大きな社会構造が変化する中で社会的ひきこもりは発生
大きな社会構造が変化する中で社会的ひきこもりは発生
2021年に『ひきこもり国語辞典』(時事通信社)を出版した後、私はひきこもりの生まれる経済社会の背景を考え続けてきました。
それについて130本以上の小エッセイを書きました。
これまでに何を明らかにし、今後どう進むかを整理しました。大きくは2つの面があります。
1つはひきこもりが生まれる経済社会関係です。
その後に「ひきこもりをニュートラルに認める社会(ひきこもりが問題とならない社会)とは何かを考えます。
ケア労働など 直接生産にカウントされない(=GDPに加えられない)ことを人間生活の幸福基準に接近して考えます。
まず初めのひきこもり問題が生まれた経済社会の背景は、1950年代後半に始まる高度経済成長以降です。
それは産業構造の日本史上かつてない大変革であり、広い分野に変化と影響を与えました。
工業が発展し、重化学工業から情報産業に移行しました。社会の様相は工業社会から情報社会になりました。
人口移動は大きく、東京一極集中に代表される都市と農村に大きな違いを生みだしました。
農村地域では人口減とともに人口構成の高齢化、過疎化が進行しています。
工業地域には人口が集中し、大規模な集合住宅の開発が進みました。
都市インフラの成長、商業その他の産業が成長しました。
道路網が整備され、物品輸送の中でトラック、乗用車の役割が増大しています。
地方では鉄道網は衰退し、公共交通網が各地で危機を迎えています。
そこを補う通信技術が飛躍的に発展し、社会全体が情報社会に進んでいます。
家族の様子も大きく変わりました。
家族の拡散、家族人数の縮小、少子化が進んでいます。
この家族の減少により地域的共同体はとくに農村(というより非大都市地域)は存続が危ぶまれる地域が続出しています。
産業の変化は、労働スタイルに影響し、機械・設備・備品・用具・道具の開発により肉体労働は減少し、デスクワークが増えました。
身体的疲れよりも精神的疲れが多い就労分野が大きくなりました。
この労働の変化は社会の自動的な変化だけではなく、政策的・意図的なものもあり、非正規雇用労働はその代表例です。
これらは生活文化、生活意識にも影響しています。
住宅条件・衣類・食生活などが多様化しました。
例えば婚姻、葬儀、祭りなどの習俗にも予想を超える変化があります。
こうした変化は、年齢層の間に差異をもって表面化しました。
いつの場合でも変化の初めは子どもに表われます。
1970年ごろには早くも「子どものからだがおかしい」と言われ、80年代には不登校が多くなりました。
1970年代を通して子ども同士の間にあった「子ども世界」が消失しました。
それにつづいて成人にいろいろな程度で影響が表われました。
このような広い分野の変化が産業構造の変化とともに生まれ、ある人はそこに過剰適応し、ある人は適応できずにひきこもり状態になりました。
この世代間ギャップは、年齢差によるというよりも経験する社会生活が異なり、人間関係・社会生活様式の違いが大きくなりました。
世代間ギャップは、言葉の表現は極端ではありますが埋めがたいほど大きな生活観の違いとなっています。
〔別論〕
成人の間にさまざまな精神的な動揺状態が広がりました。
「ウツ」状態が広がり、その一定部分がひきこもりになると考えられます。
それらは症状であるとともに個人差と考えられるものもあります。
社会の大きな変化においては人間も変化をするもので、変化においては一律に変わるのではなく、それぞれの環境や事情を織り込んだ変化になります。
人類学において人間という種の変化を置いてみれば「発達障害」と称するなかには正常な進化過程が潜んでいる可能性もあります。