展示・発表する機会を企画します。
⑤ 在宅ワークの場合:検討課題
⑥ 起業する場合:検討課題
⑦ 教室等の受講者を社員とする場合:職業安定法の関連
(5)支援団体(対応者②)の働きかけ
ひきこもり経験者の応援・支援者やカウンセリング・相談担当者などが協力する方策です。
①、訪問活動の実行者(外出同行等を含む)
社会福祉協議会&民生委員の有志、保健師&精神保健福祉士の有志、KHJ親の会ピアサポーター、人生大学の卒業者などに協力を呼びかけます。
*対応者向けにミドルエイジ人材養成バンクの説明会を継続的に開きます。
②、家族会の運営者
ひきこもり&不登校の家族会、KHJ親の会の支部など。20代以上の「ひきこもり状態の人」の家族を想定し、ひきこもり経験者も参加できる家族会です。
様子の異なる家族会が複数できると見込みます(周辺の区市を拠点とするものも含む)。事業者も参加できる家族会ができたり、保健所などが実施することも考えられます。
*家族会向けにミドルエイジ人材養成バンクの説明を行います。
③、企業(事業者)に講座・教室・研修への協力の働きかけ
ミドルエイジ人材養成バンクの説明趣旨に基づき対人関係づくり、自己表現とコミュニケーションの機会、仕事の技術ノウハウの初歩を身に付ける場づくりを事業者に働きかけます。
事業者には職に必要な技術や心得と仕組みづくりを重視した人材募集を期待します。事業所の規模に即して、継続的に進めるところが成果を得るものと考えます。
江戸川区は支援団体(対応者②)の性格に沿った協力依頼をします。ひきこもり理解の学習に加えて、具体的なひきこもり経験者の話をきく(長期的なひきこもりを経験し、ある程度の就労経験のある人の話を聞く場)、事業者に家族会に出席するように誘い掛けるなど意見交流できる関係をつくります。
(6)事業者の就業につながる取り組み
事業所としての教室・研修を超えて仕事に関われる場をつくります。職場見学・実習的な機会です。1日見学会、短期の実習(1日2~3時間の実習を1週間行うなど)、見習い講習会(職場の仕事に必要な技術や知識を習う)、臨時アルバイト(インターン制など)…。
これらの計画を事業所の規模や性格に即して作成し、対応者②の手を経て、ひきこもり状態の人に届けます。広報紙などでも広く知らせます。
ひきこもり状態の人が仕事に就くときの大きな壁は就職面接です。教室や研修の場、職場見学などの予備段階で就職する先の人と顔見知りになる状態をつくります。その顔見知りの人が就職面接の場で事業者側にいると、この高い壁を相当に超えやすくなります。
事業者にとっては雇用した「ひきこもり状態の人」を育てる姿勢が大事であると理解し認識できると思います。これからの時代に必要な企業の性格ではないでしょうか。
(7)ミドルエイジ人材養成研究会
この提案を手がかりに各自治体の様子を加えて可能な方法を考える研究会をつくります。個人間、少人数での打ち合わせを重ねるところから始めます。
地方議会選挙への立候補を考える個人、政治団体グループなどに、説明に出かけ意見交換をします(江戸川区以外も含む。場合によっては交通費等の負担をお願いします)。
また行政機関の関係セクションの人とも意見交換の機会をつくります。
これらの個人、政治団体などがこの提案を参考に、独自の政策を策定し、選挙の公約にすることを歓迎します。
適当な時期にミドルエイジ人材養成研究会(仮称)を立ち上げます。
2018年8月