YSCグローバル・スクール
YSCグローバル・スクール
所在地 | 東京都福生市 |
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周辺ニュース
ページ名YSCグローバル・スクール、、(外国人のニュース)
「日本人」になれない外国ルーツの子供たち
日本で暮らす外国人が年々増えるなか、外国にルーツをもちながら日本で育つ子供たちも増加している。
だが、日本語教育のサポートなど学校側の受け入れ体制は整っていない。
肌の色の違いや日本語の拙さからいじめられるなど、疎外感やアイデンティティの揺れに苦しんでいる子も多い。
大坂なおみは3ヵ国にルーツ
9月、テニスの大坂なおみ選手が全米オープンで優勝すると、彼女の国籍やアイデンティティをめぐり日本のメディアやSNS上ではさまざまな意見が飛び交った。
なかには、ことさら「日本人らしさ」を強調する報道や、彼女の容姿や日本語に言及して「日本人と呼ぶには違和感を覚える」などの差別的な表現まであった。
いずれも、自分たちが思う「日本人」という枠の中だけで大坂を語ろうとした、ステレオタイプな見方だった。
大坂は日本人の母親とハイチ系米国人の父親のもとに大阪で生まれ、3歳でニューヨークに移り住んだ。
日本とハイチとアメリカという3つの国にルーツをもつテニスプレーヤーだ。
そんな大坂に対し、日本社会がやや過剰に反応したり偏見を押しつけたりした理由の一端は、彼女のように多様なバックグラウンドをもつ日本人の存在をあまり知らない、あるいはそうした人々にきちんと向き合ってこなかったからではないだろうか。
だが実際には、大坂のように複数の国にルーツをもちながら日本で育っている子供は大勢いるし、これからもっと増えていくことが予想される。
そして、そうした子供たちは外見の違いや日本語力、制度上の問題などによって、「日本人」という枠の中からはじきだされたり、生きづらさを感じたりしていることが少なくない。
「もうこの世界にいたくない」
東京都内の小学校に通うデボラ(仮名、11)も、そんな外国ルーツの子供の一人だ。
両親は南米出身で、長年日本で働いている。
デボラは日本で生まれたが、この国は血統主義をとるため、彼女の国籍は両親と同じ外国籍だ。
デボラは以前、自分の体を傷つけたことがある。
なぜそんなことをしたのかと尋ねると、彼女は目を赤くして視線を落とし、絞り出すように言った。
「違うクラスの子たちに、あだ名で呼ばれたり……うちのこと『殺すよ』って言われたり……この世界にもういたくないって思って」
そのあだ名とは、デボラの名前から連想した、彼女を「害虫」扱いするものだった。
「宇宙人」と呼ばれたり、石を投げられたりもした。いじめは何ヵ月も続いた。
学校ではあまり話さないし、「友だちはそんなにいない」と言う。
「みんな、うちのこと嫌いだと思うから」
日本語のクラス。先生はヘッドマイクをつけて、地方からオンラインで受講している生徒にも教えている
「居場所」を求める子供たちのフリースクール
デボラが小学3年のときから週2回通っている場所が、東京西部の福生(ふっさ)市にある。
外国ルーツの子供向けに日本語教育支援をおこなっている「YSCグローバル・スクール」だ。
NPO法人「青少年自立援助センター」が運営している。
主な対象は、日本語を母語としない5~18歳ぐらいの子供たち。
デボラのように日本の学校に通いながら放課後の塾として利用する子もいれば、来日直後で集中的に学んでいる子もいる。
さらに、ここは「居場所」を求める子供たちのフリースクール的な役割も担っている。
YSCグローバル・スクールの事業責任者・田中宝紀(いき)は言う。
「何より同じ経験をしている子たちが集まって来るので、ここだったら日本語を間違えても誰も笑わないという安心感があるんでしょうね。
(日本の)学校の居心地の悪さ、非寛容性に苦しんでいる子が多いですね。
自分の肌の色が違っても、それを特別視しないような環境を子供たちは求めていると思います」
ひとくちに外国ルーツといっても多様な子供たちが集まっている。
多いのはフィリピンや中国、ネパール、ペルー系だが、ほかにもアメリカやバングラデシュ、パキスタン、アフリカ系など多岐にわたる。
両親の一方が日本人で日本国籍をもっている子もいれば、両親ともに外国人で外国籍の子供もいるし、その場合も両親の出身国が違う家庭もある。
日本語能力にも幅があり、一から日本語を学びはじめる子から、会話に関しては問題ないが、読み書きが苦手という子もいる。
「YSCグローバル・スクール」の事業責任者を務める田中宝紀
日本語指導が必要な子供4万人以上
文部科学省の統計によると、全国の公立小中高で日本語指導が必要な子供は2016年度で約4万4000人。
10年前と比べて1.6倍以上の増加だ。
このうち約1万人が学校で何のサポートも受けていないとされる。
日本語がわからないまま教室に座らされている、放置されている子供が少なくないということだ。
田中は「地域格差」が課題だと話す。
現状、日本語指導について国としての政策がなく、自治体任せになっているためだ。
結果、外国ルーツの子供が多い地域では支援体制が整っている一方、学校に1人ないし2人しかいない地域では予算や人材を確保しづらく、サポートが行き届いていない。
なかには、役所で「日本語がわかるようになってから来てください」と言われ、不就学状態になっている子供たちもいる。
そのように支援不足が深刻ななか、日本語教育の専門家が指導するYSCグローバル・スクールには、都内だけでなく、埼玉や神奈川、千葉からも年間100人以上の子供が通ってくる。
2016年からは地方に暮らす子供たちのためにオンライン学習も開始した。
デボラは日本語を聞く話すはネイティブ並みだが、学年が上がるにつれて授業が難しくなり、YSCグローバル・スクールに通うようになった。
両親の母語が外国語であることが影響している。
デボラのように日本で生まれ育っても、家庭内の会話が違う言語の場合、適切な支援がないと日本語力が年相応に伸びにくいと、田中は指摘する。
大きな壁は小学4年で訪れる。授業内容の日本語のレベルがぐっと上がる時期だ。
「抽象度が一気に上がります。足し算、引き算に使っていたおはじきとか、目で扱えていたものがなくなり、どんどん抽象的な概念が登場してきます。
たとえば、磁石だったら磁力というものを意識しなくちゃいけない。
そういう日本語は、なかなか日常で触れる機会がないので、サポートが必要になってきます」
国が労働力として呼んだにもかかわらず…
田中には、とりわけ忘れられない「教え子」が一人いる。
埼玉県内の小学校を卒業後、中学進学と同時に福生市に転居してきた日系ペルー人の女の子だった。
彼女がYSCグローバル・スクールに初めて来たときの衝撃を、田中はこう振り返る。
「小学校にずっと通っていたのに日本語が文になっていなかった。『わたし、わかる。それ、だめね』みたいに。
人為的な障害なんじゃないかと、強い憤りを覚えました」
彼女は思春期にさしかかると、自分が置かれた状況に耐え難くなり、家出したり繁華街を出歩いたりしはじめた。
行方不明になった彼女を、田中が探し回ったこともある。
結局、高校受験の直前で、また埼玉へ越したため連絡が途切れてしまったが、しばらくしてSNSでつながったときには、10代のシングルマザーになっていたという。
「そのうち頻繁にアカウントを変えるようになり、いまはもうどこで何をしているのかわかりません。
自分たちの無力も感じましたし、社会の罪深さというか……」と、田中は言葉を詰まらせた。
「日系の女の子だったんですけど、国が労働力として大量に投入したにもかかわらず、環境をしっかり整備してこなかった結果として、彼女の人生に大きな影響を及ぼした。
政府の無策というか、日本側の身勝手さに怒りを覚えましたね」
バブル全盛だった1990年の入管法改正で、日系2世、3世の定住と就労が認められると、ブラジルやペルーから多くの労働者とその家族が移住してきた。
だが、日本語教育などの受け入れ体制が整備されたうえでの「門戸開放」だったかというと、決してそうではないし、その課題は今日まで残り続けている。
「移民政策」に基づく体制整備が先
日本で暮らす外国人は年々増えているし、今後も増加していく。
法務省の統計によれば、2017年末時点の在留外国人数は256万人と過去最多を更新した。
増加が目立つのは技能実習生や留学生だ。
「国際貢献」を目的に受け入れている技能実習生については、すでに賃金不払いなど過酷労働の実態が数多く報じられ、制度の形骸化が指摘されている。
そうした問題が解決されていないにもかかわらず、政府は人口減少による労働力不足を補うため、2019年4月から「新たな在留資格」を設ける方針だ。
当初は農業や建設など5業種で50万人の外国人受け入れを予定していたが、10業種以上に広げる見込みと報じられる。
ただし、滞在年数に5年の上限を設け、家族の帯同は原則認めないなど、あくまで「移民政策とは異なる外国人材の受け入れ拡大」だと繰り返す。
しかし、それはもう事実上の「移民受け入れ」だ。
どんな呼称を使おうとも、彼らは単なる「働き手」ではない。
この国に暮らす「生活者」となるのだ。
だからこそ、教育や医療、福祉などの受け入れ体制の整備が急がれる。
田中は、性急に門戸を広げようとする国の動きに疑問を呈する。
「移民政策じゃないと言いながら、いま急速に大量に外国人を呼ぼうとしていますが、まずは移民政策に基づく体制整備が先にあるべきです。
受け入れた後の社会包摂を含む体制整備がなされて初めて、その状況に見合った数の外国人を呼べるのではないでしょうか」
「外国人が先に来ちゃったから、あとから慌ててというのでは、子供たちの言語や心身の発達の重要な時期を逃してしまう。
その結果として、言葉が充分ではない子供たちが大人になったときに責を負うのは日本社会です」
家族帯同を認めないといっても、大人が増えれば子供も増える。一定の条件を満たした後に家族の呼び寄せが認められる場合もあれば、滞在期間中に日本人と結婚して子供をもうける人もいるだろう。
外国人同士で結婚して出産するケースも充分ありえる。
外国ルーツの子供たちがどんどん増えていくのだ。
移民2世の社会統合がカギ
以前、自分を傷つけた時期があったデボラだが、いまは明るい表情を見せている。
彼女のことを「守ってあげる」と言ってくれる、心強い友だちが何人かできたという。
それでも、ほかの子たちからはまだ「嫌われていると思う」と話す。
「また宇宙人って呼ばれたり、石を投げられたりしそうだから」と。
先日、YSCグローバル・スクールで運動会があったとき、デボラはフィリピン人の男の子を連れてきた。
彼女が通う小学校に新しく入ってきた子供だった。
日本語がわからず学校で独りぼっちになっているように見えたその子が心配だったようだ。
自分が安心できる「居場所」を、その子にも教えてあげたかったのかもしれない。
「デボラのような子供がまっすぐに育っていける社会を作っていかないといけない」と、田中は言う。
「移民2世の子たちがどうやって社会統合されていくのか、とくに日本の学校では見た目の違いとか、すぐいじめの対象になったりするので、日本人の子供たちの意識を含め、変わっていかないといけませんね」
ひと昔前と比べて外国ルーツの子供たちがかなり増えたとはいえ、まだ圧倒的なマイノリティーだ。
「おそらく3世代後ぐらいには、ある程度変わっていると思いますが、いまはちょうど過渡期できついですよね。
親世代がどんな声をかけてあげられるのか、学校の先生もどんな態度で接して子供たちに示すことができるのかが問われています」
「いじめはいけない」で終わるのではなく、そこから一歩踏み込んで、人種や差別、異文化や多様性などを学ぶ機会にもなるはずだ。
複雑なルーツでもいいんだ
バイリンガル(マルチリンガル)で多文化な外国ルーツの子供たちは、きちんと社会包摂されれば、「日本に根差したグローバル人材として活躍する」可能性を秘めていると、田中は言う。
「留学生と違い、母国でアイデンティティや愛国心が確立される前の段階で日本にやってくるので、どっちもバランスよく視点をもてる子が多いです。
留学生よりも日本の立場に立って外とつないでくれる存在になりますね」
あるいは彼らの多様な存在そのものが、この社会に豊かさをもたらしてくれるだろう。
田中は、もうすぐデボラに訪れるであろう思春期のアイデンティティの揺れを心配する。「うまく乗り越えてほしい」と。
全米オープン直前、「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」は大坂なおみのルーツをたどった特集記事を掲載した。
記事は最後、「大坂は生まれたときから日本、アメリカ、ハイチという3つの文化のバランスを取り続けてきた。
彼女も自覚しているが、その入り交じったアイデンティティが国境を越えて世界のファンから支持される理由なのだろう」としたうえで、大坂本人のこんな言葉を引用している。
「みんな私が何者なのかはっきりと表現できないから、誰もが応援してくれるんじゃないかな」
デボラにも自身の複雑なルーツをポジティブにとらえる日が来てほしい。
デボラだけじゃない。
すべての外国ルーツの子供たちが、自分を何か特定の一つの「枠」に無理やりはめ込もうとするのではなく、いくつもの枠があっていいんだと思える社会を築きたい。
〔2018年10/14(日) クーリエ・ジャポン〕
周辺ニュース
日本に住む外国ルーツの子ども、ICTで日本語教育
福生「YSCグローバル・スクール」のスクール。
10か国以上の国にルーツを持つ子ども・若者が共に学ぶ
2017年6月末の調査によると、日本に在留する外国人の数は240万人を突破。
日本に住みながら、日本以外の国にルーツを持つ子どもは日本国内に183万人いるといわれています。
さらにこのうちの1万人の子どもは、家庭での会話が日本語でなかったり、幼少期を海外で過ごしていたりしたため日本語が分からないまま、支援もなく苦境に立たされているといいます。
ICTを使って、日本語を学ぶ機会のない子どもたちに「日本語教育」を届けたい――。
日本語のオンラインスクールを運営するNPOを紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)
「YSCグローバル・スクール」の田中宝紀さん
外国にルーツを持つ子どもたちに日本語授業を提供
東京・福生市を拠点に活動するNPO法人青少年自立援助センター・定住外国人子弟支援事業部。
外国にルーツを持つ子どもと若者の日本での暮らしを支えたいと、日本語教育や学習支援を行う「YSCグローバル・スクール」を運営しています。
事業を取り仕切るのは、田中宝紀(たなか・いき)さん(38)。
自身も高校生の頃にフィリピンへの留学経験があり、言葉の壁を感じる中でもたくさんの人が気にかけてくれ、孤独を感じずに済んだことが活動の原点だと語ります。
「NICOプロジェクト」の仕組み
その「YSCグローバル・スクール」が取り組んでいるのが、外国にルーツを持つ子どもたちに、オンラインによる日本語教育を提供する「NICO(ニコ) にほんご×こどもプロジェクト(NICOプロジェクト)」。
受講生の年齢は幅広く、通所支援を含め6歳から30代まで、これまで26カ国・500人以上の若者をサポートしてきました。
東京都福生市にあるスクールで学ぶ生徒たちには、遠方からオンラインで参加する子どもの姿が。
同じ境遇に置かれた「仲間」として、交流を深める
基礎語力、中途退学や不登校の予防にも
言葉の壁は、学校生活で大きなネックになります。日本語が分からない子どもたちが授業についていけないのはおろか、周囲の人たちとのコミュニケーションもとれない状況は、子どもの中途退学や不登校の原因にもなりかねません。
「日本語を理解できるようになると、学校生活が楽しめるようになり、本人の負担が減る。また同時に、学校側の負担も減らすことができる」と田中さん。
「NICOプロジェクト」の授業では、短期集中的に日本語の基礎力をぐっとレベルアップさせるようなカリキュラムを用意しています。
〔2017/12/11(月) オルタナ〕