訪問型フリースクール漂流教室
NPO法人 訪問型フリースクール漂流教室
所在地 | 北海道札幌市 |
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子どもの貧困 実態深刻 札幌の高校生、大学生体験語る 外部から見えにくい境遇 生活も勉強も支援が必要
家庭の経済的困窮から、最低限の生活や勉強もままならなくなる「子どもの貧困」を考える集会が今月1日、札幌で開かれた。
貧困状態の家庭で育った市内の高校生と大学生の2人が体験を語り、外からは見えにくい生活苦の実態を紹介。
また、専門家からはこうした子供たちに対し、一般の人はどう手をさしのべたらよいのかなどについて提案があった。
集会は「子どもの貧困を考える市民の会」が主催し、「『子どもの貧困』を越えて」と題して初めて開催された。
最初に体験を報告したのは、札幌平岸高3年の深堀麻菜香(まなか)さん(18)で、母と妹2人との母子家庭4人暮らし。
「普通」だった一家の暮らしが一変したのは3歳の時だった。父が職を失い、本州で働きに出ることに。
だが、父から家への仕送りはなく、母がパートで得た月十数万円の収入で一家を支えた。
父とは数年前から音信不通だ。「小学高学年のある寒い冬の日が忘れられない」と言う。
学校から自宅アパートに帰ると、電気とガスが止められていた。
寒さをしのぐため、姉妹3人で肩を寄せ合って布団にくるまり母の帰りを待った。
生活は限界に達し、母が生活保護を申請したことで何とか窮地を脱することができた。
深堀さんは来年、奨学金をもらい道内公立大への進学を目指している。
北海学園大4年の増田勝也さん(22)は、小学2年の時に父と死別し、知的障害のある母に育てられた。
母には消費者金融に多額の借金があり、未成年だった増田さんが返済を迫る電話を受けたこともある。
やがて、市社会福祉協議会が母の金銭管理や生活保護申請を手助けしてくれ、生活は少しずつ安定していった。
増田さんは中学で不登校になったが、少額で利用できる札幌のNPO法人「訪問型フリースクール漂流教室」に通うことができた。
学ぶ楽しさを知り、その後は定時制高校と大学に進学。
「フリースクールに出合わなければ中学卒業で働くしかなかったかもしれない」と振り返る。
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2人は現在、自分たちと似た境遇にある子どもたちを支える活動をしている。
深堀さんはNPO法人「カコタム」で小中高生の学習支援のボランティアをしている。
増田さんも、かつての自分を支えてくれた「漂流教室」で、子どもたちの悩みに耳を傾けている。
また2人とも、子どもの貧困解消を目指して昨年発足した公益財団法人「あすのば」(東京)に所属し、経済的支援が必要な子どもへの給付金の募集活動なども行っている。
子どもの貧困は見えにくい。身なりも普通の家庭の子とさほど変わらず、自分から家のことを話す子どもは少ない。
だからこそ、深堀さんと増田さんは「目に見えない子どもの貧困を知ってもらうために、自分たちが実情を伝えていかなければならない」と強調、
「貧困の責任は子どもにあるのではない。生活も勉強も、普通の子と同じスタートラインに立つための支援が必要」と訴えた。
国の調査では、日本は6人に1人の子どもが貧困状態の中で暮らしている。
また、貧困問題に詳しい山形大の戸室健作准教授(社会政策論)によると、道内の場合は5人に1人というさらに厳しい状況にある。
子どもの貧困問題に、一般の人はどう向き合えばよいのか。
集会に参加した北翔大の飯田昭人准教授(臨床心理学)は
「貧困家庭の子どもたちにレッテルを張ったり、哀れみの感情を向けたりするのではなく、実情をしっかり理解し、応援しようと思うことが大切」と指摘。
その上で、「親の経済的状況によって、子どもの将来が左右されていいのか、社会全体で考えていかなければならない」と話している。
◇貧困率◇
年間の手取り収入が、平均的な世帯所得の半分の額に満たない世帯の割合。
2012年の国の基準は122万円で、これに届かなければ「貧困世帯」と見なされる。
子どもの貧困率は、18歳未満の子どもがいて、この額を下回る世帯の割合を指し、国の調査では12年に過去最悪の16・3%を記録。
都道府県別の統計はないため山形大の戸室准教授が試算したところ、道内の子どもの貧困率は全国ワースト5の19・7%だった。
〔◆平成28(2016)年5月24日 北海道新聞 朝刊全道〕