特別養子縁組
特別養子縁組
(子どもと貧困)特別養子、制度充実急ぐ 民間頼み、費用トラブルも 【大阪】
貧困や虐待などで実の親が育てられない子どもを社会で育てる仕組みの一つとして注目される「特別養子縁組」。
適切なあっせん(仲介)や当事者へのていねいな支援が求められるが、児童相談所と民間事業者それぞれに課題を抱え、環境整備が急がれる。▽1面参照
民法が改正されて、特別養子縁組が盛り込まれたのは1987年。
宮城県の医師が73年、戸籍に出産記録が残るのを恐れる親が人工中絶するのを防ぐため、育てたい夫婦が実親であるように出生届を偽造していたことを自ら公表し、法整備を求めたのが発端だ。
それまでは、実親との法的関係が残る制度(普通養子縁組)しかなかった。
特別養子縁組は、実親との法的な親子関係はなくなる。
日本の養子縁組制度はもともと家制度継承の手段という認識が強く、児童福祉の観点が薄かったため、民法が改正されても、専門機関やあっせん法は創設されてこなかった。
貧困や虐待などで保護を必要とする子どもは約4万6千人いるが、現状では約9割が児童養護施設や乳児院などで暮らす。
虐待などの増加を受け、国は2011年、こうした子どもがより家庭的な環境で暮らせるよう、選択肢を増やしていく方針を打ち出した。国は、今年5月に児童福祉法を改正。
特別養子縁組と、戸籍上の親子関係を結ばずに一定期間子どもを育てる里親制度を重要な選択肢として明文化した。
7月には特別養子縁組の利用促進のための検討会を立ち上げ、支援のあり方や子どもの年齢制限引き上げなどの議論を始めた。
特別養子縁組の件数とともに、相談も増えている。
厚生労働省によると、民間事業者への養親希望の相談は13年度で2506件。
縁組を希望する実親からの相談は1898件あった。
制度の普及に取り組む日本財団の高橋恵里子さん(45)は
「虐待死を防ぐための妊娠相談の広がりとともに、制度が少しずつ知られるようになり、主に不妊治療に取り組む夫婦に関心が高まっている」と分析する。
国は児相に、もっと積極的に取り組んでほしいとして実態調査しているが、地域によって差が大きい。
背景に深刻な人手・経験不足がある。
虐待認知件数が最も多い大阪府は今年度から、原則として特別養子縁組の仲介を、約50年の実績がある公益社団法人「家庭養護促進協会」に民間委託している。
「国が旗を振っても、児相は虐待対応で手いっぱい。養子縁組は、親子になった後の息の長い支援が特に重要だが、その余裕がない」と担当者は話す。
□業者の許可制を検討
民間事業者は敷居の低さと機動力が強みだ。
妊娠期から実親の相談に乗り、出産直後に養親とつなげる。
一般社団法人「アクロスジャパン」(東京)の小川多鶴さん(50)は、携帯電話のLINEやショートメールで相談を受ける。
7月上旬に自宅出産した女性(25)には出産3時間前から2行のショートメールで3時間会話を続け、支援につないだ。
女性は祖父母の代から生活保護を受け、コンビニのバイト暮らし。同居中の男性との子を身ごもっていた。小川さんは、意思が変わらないのを確認し、40代夫婦との縁組を進めている。
女性は「祖父母の経験を身近で見ていて、いつも叱るように話す役所の人は怖かったので相談できなかった。民間の信頼できる人だったから頼れた」と話す。
ただ、現状では団体を規制する法がなく、運営方法はまちまち。
きめ細かな対応をとる民間事業者がある一方で、費用やマッチングを巡るトラブルも絶えない。
優先して子どもを紹介するため養親に高額の費用を要求したとして9月には千葉県の団体が県から業務停止命令を受けた。
議員立法案では、仲介が適切に行われるよう許可制にするほか、事業者は親や養親希望者らに対し、専門的な知識や技術に基づいて助言や支援をするよう義務づけられる。
□官民の連携を
特別養子縁組に詳しい林浩康・日本女子大教授(社会福祉学)の話
児相での促進には限界がある。民間事業者の質を担保し、行政と連携していくことが現実的な対策だ。
養親の費用負担に大きな差があるのも問題。
あっせんの質や透明性を担保する法律と監査機関をつくった上で、民間事業者が実費徴収に頼らず運営できるよう財政支援が必要。
児相は施設にいる子どもたちの縁組にも同時に取り組むべきだ。
〔◆平成28(2016)年11月25日 朝日新聞 大阪朝刊〕
(子どもと貧困)養えぬ子、託す選択 特別養子縁組「民間団体を許可制」、参院委可決
貧困や虐待などで実の親が育てられない子どもが、安定した新たな家庭を得られるようにする仕組みとして「特別養子縁組」が注目され、増えている。
悪質なあっせん(仲介)を排除するため、民間事業者を規制する法案が24日、参院厚生労働委員会で可決。
早ければ今国会で成立する見込みだ。
□生後1週間、お金がなくて…
特別養子縁組は、実の親が育てられない子どもと、子どもを望む夫婦(養親)が、法的な親子となる制度。
民法に規定があり、子の年齢は原則6歳未満が条件だ。
神奈川県の女性(27)は、生後1週間の女児を、養親になることを希望する夫婦に託し、特別養子縁組を結んだ。
仲介する民間事業者にメールしたのは2014年。
同居男性との子を妊娠し6カ月を過ぎていた。
育てたかったが、男性は「余裕がなく無理」と応じなかった。
建設会社に勤め、前妻に子どもの養育費を月5万円払い、残りの月収約15万円と女性のアルバイト代5万円前後で生活していた。
女性には生活費を補うため約200万円の借金もあった。
つわりで働けなくなり、家賃の安いアパートに移ったが厳しさは増した。
両親とは関係が悪く、頼れなかった。
携帯電話で「子ども」「育てられない」と検索。
見つけた事業者のスタッフに「とにかくお金がない」と相談すると、福祉事務所や保健師への相談に付き添ってくれた。
男性とは別居。出産後に働けるようになるまで生活保護を受けることになった。
「ちゃんとした仕事に就いて、借金もなければ自分で育てたかった。
でも、子どもを迎えてくれた方や支援してくれた人がいなければ子どもはどうなっていたのかと思う」
□養親との仲介、民間に機動力
貧困や虐待などで保護を必要とする子どもは約4万6千人いるが、現状では約9割が児童養護施設などで暮らす。
国は、より家庭的な環境での養育を増やそうと、5月に児童福祉法を改正。
特別養子縁組と里親制度を重要な選択肢として明文化した。
7月には特別養子縁組の利用促進のための検討会を立ち上げた。
仲介は児童相談所と民間事業者が行う。
国は児相に期待するが、地域で差が大きい。
背景に深刻な人手・経験不足がある。
最高裁判所や厚労省によると、昨年の特別養子縁組の成立件数は544件。
07年(289件)ごろから増加傾向だ。
民間の仲介が増えており、団体数も22(昨年10月)と過去最多。
制度の普及に取り組む日本財団の高橋恵里子さんは「制度が少しずつ知られるようになり、主に不妊治療に取り組む夫婦に関心が高まっている」と分析する。
民間事業者は敷居の低さと機動力が強みだ。
一般社団法人「アクロスジャパン」(東京)の小川多鶴さん(50)は、携帯電話のLINEなどで妊娠期から相談に乗り、出産直後に養親とつなげる。
ただ、現在は自治体への届け出制で、事業者の運営方法はまちまち。
費用などでトラブルも絶えない。
与野党がまとめた議員立法案は、許可する事業者について「必要な経理的基盤がある」「営利目的でない」などの基準を設定。
無許可でのあっせんには罰則を設ける。
□あっせんの質確保、財政支援も必要
特別養子縁組に詳しい林浩康・日本女子大教授(社会福祉学)の話
児相での促進には限界がある。
民間事業者の質を担保し、行政と連携していくことが現実的な対策だ。
養親の費用負担に大きな差があるのも問題。
あっせんの質や透明性を担保する法律と監査機関をつくった上で、民間事業者が実費徴収に頼らず運営できるよう財政支援が必要。
児相は施設にいる子どもたちの縁組にも同時に取り組むべきだ。
〔◆平成28(2016)年11月25日 朝日新聞 東京朝刊〕
特別養子縁組、不成立186件 「候補者不在」多く 14~15年度
生みの親が育てられない子供を別の家庭が養育する「特別養子縁組」について、2014~15年度に不成立だった事案が186件あったことが29日までに、厚生労働省の調査で分かった。
不成立は縁組が検討されたケースの2割強に上り、養親候補者が見つからず断念したケースが多かった。
同省は不成立だった事例を詳しく分析し、今年度中にも制度の利用促進策をまとめる。
調査は全国の児童相談所と民間のあっせん団体が対象。
14~15年度の特別養子縁組の検討案件について、11月8日までに回答があった135相談所と14団体の結果をまとめた。
回収率は約65%。
厚労省によると、全検討案件829件のうち、縁組が成立した事案は643件。
成立時の子供の年齢は0歳児の257件(40.0%)が最も多かった。
不成立は186件で、こちらも0歳児の127件(68.3%)が最多だった。
成立に至らなかった理由は、子供の障害や年齢などにより「養親候補者が不存在だった」(23.7%)が最も多かった。
養親候補者は見つかったが実親の同意が得られないなど「試験養育に至らなかった」(22.0%)が僅差で続いた。
厚労省は虐待を受けた子供の一時保護に司法が関与する仕組みについて検討会を設けて話し合っている。
特別養子縁組の利用を広げる手立ても合わせて検討中で、実態把握のため調査した。
〔◆平成28(2016)年11月29日 日本経済新聞 電子版〕
「望まない妊娠」で里親紹介=特別養子縁組で産科と連携―兵庫県
兵庫県は、望まない妊娠で生まれた新生児の里親への委託事業を推進している。
産科医療機関などに協力を呼び掛け、出産を迷う妊婦を児童相談所に紹介してもらう。
生まれた子を里親が試験養育後、家庭裁判所が認めれば、実親との親子関係が無くなる特別養子縁組につなげる。
実親の精神的・経済的な負担による虐待などを防ぎ、安心して育つことができる環境を整える狙い。
県は、県内の産科医療機関に、中絶を考える夫婦に対して特別養子縁組制度を県のリーフレットなどを使って紹介してもらう。
関心を持った夫婦には、県の児相職員らが出向いて相談に応じる。
県が管轄する県内5カ所の児相に登録された里親は2015年度末時点で323組で、互いの条件が合う人を選んで委託する。
6カ月の試験養育後、家裁に特別養子縁組を申請する。
県は事業実施に向け、8月に県医師会や里親団体などの関係者を集めた初会合を開催。12月に2回目の会合を開く予定だ。
児童課の担当者は「望まない妊娠で生まれた子どもが虐待に遭うケースもあり、その防止が目的の一つ。来年度、事業の中身をより充実させ、取り組みを強めたい」と話している。
〔◆平成28(2016)年11月11日 時事通信 官庁速報〕