Center:2000年9月ー私は中学校を卒業してないの?
私は中学校を卒業していないの?
*「進路指導のはざまで」『中学教育』2000年9月号。
「自分は中学校を卒業していないのではないか」という問い合わせや相談を、この3年間で5、6人から受けました。
精神障害で入院中に、中学校の年齢を超えた20歳過ぎの青年。たぶん学籍がなくて、中学校卒業になっていないのでしょう。
家族と外国に住み、その国の中学校を不登校状態のまま帰国し、中学校入学手続をしなかった人。この人は姉さんが相談に来、夜間中学校が近くにあり、そこに入学し卒業しました。
18歳の女性Pさんからは電話が入りました。彼女の場合は、家族とともに住み、学籍もあったので不登校のまま中学校を卒業していたと思います(当該校への確認をすすめる)。
Pさんは、中学校で学んだという実態や実感がなく、卒業式も経験せずに来たのです。私を含めて、不登校に関 わる多くの人は不登校の子どもが通学しないまま、中学校を卒業できるように主張してきました。それは、社会にでたときの不都合、不利益、不便……をさけるための方策でした。
その代わり、その子の成長過程で社会生活上必要な学習をすることを前提にしていました。定時制・通信制高校、サポート校、学習塾、フリースクール、家庭教師や個人学習などです。
しかし、小学校低学年から不登校になり、家庭的環境として条件がないとどうなるのか。
Pさんからの問いかけはそこを感じさせました。暴力的な幼児子ども虐待はなかったと思いますが、育児・養育不全的な家庭の様子がうかがわれました。
電話で30分ぐらいは話したでしょうか。東京都内に住むが、ついに 住所も名前も教えてもらえませんでした。いまは親元を離れている。でも生計はどうしているのか不安を感じさせます。自分の名前は書けるけれども、社会生活上の最低限の読み書き、計算はできるのか危ぶまれる感じがしました。
Pさんが問いつづけたのは「自分は中学校を卒業しているのかどうか」でした。生活の様子など私の問いかけには、ごく断片的にしか応じてもらえません。
しかし、Pさんはどういう経路かで不登校情報センターを探し当て、電話をかけてきたのです。自分を立て直そうとするかすかな気配(?)を感じさせました。私はPさんに代表される“義務教育から放置されている多数いる(はずの)子どもたち”のことを考えざるを得なくなりました。
義務教育は、少しずつ空洞化しています。やがて読み書きのできない人、たし算・ひき算・かけ算九九のできない人が、社会問題化するのではないか。そんな予感めいたものが頭の片隅に浮かんでいます。
いつの日か、中学校を卒業している(はずの)人や15歳以上でも、夜間中学校以外の施設で、中学校教育を受けられる機会が必要とされるのではないでようか。
Pさんからの電話を受けた後、しばらくしてたどりついた私の将来予測です。
連載「進路指導のはざまで」
(1)2000年3月ー進学先がフリースクール?
(2)2000年4月ー3つの選択に隠された転校処分
(3)2000年5月ー通信制高校に進学した理由
(4)2000年6月ーなぜ入学した後すぐ転校を望むのか
(5)2000年7月ー高校進学後に再発した登校拒否
(7)2000年10月ー子どもの不登校が家制度を変える
(8)2000年11月ー専門家一任でなく背後で応援しよう
(9)2000年12月ー国勢調査で大検合格は高卒では?
(10)2001年1月ー“兄貴分”にも相談相手の役割
(11)2001年2月ー自分さがしの機会がなく退学