クレプトマニア
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万引きがやめられない病気「クレプトマニア」 再犯防止のための地域トリートメントとは 依存症
万引きを繰り返す、お金を持っているのに万引きしてしまう―それはクレプトマニアという病気かもしれない。
先ごろ、大森榎本クリニック(東京都大田区)において、開業1周年を記念し講演会が開催され、クレプトマニアの治療と再犯防止に向けた取り組みがどのように行われているか、医療と法律の面から専門家が解説した。
刑罰より再犯防止に向けた治療を
クレプトマニアは「窃盗症」や「病的窃盗」と訳され、ICD-10(国際疾病分類)やDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き)では、物を盗もうとする衝動に抵抗できない疾患と明記されている。
悪いことだとは分かっていても、窃盗に及ぶときの快感や満足感、解放感が忘れられず、何度刑罰を受けても繰り返してしまう依存症の1つだ。
クレプトマニアについて数多くの弁護活動を行っている鳳法律事務所の林大悟弁護士は、講演の冒頭、診断基準と疾患概念がどのように裁判の判決と結びつくかについて、実際の裁判例を元に紹介した。
クレプトマニアは摂食障害を合併していることも多く、「摂食障害の一症状と見るのか、衝動制御の問題が、摂食障害と万引きを引き起こしているのかは、医師の見解が重要です」と話した。
林弁護士は、クレプトマニアの情報提供や、刑事弁護人、治療病院、地域の自助グループの紹介、家族会の運営も手掛ける。
また、刑務所から出所する際、保護監察官と連携して治療につなげるなどの活動も行っている。
「刑罰よりも、再犯防止に向けた治療が必要です」と強調した。
初診時の年齢は40%が65歳以上
続いて登壇した大森榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳氏(精神保健福祉士・社会福祉士)は、クレプトマニアの治療と家族支援について講演した。
「治療で重要なのは、万引きを隠すのではなく正直に告白すること。また告白できる関係を作ることです」と話す。
問題行動を止めるために、「盗まなくてもいい場」「正直に言っても責められない場」を作るのが治療の第一歩だという。
クレプトマニアは、50代、60代で始まる人もいる。
定年退職後やパートナーを亡くすなど、ライフサイクルの中で多くの人が経験する「喪失体験」をきっかけに始まることも多く、同院の初診時の年齢は、65歳以上が40%にも上るという。
治療は三本柱
クレプトマニアの治療は、「通院治療(デイナイトケア・プログラム)」「リラプスプリベンション(再発防止)モデル」「自助グループ」の3つを柱としている。
斉藤氏は「盗めない環境で盗まない治療をするのではなく、盗める環境で盗まない治療を行っているのが、当院の大きな特徴」と語る。
デイナイトケア・プログラムでは、日本で初めてクレプトマニアに特化した教育プログラムが組み込まれ、病気に対する知識や治療、刑事手続きや自助グループ、家族との関わりなどを学ぶことができる。
また、リラプスプリベンションモデルでは、万引きをしてしまいそうなハイリスクな状況と、行動に移してしまうきっかけを特定する。
そして、実際にそうなったときにどのように対処するかを、クレプトマニアに特化したオリジナルのワークブックを使って学習し、毎日の生活場面で実行することで効果を上げている。
さらに斉藤氏は、万引きの再発防止には下に示す「4つのING」が重要と話し、再発は、必ずこのうちのどれかがおろそかになっていると指摘する。
クレプトマニアの問題は、当事者の家族にも、心理的、社会的、経済的に大きな影響を及ぼす。
斉藤氏は「治療の継続と家族の支援は両輪として捉えるべき」とし、加えて「今後は全国の自助グループとも積極的な連携を図っていきたい」と展望し、講演を締めくくった。
〔あなたの健康百科編集部 2017年05月22日〕