『ルポ保健室』
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ページ名『ルポ保健室』、パンくず(その他(未分類))
秋山千佳さんの「ルポ保健室」(朝日新書)を読みました。本当に共感するところばかりの本でした。
「医療機関ができる支援もこういうことなんだ」と思いました(保健室が子どもへの支援が中心なのに対し、医療機関では親への支援が中心になるという違いはありますが)。
例えば第3章で柳先生が言う「保健室は困った時に行くところ」という言葉。
私は「小児科はよろず相談所であるべきだ」と思っています。
何か困りごとがあった時に、風邪で受診したついでにちょっと聞いてみる、あるいは風邪もひいていないけれど「どこに相談したらいいかわからないので」とやってくる、それでいいと思うのです。
その時大事なのは、「否定されない、評価されない、生きているだけで大丈夫と言ってくれるところ」であることなのでしょう。
困難を抱えた生徒はネガティブな姿を見せます。
「すぐハサミをなくす」「忘れ物が多い」「すぐさぼる」「『死ね』としか答えない」「表情がない」など。
その背景には実は深刻な困難を抱えているのですが、そのことを率直に話してくれません。
あるいはあいまいな訴えをくりかえしながら悩みを打ち明けてもいい人かどうかを慎重に見ている場合もあるのでしょう。
休みがちな生徒が保健室に来た時に「また?」と言ってしまい、その子は登校しなくなったという痛恨の経験も語られています。
これは「時間外にしか来ない」「医者の指示を守らない」「スマホばかり見ていて子どもに関心を示さない」など「問題患者」「困ったお母さん」と呼びたくなる人たちが、実は多くの困難を抱えている姿とまったく同じです。
私たち医療者が、そうした人たちのがんばっているところをちゃんと知って「がんばったね」「何かあったら言ってね」と言い続けることが必要なのだと思います。
第2章に登場する相葉さんと長谷川先生の関係からは「自己肯定感を育てる」とはこういうことなのだと感じます。
父・母・姉からずっと虐待されてきた相葉さん。
あいまいな、とらえどころのない訴えも実は心からのSOSなのでしょう。
しかし、ずっとそういう環境に育ちそれが普通だと思っていた彼女が「こんなのいや」と感じ、それを誰かに知ってほしいと思うようになるまでには、かなり手間ひまが必要だったのだと思います。
そして「保健室に行って先生と話すようになって、生きててよかったって思える」ようになります。
中学卒業後次々と彼女を困難が襲いますが、「自分のために必死になってくれた大人がいたという事実」が彼女の支えになります。
阿部彩さんが「自己肯定感は、逆境に屈せず貧困から抜け出す原動力となる」「良好な親子関係や良好な教師との関係は自己肯定感の低下を緩和する。この効果は貧困層の子どもにより大きく現れる」(子どもの貧困/不利/困難を考えるⅠ、ミネルヴァ書房2015)と報告していますが、自己肯定感を育てる接し方が、子どもと関わる私たち専門職には必要だし、子ども食堂や無料塾でもそれが大きな目標になるのではないかと思います。
貧困問題に関わる多くの人に読んでほしい本です。
〔2016年10月16日・貧困ネット、和田浩〕