生活保護基準額
生活保護基準額
生活保護費減額「何を削れば」来年度から最大5%引き下げ 尼崎の母子家庭「年越しはカップ麺」
生活保護費の見直しで、2018年度から受給世帯の3分の2が支給額を引き下げられることになったことを受け、対象となる単身高齢世帯や母子世帯からは「もう切り詰めようがない」「これ以上子どもに我慢させられない」と悲鳴が上がる。
見直しを決めた厚生労働省の審議会委員からも「最低限度の生活を守れるのか」と疑問の声が上がっている。
尼崎市のパート従業員の女性(48)は、中学2年の長女と小学6年の長男、足に障害があり介助が必要な母親(73)との4人暮らし。
10年前に離婚しシングルマザーとなり、9年前から生活保護の受給を始めた。
月の収入は保護費とパートなどを合わせて4人で30万円ほど。食費はスーパーで夕方以降値引きのシールが張られた食材を買い求め、子どもの服はお下がりばかり。
仕事用のTシャツ以外に自身の服はもう何年も購入していない。
長男は学校の成績も良く、私立中学を受験したいとの思いもあったが「お母さんには言われへん」と打ち明けていなかった。
長女から長男の思いを知らされた女性は「ショックで、申し訳ない」と自分を責める。
クリスマスにケーキを買う余裕もなく、正月も長男の制服購入代捻出のために特別なことはできない。
「年越しそばはカップ麺かな」と力なく笑う。
保護費減額のニュースを見て、出てくるのはため息ばかり。「これ以上何を削ればいいんだろうか」
生活保護を受ける北風正二さん(79)は、単身で神戸市北区の団地に住む。ふすまは何カ所も破れ、修理もままならない。
テレビは約20年使い続けるブラウン管のまま。
「買い替える費用はない。毎日なんとか食べていくのがやっとだよ」と漏らす。
3食同じものを食べる日も多い。13年度にも生活保護の支給額が引き下げられた。
「またか、と腹が立つ。国は弱いところから先に削ろうとしている」。北風さんは憤った。
〔◆平成29(2017)年12月29日 神戸新聞 朝刊(阪口真平)〕
生活保護重要性訴えチラシ配布 松山で受給者ら
生活保護への理解を深めてもらおうと、県内の受給者らが10日、松山市一番町3丁目の松山地裁前で通行人にチラシを配布するなどし、重要性を訴えた。
2013年の生活保護基準額の引き下げは「健康で文化的な最低限度の生活」を保障した憲法25条に反するなどとして、14年11月に県内の受給者が県と松山市に引き下げの取り消しを求め、地裁に提訴してから3年を迎えた。
地裁の口頭弁論期日に合わせて、街宣を実施している。
10日は原告や支援団体のメンバー約15人が横断幕を掲げて街頭に立ち、「受給者の衣食住はぎりぎり。生活保護は皆さんにも関わることだ」と呼び掛けた。
約5年間病気の治療をしながら生活保護を利用する原告団のA副団長(56)は「医師から健康のために野菜を食べるよう言われるが、値段が高く毎日は難しい」と日ごろの生活を振り返る。
「今後もっと基準が引き下げられる恐れもあり、何とか食い止めたい。多くの人に、生活保護は体を悪くした際などに保障してくれるきちんとした制度だと伝えたい」と話した。
〔◆平成29(2017)年11月11日 愛媛新聞 朝刊〕
生活保護 67%世帯減額 生活費分は最大5%減 厚労省
厚生労働省は22日、生活保護基準の見直しで世帯類型ごとの影響額を発表した。
食費や光熱費など生活費相当分(生活扶助費)に子育て世帯や母子世帯に対する加算を加えた受給額は、推計で67%の世帯が減額となった。
見直しは5年ごとに実施。受給者以外の低所得者層の消費実態と均衡するよう算定した生活費は当初、最大13・7%減だったが最終的には最大5%の減額に抑えた。
来年10月から3年かけて段階的に引き下げ、国費分で年160億円(1・8%)を削減する。
母子加算なども含めた受給額が減額となる世帯の割合は子どものいない世帯で69%と高く、特に単身世帯では78%に上った。
子どものいる世帯では43%、母子世帯は38%だった。
世帯類型ごとの影響額を生活費単体でみると減額は最大月9000円で、増額は1万2000円。
町村部よりも都市部の世帯で減額になる傾向が強く、40代夫婦と子ども2人世帯▽子ども2人の40代母子世帯▽50代単身世帯▽65歳と75歳の高齢単身世帯などで最大5%減となった。
町村部などの子ども1人の母子世帯では13・4%増となる。
また、来年度予算で医療費や住宅費を加えた保護費総額の国費分は、診療報酬改定による医療費の削減などもあり、11年ぶりの減少となる2兆8637億円を計上。
保護費総額は高齢単身世帯の増加などで10年間で1兆円以上増えており、来年度は約3兆8000億円の見通し。
国が4分の3、地方が4分の1を負担する。
〔◆平成29(2017)年12月23日 毎日新聞 東京朝刊【山田泰蔵】〕
生活保護基準下げるな 全生連が宣伝 厚労省前
「生活保護基準を下げるな」「当事者の声を聴け」-全国生活と健康を守る会連合会(全生連)は29日、厚生労働省前で生活保護基準検討のため開かれている生活保護基準部会に向けて約70人で宣伝しました。
同省は2018年通常国会で生活保護法を改定する方針です。
生活保護基準の引き下げは13年度から3年連続で実施され、冬季加算、住宅扶助の引き下げが続きました。
現在、全国29都道府県で約千人の原告者らが引き下げ処分の取り消しを求めて提訴しています。
さいたま市の男性(55)は「保護基準引き下げのしわ寄せが1年ごとにじわじわときている。その中で子どもを高校に進学させるのはとても大変です。進学させるためのお金が足らず家賃を滞納し、生活にまで及んでいる状態だ」と訴えます。
神奈川県生存権裁判の代表委員の武田新吾さん(49)は「節約の上に節約で食費と人付き合いを減らす。これ以上引き下げられたら私たちの生活はどうなるのか。生活保護でぜいたくな生活をしたいと思っていません。人間のつながりをもった人間らしい生活をしたい」と語りました。
〔◆平成29(2017)年9月30日 しんぶん赤旗 日刊〕
核心評論 生活保護基準 見直し本格化「最低限度」の確定優先を
5年ごとに行われる生活保護基準の見直しに向けた本格的な作業が始まった。
今月開かれた厚生労働省社会保障審議会の部会は、一般世帯と保護世帯の消費動向の比較などを基にした報告書を年内に取りまとめることを確認した。
政府は部会の結論を受け、来年度以降の保護費の基準を決定する運びだ。
生活保護は憲法25条が掲げる「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」、すなわち生存権に基づく。
最低限度を定義し、それを保障する水準を定めるのが望ましいが、現状は時々の消費動向など相対的な基準によっている。
まず「最低限度」を確定するといった骨太の議論を望むことは無理だろうか。
生活保護など社会保障にとどまらず教育、住居、労働、情報へのアクセスなど広く国民の権利を規定するには省庁横断的な議論が必要。
政権を挙げて取り組むに足る課題だ。
政府が合憲としてきた自衛隊を追認する9条改正よりも、国民生活の将来像を展望する憲法論議こそ国民が求めているものではないか。
基準見直しを巡っては、有識者で構成される社会保障審議会の部会で、複数の委員から子どもの貧困に配慮を求める意見が出ている。
生活保護利用者の子どもが長じても貧困から抜け出せないといった「貧困の連鎖」が指摘されるが、連鎖を断ち切るためにも見直しに当たっては、子どもにしわ寄せがいかない仕組みが模索されて当然だ。
知的、身体的、情緒的な発達を妨げないため、例えば校外活動の費用などに配慮する必要がある。
部会長代理の岩田正美日本女子大名誉教授らからはまた、「マーケットバスケット方式」「最低所得保障」「ナショナルミニマム(国民生活の最低保障)」への言及があった。
マーケットバスケットとは、生活に必要な住居費、食費、被服費、教育費、教養娯楽費などの実費を足し上げて保護費を算定する方式。
最低所得保障、ナショナルミニマムも同様な考え方に基づく。
特に子どもに関する出費には、このような検討を加える必要がある。
委員の山田篤裕慶応大教授は将来的な年金水準の低下が、保護の引き下げにつながる恐れがあると指摘した。
「なんらかの基盤的生活費」の参照が必要だとして、相対的基準一辺倒となることに警鐘を鳴らしている。所得の最低保障を巡っては旧民主党が政権を取った2009年、長妻昭厚労相(当時)が、財政学者の神野直彦氏、社会運動家の湯浅誠氏らをメンバーとする「ナショナルミニマム研究会」で検討を始めた。
残念ながら、首相交代などのあおりで十分な結論を得ないまま終わったが、この経緯を踏まえれば、主要政党による議論が行われる素地はあるはずだ。
国民に希望をもたらすような建設的な論戦を期待したい。
〔◆平成29(2017)年6月26日 京都新聞 朝刊本版〕