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「ジャンパーは差別が差別を生んだ象徴」小田原市生活保護問題で会見
生活保護担当の市職員たちはなぜ「保護なめんな」とプリントしたジャンパーを着たのか――。
この問題について神奈川県小田原市が設置した有識者らの検討会では、財政社会学者の井手英策・慶応大学教授が座長を務めた。
記者会見で、事件の根底には差別の問題があったとの見方を示した。
「保護なめんな」問題、背景に組織的孤立 小田原市
問題が表面化したのは今年1月。生活保護の担当者らが「保護なめんな」などとプリントしたジャンパーを着て自宅訪問などにあたっていた。
市は検討会に検証を依頼。今月6日に報告書が市長に提出された。
市民からは、職員の行為を批判する声と同時に擁護する声も上がった。
生活保護の「不正受給」の厳しい取り締まりを求める世論だ。
報告書は、不正を取り締まることと利用者が穏やかに生きる権利を守ることは、「車の両輪」だと規定。
「前者が後者を傷つけてしまえば、私たちの社会はバランスを失い、信頼と同胞意識という社会の土台が根底から覆る」とした。
ジャンパー作製の経緯については、生活保護の支給を打ち切られた男が担当職員を負傷させた2007年の事件に着目。
事件後も状況改善の必要性が市内部で共有されなかったことから、担当部署に「組織的な孤立感」が生まれ、職員同士の連帯感を高めるためにジャンパーが作られたとした。
改善策としては、ケースワーカーの増員や、人権という視点からの業務の見直しなどを挙げた。
会見で「ジャンパーとは何の象徴だったのか」という質問に対し、井手さんは「担当者の間には、自分たちが一生懸命やっていることを認めてほしいという承認欲求があった。人間としての本質的な欲求が満たされない中で『私たちは正義のために戦っているのだ』という態度を示さざるを得なかったのでは」と指摘。
「担当者は加害者だったが、仕事を正しく評価してもらえなかった面では被害者でもあった。差別をされた人が差別をしてしまう問題。その象徴がジャンパーだったと思う」と話した。
生活保護利用者がパチンコをすることを問題視する世論についても、質問が出た。
井手さんは「生活保護の利用者は弱者であると僕は考えるが、審査を受けて権利を行使する人が弱者なのではない」としたうえで、「おカネの使い道を自由に選べない『自由のなさ』こそが弱者の意味だと思う」と答えた。
〔◆平成29(2017)年4月19日 朝日新聞 東京夕刊〕