キズキ共育塾
株式会社 キズキ
代表者(理事長) | 安田祐輔 |
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活動内容による組織の種類 | 学習塾 |
教育活動としての特色 | 講師の多くが不登校や中退、引きこもり等を経験しており、学習面以外の悩みについても徹底的に向き合う。 |
所在地 | 〒151-0051東京都渋谷区千駄ヶ谷5-16-19 安岡ビル1F |
TEL | 03-6273-2953 |
FAX | 03-6273-2953 |
info@kizuki.or.jp | |
備考 | キズキ事業一覧 |
情報提供年月 | 2017年2月 |
キズキ共育塾 代々木校
設置コースと学費 | 入学金 ¥25,000〔税別〕 教材費(年間) 0円 施設費(年間) 0円 授業料 ¥24,000〔税別〕~(週1回90分、月4回) |
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一対一授業 |
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スカイプ授業 |
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受講可能科目 | 英語 国語(現代文・古文・漢文) 数学(算数) 理科(化学・物理・生物・地学) 社会(日本史・世界史・地理・政経・現代社会) 小論文 |
受講可能時間帯 | 月~土 10時~21時 |
入学(入塾)の条件 | 試験・入学可能な学年・学期など、学習塾のため特になし。 |
帰国子女等の受入れ | あり。(条件:特になし。英語は対応可能) |
発達障害をもつ生徒の受入れ (LD、AD/HD、アスペルガー症候群など) |
生徒の状態により受入れる |
キズキ共育塾
中退、引きこもり、貧困、発達障害…暗闇のなかの歩き方を支援する
書籍『暗闇でも走る 発達障害・うつ・ひきこもりだった僕が不登校・中退者の塾をつくった理由』を上梓したばかりのキズキ共有塾代表・安田祐輔さんをゲストにお迎えして、スペシャル対談を行いました。
中退、引きこもり、貧困、発達障害…暗闇のなかの歩き方を支援する
支援方法が「教育」だと、勉強嫌いは救われない!?
鈴木:『暗闇でも走る』を読ませていただいて、僕がすごく考えてしまったのが「僕みたいな子はどうすればいいんだろう」ということなんです。
僕は昔から勉強が嫌いで、勉強して進学したところで社会に迎合してもらえるとはとても思えず、それ以外の道でどう生きていくかもがいてきましたし、僕の取材して来た触法や困窮家庭の子どもにも似たタイプがとっても多かったんです。
なので、進学したその後をどう生きていくかにつながる支援にしてほしいな、と。「目標の大学に入れました、エンド」は絶対なしだと思ったんです。
安田:まさに! それは、うちの会社で必ずスタッフに言っているところです。
普通の塾では「偏差値50のあなたは、この大学を受けて滑り止めはここで」ってやるケースが多いんですけど、うちは絶対それをやっちゃダメだと。
うちは受かることだけじゃなくて将来的な自立が目標だから、そこに資するかのみを基準にしないとダメと話をしてるんですね。だから合格実績を出さないんです。
合格体験談は出すんですけど、それも大学も専門学校も全部出すようにしていて、難関大学だけの合格実績を書かないっていう話をしています。
色んな自立の仕方があると思っているから。
もちろん、学習はある程度のレベルが必要だと思います。
例えば、委託を受けている業務に、足立区のひとり親世帯への家庭訪問支援があるのですが、生活保護家庭で10歳だけど小1の漢字も読めない子、となるとまずは絶対に学習が必要だなと思います。
一方で18、19歳にもなる子に全員学習が必要だとは全く思っていません。
ですが、勉強すると自己肯定感が高まる効果があること。
また、コミュニケーションや喋るのが得意じゃなく、それが原因で中退して引きこもってしまうような子にとっては、受験をして何かしらの専門性を身に付けるというのは結構アリな進路だなとずっと思ってます。
例えば薬剤師とか。
鈴木:資格職?
安田:そうです。アスペルガー傾向が強い人間にとってはかなり有用だなと。
勉強に対しては普通、でもコミュニケーションにかなり課題があるタイプはそういう進路もありますよね。
あと15歳から引きこもってきた子が24歳になってめちゃくちゃ安定した仕事に就きたいと思ったら、29歳まで大卒OKな公務員を目標にするとか。
勉強をすると意外に幅が広がってその子に向いた進路があるなということはすごく思います。
けれども、全部がそれで解決できるわけじゃないことも認識していて、新宿区の関連団体から委託を受けてる引きこもりの子向けの「働く支援」を5年ぐらいやっていますが、16歳位から引きこもってて、現在25~30歳くらいとなると、もう勉強じゃないかもなっていう。
それこそスーパーでまずインターンシップさせて徐々に働くのに慣れてもらうみたいな支援も同時にしています。
子供の貧困対策で「進学支援」は正しいのか
鈴木:なるほど。「選択肢を広げるため」ってことですね! それは『暗闇でも走る』には書かれていなかったので、すごく大事なことなので、あとがきにでも…。
安田:書き足します! (笑)
鈴木:僕、すごく今不安に思っていることがあるんです。
僕が取材してきた子たちは勉強が嫌いだし、逆に勉強するぐらいだったら他で要領よく例え裏の社会でも生きていくことを選ぶという子が多かったので、その子たちを教室に戻すというハードルの高さがあるにもかかわらず、子供の貧困対策にまず進学支援が行われると、教育が産業としてお金になることでいろんな企業が寄ってくるわけですよ。
発達の問題がある子達に対する医療的な早期介入も、一気にビジネス化した感じもあって、同様のことが子どもの貧困対策で起きていることをとても危惧しています。
安田:そうですね。そこにも課題意識を持っています。
子供の貧困対策の一環として学習支援業務を色んな区が委託に出してるんですけど、普通の家庭教師会社が、普通のアルバイトで登録してる先生を対象家庭に送り出しているような自治体もあって。
ただの大学生を送ったところで様々な課題を抱えた子どもたちの支援はできないので、だからこそ僕は自分の会社を大きくしなくちゃいけないと思っているし、それができる人材教育をやらないといけないと思ってます。
各自治体で貧困対策の政策を作っている方にもその辺りの理解を広げていきたい。
鈴木:ですね。そもそも現状の日本の子どもの貧困や格差が深まった根底には、教育が産業化したことがありますから。
今の子供の貧困の敵の本丸は教育産業だと思ってるんですよ。
それは家庭の支出を増大させたこともそうですし、大学への進学率を上げて卒業後の家庭に余裕をなくしたというのもそう。
正直言ってそこの文脈の人たちが子供の貧困支援に入って来ることが許せない。
だから、そのパターナリズム的なものがどれだけ当事者的に無意味なのか、全く専門性のない家庭教師の大学生をポンと投げることは貧困の支援にはならないことを安田さんにはぜひ強く発言してほしいな、と。
安田:その部分に関しては、半分賛成で半分違うかなと思うところがあって…というのも、学校の先生と合わない子供の受け皿に塾がなっているというところがすごく多いんですよ。
鈴木:たしかにそうですね。ただし、親に払うお金があれば、ね。
安田:あれば。僕は自分がそうだったからバイアスがかかってるところもあるんですけど。不登校の原因のほとんどが、学校が合わないか、いじめられているか、です。
文科省のデータにはそう出てないですけど、現場でやってる人間からすると学校の先生の問題ってすごく大きくて、もちろん良い先生もたくさんいらっしゃいますけど。
「学校今日行きたくないんですよ」って言った時に「学校は行くものだろ」と価値観を押し付ける、とか。
もちろん暴力的な先生は今はだいぶ減りましたけども。
先生や学校と合わない子の受け皿としての「塾」
安田:そういうところが合わなくて学校に行けなくなったけど、塾に行ったらアウトローというか、それこそ塾の先生なんていろいろ寄り道して普通の会社で就職できなかった人達の集まりなので、おもしろい先生に会って救われたという話ってたくさんあるんです。だから公教育で全部担うべきなのかっていうのはすごく悩ましい。
ちなみに僕は塾でやっぱり救われた経験があるので……学校がここに書いてるように全然合わなかったんですよね。中学の時は本当に。
だから僕自身は今、本にも書きましたけどスタディクーポンって言ってクーポンを一定所得以下の子に配る形で教育格差を埋めるっていうのが一番、100%の解決策ではないけれど、いいんじゃないかなと今は思っているぐらいなんですよね。
鈴木:確かに。本来なら公教育をどんな子どもにも対応できる質にまであげていかないとって思うんですが……。
安田:でもガラッと変えようにも、これだけ全国に何万か何十万人先生がいれば、そりゃ色んな先生もいますよね。
だから100%の解決策じゃないけれども、格差がついてしまった、格差の中で苦しんでいる子たちに我々みたいな事業者がしっかり支援できるような体制がやっぱり必要だな、と。
もしくは貧困家庭の子でも、メンタルにあんまり課題を抱えていない子は「クーポンで好きな友達が行ってる塾に一緒に行けるよ」みたいな形にするのが今はいいかなと思ってはいます。
本当は公教育がすごい良くなればいいのかもしれないですけど。
"就職率"より"就労継続率"を追うべきなのに
鈴木:でも教育って難しいですね。あの、全然話変わるんですけど、僕の危惧する教育の産業化って部分で、専門学校って法律で規制したほうがいいと考えたことはないですか?
明らかに卒業後の仕事に結びつかない学校でそこそこの授業料を取っているところが相当数あると思うんです。
安田:実は専門学校の発達障害の子の支援をずっとやってきてます、学校と契約して。これは学校によってすごくレベルの差があるんですよね。
鈴木:なるほど。
安田:ひとつ思うのは、中退率では縛った方がいいな、と。
中退率の高い学校はなくしたほうがいいですよね。
鈴木:その後の就職率は?
安田:その後の仕事につながるかどうかという意味だと、自治体の引きこもり等の若者向けの事業でさえ、就職率は見ても働き続けてる率は、あまり見てないんですよ。
専門学校とは違う話なんですけど、就職が決まるだけではなくて、しっかり続けることが大事だっていう認識がまだ足りていなくて。
どれだけ就職させたかが目標になっていて、就職先を1ヵ月で辞めたところでその委託を受けてる事業者には×が付かないケースも多いんです。
ある委託を受けてたときも、目標の数字の設定がおかしいなと思ったのですが、就職した人数だけを見ていて。
夢 or 自立? 本当の教育の目的とは
安田:教育の本当の目的って、働き続けて自立してというようなことだと思うんですよね。
だからそれができる人は別に大学行く必要はないだろうし、大学っていうのも将来的に自立して働くっていうことをサポートしてなければ存在意義がないと僕は思ってるんですけど。
教育の目的をみんなそこには置いてない気はします。
例えば夢を追いかけることが正しいとか、夢をサポートしてるのが教育なんだと思っていれば、働いてる側も(就職率の悪さなどについて)悪いとは思わないんですよ。
就職率や就労継続率の低い専門学校で働いてたとしても、目標が若者の夢を応援することだと思ってるのかもしれません。
この厳しい現代社会の中でしっかり働き続けられることが目標だと、教育産業に携わっている人の誰もがそういう目標設定を置いていないと思うんですよね。
それがすごく課題なのかなと思っています。
鈴木:ぜひもう1冊書いてください。そのあたりのことについて、かつての当事者でありつつ専門性もあって、実践を伴って発言できる人って、実は日本に安田さんぐらいしかいないかもしれないって思うんですよ!
安田:ありがとうございます(笑)。本の中に「夢」についての章が1つあるんですけど、僕夢ってすごく嫌いなんですよ。
鈴木:今、結構キラキラしたもので飾り立ててそれを支出につなげてっていう。
安田:ありますね。だからそれが美しいことだとみんな思ってて!
鈴木:思ってますね。
安田:うちの元生徒で、今はしっかり楽しく大学生をやってる子なんですけど、その子が最初に不登校になった時は「みんな周りも『夢はこれです』って言うけど僕は夢がないから高校も行く意味がないと思います」って悩んでいて。
だから、入塾面談に来た時「大人に<なったらまず生きてくことが一番大事だよ」と、「普通に生きられればそれでいいんじゃないの?って話して。
僕は夢とかそういうものに対する違和感がすごくあるから、うちの塾の講師の面接でも、「子供に夢を持ってほしい」って言われた瞬間にお断りするようにしてます。
特に厳しい状況にある子たちを支援しようと思ったら、夢を持って何かの職業に就いてほしいと願うより、まずはちゃんと自立して幸せに生きていけることを目標に、小さくていいから幸せに生きられることを目標にするのが一番良いと思ってるので。
鈴木:そうですね。安田さんの仕事はやっぱり選択肢を広げることなんですね。ちょっと哲学的な話になっちゃうんですけど。
僕、裏の産業で働いてる元々発達に問題があるような、それこそ暗闇の中にいる子、売春やったり詐欺やったりしてる子たちが、どんだけお金を稼げるようになっても、そのお金で幸せになってる姿って実はあんまり見たことがないんです。
仕事はできてて稼いでても、最終的に幸せにはなってない。
それで常に幸せって何だろうってずっと考えて、著書『家のない少年たち』の中で、1回答えは出してるんですけど。月並みだけど、居場所があることだって。
居場所は「幸せ」への足がかり
安田:そうですね。僕、本のそのページ折ってます。すごく好きなところで。
鈴木:結局本人がそこにいていいって自分で思えて、人にも思われてるっていう場所を見つけると安心ですよね。
その安心っていう土台があってそこから初めて幸せの追求ができるんではないかと。
そこをすっ飛ばすとどんなに稼いでもどんなに派手に遊んでも、どんなに高価なものをかき集めても、全然幸せって感じられないみたいなんです。
安田:ないですね。不登校・中退の子は学校も友達も居場所になっていないケースが多いです。
生育環境が良くない子ももちろんたくさんいますし、引きこもりになると親も焦ってメンタルやられちゃうことが多いので、そうすると家にも居場所がなくなってしまう。
それで僕は「受験」をエサみたいな形にしたんです。
中学校行けなくなって、でも高校は行かなきゃとか、高校中退しちゃって高卒認定試験取らなきゃとか焦ってる子が「受験」って検索してくれるので、そういう時に我々のような「居場所」を見つけて来てくれたらいいなと。
我々のところは働いている人が全員不登校や引きこもりの理解者なので、そこがまず彼らにとって居場所になるっていうことが大切かなと。
だって本人が何とかしたい、居場所がほしいと思っても「居場所」って検索しないと思うんですよね。自分の人生が「何かやばい」と思った時に。
鈴木:そうですね!
安田:塾のスタッフも半分ぐらい元引きこもりで、理解者しか採用してないので。ここがひとつ居場所にはなるだろうなとは思ってます。でも一方で親の代わりにはなれない。
僕も親からきちんと養育を受けなかったので、今もう34歳になってもその課題を抱えてるんですけど。
親って恋人とも違うし塾の先生とも違って、例えば友達関係だったらそいつの財布から1万円2回ぐらい盗ったら絶縁されるわけじゃないですか。
だけど親だったら2回盗ってもまだ「何やってんの!」って怒られるだけですむ。
それで家から追い出すっていう親はそんなにないと思うんですよね。だから何をしても許してくれる存在=親って。
そこが欠けるっていうのは絶対的な居場所が欠けてることだなと思います。
親が100ぐらいのパワーがあるとしたら、それが欠けても友達や大学などで居場所を作って、1のパワーを100個集めようみたいな。
量で補うことができればいいかなと思います。
そうやって色んな人に助けられたっていう経験があると少しずつはまともになるのかな、居場所ができたと思えるのかなと思んです。
鈴木:安田さんにとっては、今それが現状の仕事というか事業なわけでしょうか。
安田:そうですね。僕自身の場合は自分のやってきた生きてきた経験を肯定するための物語を作るしかなくて、だからこういう仕事をせざるを得ないところはあります。
とはいえ100点の解決策だとなかなかまだ思えてない部分もあって、生まれた時からの決定的な欠落を埋めるっていうのはなかなか難しいなと思います。
鈴木:そうですね。確かに、面倒見た子たちが社会に出た後に、同じように居場所までを一緒に探してあげるっていうのは難しいかもしませんね。
でもその選べる選択肢を増やすっていうことは確かに必要で、選択肢を増やしながら居場所を探していくことが大事なのかもしれないぞということはぜひ教えたいですね!
安田祐輔(やすだ・ゆうすけ)
1983年横浜生まれ。不登校・中退・ひきこもり・うつ・発達障害・再受験など、もう一度勉強したい人のための個別指導塾「キズキ共育塾」などを経営するキズキグループ(株式会社キズキ/NPO法人キズキ)代表。
発達障害によるいじめ、一家離散、暴走族のパシリ生活などを経て、偏差値30からICU(国際基督教大学)教養学部国際関係学科入学。
卒業後、大手商社を経て2011年に「キズキ共育塾」開塾。
多くの講師が挫折経験をもち、生徒の心によりそう指導が評判を呼び、全国から様々な理由で学校に行けない若者やその親から問い合わせが殺到、多くのメディアに取り上げられる。
2018年4月現在、全国に5校(代々木・池袋・秋葉原・武蔵小杉・大阪)。
外出困難者のためにスカイプ授業なども展開。
また、中退予防のための大学への講師派遣・研修、貧困家庭の子どもの学習支援プロジェクトなども立ち上げ、多岐にわたり若者を取り巻く社会問題を解決する活動をおこなう。
著書に『暗闇でも走る 発達障害・うつ・ひきこもりだった僕が不登校・中退者の塾をつくった理由』(講談社)。
〔2018年4/28(土)現代ビジネス、鈴木 大介,安田 祐輔〕
新卒で商社に入った僕に、いま伝えたい事
ICU入学時の安田祐輔さん
不登校中退者の進学塾「キズキ」。8年前、現在34歳の安田祐輔さんが設立しました。
安田さん自身も不登校中退者で、新卒では大手総合商社に入るも、4カ月でうつ病に。
そうした経験から立ち上げたキズキは、講師の半分以上が発達障害や不登校の経験者です。
何度も挫折を経験してきた安田さんが、当時を振り返りながら、新社会人へのメッセージをつづります――。
※本稿は、安田祐輔『暗闇でも走る』(講談社)の第7章「人生はやりなおせる 発達障害・うつ・ひきこもりだった僕が不登校・中退者の進学塾をつくった理由」を再編集したものです。
■自分のことを「強い」と思い込んでいた
キズキに通う生徒たちの状況は、ひきこもり、中退、不登校など様々だけれども、彼らに共通していることも、「大きな挫折を経験している」ということだ。
「もう2X歳になってしまった。周りは働いているのに……」
「二度と、普通に生きられないかと思うと怖い」
毎日のように、そんな若者たちが全国からキズキにやってくるようになった。
そんな彼らに対して僕が伝えるのは、意外に遠回りも悪くないよ、ということだ。
僕も、親の離婚、暴走族のパシリ、中退、ひきこもり……、色々なことを経験してきたけれども、だからこそ本当にやりたいことが見つかった。
そんな経験のおかげで、家族に問題を抱えている若者の気持ちも分かるし、保護者の相談にも乗れる。
そして何より、入社4カ月でうつ病になったことで、「人の弱さ」が分かるようになった。
12歳で家を出て生き抜いてきたことで、僕は自分のことを「強い」と思い込んでいた。
でも実は、多くの人が当たり前にできる会社員生活が僕にはできなくて、そこで「弱さ」を理解した。
「頑張れない」人の気持ちが分かるからこそ、今の事業を起こせた。
社会の中でつまずいてしまった人たちの気持ちが分かるようになってから、世界は豊かに見えるようになった。
10代からの挫折の連続は、20代後半になって、一本の線でつながった。
■有名な会社で働き、高い年収を得ても、何か物足りない
僕の周りの優秀な人たち、それも高い年収を得て、有名な会社で働いている人たちの中で、何か「物足りなさ」を感じている人は多い。
「自分が本当にやりたいことは何なのか分からない」という話をよく聞く。能力をつけて誰もが羨む地位や収入を手に入れたとしても、それだけだと「空虚さ」のようなものを抱えてしまうらしい。けれども、何かしらの挫折を経験した僕らは、ラッキーだ。
やりたいことを行うためのハードルの高さに苦しむことがあっても、「やりたいことが分からない」という悩みは少ないかもしれない。
「挫折」のおかげでやりたいことがある。
僕の好きな言葉に、マッキンタイアという政治哲学者の言葉がある。
「『私は何を行うべきか』との問いに答えられるのは、『どんな(諸)物語の中で私は自分の役を見つけるのか』という先立つ問いに答えを出せる場合だけである」(『美徳なき時代』アラスデア・マッキンタイア著、篠崎榮訳/みすず書房)
何かを成そうと思うのならば、徹底的な努力や我慢が必要だ。ただ、その努力や我慢が「自分を苦しめている」次元まで到達したならば、「諦める」ことも選択肢にいれた方がいい。
「時間」の力は偉大で、いつか全てを癒してくれる時がくる。
それだけでなく、「時間」はその苦しみを、「物語」に変えてくれる。
多くの人から賞賛されるような学校に行くこと・会社に勤めることよりも、自分の「物語」に沿って、自分の納得する道を歩んだ方が、幸福や自己肯定感にはつながるのかもしれないと僕は思っている。
■人生をやりなおすための思考法
生徒たちと話す中で、僕自身の思考法について聞かれることも多い。そんな時は、僕はこんなふうに話をすることに決めている。
どん底の状態からやりなおすために必要なことは、「考え方をずらしてみる」ことだ。
どん底の状態の時は、「何をやってもうまく行かない」と思いがちだ。そのせいで、努力さえできなくなってしまう。
だから「こうじゃなきゃいけない」という思い込みを外して、少し「ずらして」考えることが必要だ。
そうすることで別の生き方が見えてくる。心理学的に言えば、少し難しい言葉になるが、「認知の歪み」を改善させるということだ。
生徒からよく頂く質問とその答えを、幾つか書いてみる。
「高校を中退して5年ひきこもり、21歳になってしまった。これだけ遅れてしまったら将来仕事がないのでは? だから何をやっても無駄に思えてしまいます」
僕はこんなふうに答える。
「確かに、大企業であれば年齢を気にするところが多いかもしれない。けれども、マスコミや公務員は29歳ぐらいまで受験資格があるところも多い。またベンチャー企業・中小企業であれば、年齢を気にしない会社もたくさんある。アルバイトから入って認めてもらい、正社員に採用される例もたくさんある。今からでもいつからでも、人生はやり直せる。スタートが遅れても、仕事はありますよ」
そしてある生徒からは、
「夜早く寝ること、朝起きることが苦手です。大学の授業は選択制なので、毎朝早起きしなくても良いとは聞いていますが、将来働くことがとても不安で……」
これはかつての僕と同じ悩みだ。
「朝起きなくていい会社で、働けば良いと思う。確かに多くの会社では、朝の始業時間が決まっています。けれども、最近ではフレックスタイムを導入している会社も少なくありません。特にベンチャー企業であれば、明け方に寝て昼前に起きるような方もいます。夜中は仕事がはかどるという人も多いですからね。何を隠そう、僕自身も朝が起きられないので、いつもミーティングは朝11時以降にしています(笑)。ただ、大学入試は朝から行われるので、この日だけは我慢しよう」
■苦手な人と無理に関係を築かなくても良い
今苦しんでいることが、永遠に続くわけではない、ということは、いつも心のどこかに留めておいてほしいと伝えている。
また、必要な睡眠時間は年齢とともに変化するもの。
それに睡眠障害が発達障害と関係している場合、発達障害の状態の変化によって、睡眠障害も変更する。
確かに朝太陽の光を浴びることは睡眠障害を治す上で重要だが、自分なりのペースも大事にすればよいと思う。
また、こんな生徒もいた。
「人とのコミュニケーションが苦手です。大学や会社に入ってからの、人間関係が怖いです。苦手な人とどのように関係を築いていけばよいでしょうか? 」
「苦手な人と無理に関係を築かなくても良いと僕は思う。大学ではクラス制を取っているところを除けば、自由に授業を選ぶところが多い。そのため高校までのように、特定のクラスの中で濃い人間関係を築く必要はない。またサークル活動も、強制ではない。つまり、“自分に合う”人とだけコミュニケーションを取れる場所。仕事についても、営業やサービス業ではなく、工場勤務やエンジニアなどの仕事に就くことで、“目の前の仕事を黙々とやる”ようなものを選んでみたらどうだろう? 」
現代社会において、「こうしなければならない」なんてことは、ほとんどない。
「学校」という仕組みも、「会社」という仕組みも、誰かがつくり出したものに過ぎない。
だから、その仕組みになじめなくてもがいているのであれば、そこから逃げ出して新しい道を探しても良いはずだ。
■自分にできる範囲で少しずつ頑張れば十分
特に「学校」というのは不条理な仕組みになりうると僕は思っている。
例えば「仕事」であれば、就職先は自分で選べるし、転職も認められている。
けれども「学校」になると、普通に公立小中に通う限り、住んでいる場所に合わせて学校がある程度決められてくるし、転校もなかなかできない。
先生方はとても頑張っているけれど、全員に合う教育をするのはとても難しい。
だから、学校が合わなくたって、絶望しなくて良い。
今どん底で苦しんでいるのなら、まずは「こうしなければならない」という思い込みを捨ててみてほしい。それが、やりなおすために一番大切なことだ。
また、「そもそも今は何のやる気も起きない」と悩んでいる人もいるかもしれない。
けれども、どん底状態の時に頑張れないのは、誰でも同じだ。だから今は頑張れない自分を責めず、自分にできる範囲で少しずつ頑張れば十分だ。
「この挫折があったから、今がある」
そう思える日がきっと来る。
■変えられるものだけに注目する
もう一つ、人生をやりなおすために必要なことは、「変えられるもの」だけに注目するということだ。
例えば僕の場合、発達障害があること、温かい家庭に生まれなかったということ、早起きが苦手なこと、人とのコミュニケーションが苦手だということ……そういうものは変えられない。
誰しも人間は生まれ持った条件の中で生きなければならない。そしてそれらは「変えられない」こともある。生まれつき恵まれた人たちを見ていて悔しくなる時もあるけれども、他人と比較しても意味はない。
だから、「変えられない」ものは諦め、「変えられる」ものに注目してみる。
10代の頃の僕は、「変えられないもの」ばかりに注目して、いつも苦しんでいたように思う。
けれども今の僕は、早起きができないから仕事は昼からすることにしているし、対面のコミュニケーションが得意ではないから誰かと揉め事があった時は文章で考えを伝えることも多い。
「変えられるもの」に注目して、少し努力してみよう。それが、人生をやりなおすための一歩になるかもしれない。
■新社会人当時の僕に伝えたいこと
「会社員としてうまくいかなかったヤツが起業なんかできるわけがない」
とよく言われたが、僕が生きていくためには、こういう働き方しかできないと思った。
「売上何千億、何兆の会社を作る」というような、希望に満ちた起業ではなかったけれども、その後もコツコツと続けることができた。
別に起業じゃなくても、例えば、税理士、弁護士、社労士のように独立して働きやすい職業もある。
あの時は、会社を辞めたら一生が終わるかのように思えていた。けれども、実は色々な生き方がある。
僕みたいに苦手なことから逃げた生き方だって、あっても良いはずだ。
だから、会社が合わなくても、絶望する必要はなかった。
むしろ20代のうちは、「どんな仕事が向いているか」「どんな生き方をしていきたいか」を実践しながら悩みぬくのが、他の先進国では普通だ。
世界は広く、色々な生き方・色々な考え方がある。
多くの大人は「自分の経験」をもとに他人にアドバイスをするけれども、様々な生き方の中で自分らしく生きられれば良いのだと思う。
新社会人だった僕自身に伝えたいのは、そういうことだと思った。
人の生き方はそれぞれだということ。
自分の生きる道は悩みながら見えてくるものだということ。
格好のいい仕事の格言よりも、そういうことを教わりたかったと思う。
■ひきこもりは怠け者?
「不登校」や「ひきこもり」というと、特別な人たちを想像してしまうかもしれない。
しかし、小中学校の不登校は13万人、高校不登校は5万人、高校中退は年間5万人と言われている。
また不登校や中退を経験した子たちの受け皿になっている通信制高校の学生は18万人と言われている(通信制高校の学生たちは、スポーツなど他にやりたいことがあって通信制高校を選んでいるケースも多いが)。
高校中退の4年後は、20パーセントの若者が無業(学校にも行かず、バイトもしていない状態)という2009年の調査結果もある。
また15歳~39歳以下のひきこもり54万人、うつ病の人は111万人と言われている。
たくさんの子ども・若者が、実は困難な状況にあるのだ。
学校に行かないこと自体は、本当はたいした問題ではない。
現に僕も学校にはあまり行かなかったし、それでもなんとか自立して生活をしている。
いじめがあったり、家族の問題で心が疲れてしまったり、発達障害があったり……自分の力ではどうにもならないことを経験したことで、不登校や中退を経験する子ども・若者たちはとても気持ちが落ち込んでいる。
そういう人たちが、「何度でもやり直せる」社会でなければならないと僕は思っている。
けれども、どうにもならない不条理に苦しんできた子ども・若者への共感は、得られないことも多い。
ある時、会社員の友人からこんなことを言われたことがあった。
「ひきこもりの人とか単なる怠け者だと思うし、勝手にすればいいと思うんだよね」
「俺らは頑張って学校行ったり、働いたりしているのに、ひきこもるのは甘えだと思う」
僕は言葉に詰まってしまった。どんな反論をすればよいのか、分からなかった。
■20歳前後の失敗で人生が終わるわけがない
僕が経験者として、また、多くのひきこもりの若者たちと接してきて言えることは、彼らは決して「怠け者」ではないということだ。
自分の人生を変えたい、けれども様々な出来事を経て自信を失ってしまった、自分ではどうにもできない状況まで追い込まれてしまった……だから勇気を出してキズキを訪れてくれた。
「もう自分の人生は終わりだ」と思いキズキにやってくる生徒も多いけれども、20歳前後の失敗で人生が終わるわけがない。
でも、自分の人生が終わったと思い込んでいたら、人間はなかなか前に進めない。
僕らは、その「思い込み」を解きほぐして、徐々に自信をつけていくことの手伝いをしているだけなのだ。
さらに大事なことは、「困難を抱える人が働く」ことは、本人だけでなく、社会全体にとってプラスだということだ。
働く人が増えれば、税金や年金を払う人が増えることにつながる。
少子高齢化社会において、とても求められていることだと思う。
キズキに通う若者たちも、いずれキズキを卒業して専門学校や大学に通い、その後経済的に自立を果たし、納税者としてこの社会を支える側になる。
それは、この少子高齢化の日本社会に生きるすべての人にとって、重要な話だ。
そういう観点からキズキを応援してくれる人がいたら、それもとても嬉しい。
安田祐輔(やすだ・ゆうすけ)「キズキ共育塾」代表
1983年横浜生まれ。不登校・中退・ひきこもり・発達障害などの若者のための個別指導の進学塾「キズキ共育塾」代表。
幼少期からの発達障害によるいじめ、家庭崩壊、暴走族のパシリなどを経て、偏差値30からICU(国際基督教大学)教養学部国際関係学科入学。
卒業後、大手商社を経て、2011年に小学生の内容から難関大学受験レベルまで学習できるキズキ共育塾を開塾。
現在、全国に5校(代々木・池袋・秋葉原・武蔵小杉・大阪)開塾。「キズキ共育塾」代表 安田 祐輔
〔2018年4/27(金)プレジデントオンライン〕