体験記・ナガエ・私の物語(4)
90行: | 90行: | ||
つきとめられると思ったが、もう遅い。私は学生だと返事してしまったのだ。ひやひやしながら待っていたが店員は動じる様子もなく会計を済ませ、学割の料金を述べた。なぜだろう。不思議に思ったが自分の幸運を喜んだ。 | つきとめられると思ったが、もう遅い。私は学生だと返事してしまったのだ。ひやひやしながら待っていたが店員は動じる様子もなく会計を済ませ、学割の料金を述べた。なぜだろう。不思議に思ったが自分の幸運を喜んだ。 | ||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
[[Category:体験者・体験記|ながえ]] | [[Category:体験者・体験記|ながえ]] |
2011年2月17日 (木) 22:46時点における版
私の物語(4)
子どもしだい?!
病院のカウンセリングにはまだ通わなければならなかった。今回のカウンセリングでは進路を相談するために、とりよせた学校の資料を茶色い紙袋に全てつめて持っていくことにした。前回は1人で行ったので終わりに次回は母を連れてきてほしいと医者に頼まれた。だから2人で行った。 「学校どこへ行こうか迷っている、というか検討しているんです」 そう私は言うと持参した学校のパンフレットを医者に見せた。それを目にとめると眉を上げるように動かし、口元をひきつらせるようにして顔全体の表情筋を驚きととも笑みともつかないように変動させた。 「どこへ行きたいと思っているの?」 医者は訪ねた。 「全寮制の高校です」 私がそう言うと、先ほどの顔とは逆のしぶったような表情になった。 「通信制の高校とか……ムリ?」 全寮制の学校は私には務まらないと思っているのだろうか。さまよっていた視線を医者にあわせると、聞き返すように見つめた。 医者はその無言の会話を読むことができたのか答えた。 「どの学校もメリットとデメリットがあると思う。だから僕としては、また同じ人間関係をくり返して失敗するより、通信でゆっくりした方がいいような気がします……。お母さんはどうです?」 家にいてグチをこぼしている母からは想像もつかない態度で、緊張しているのか体を縮こめ、にじむ手汗をハンカチでふきとりながら指を遊ばせている。 「本人しだいですわ。本人が望むところに行けばいいと思います」 母は小さく返事をした。私はそれを聞いて家にいる時言ったことと違うではないかと少しばかり腹を立てたが、他人の見ている前で親子ゲンカなどみっともないと思い、怒りの感情を抑さえるため、口をへの字に曲げ、両目の視線を左隅によせた。 実際はどう思っているのだろう? 母は医者の前に行くと弱った老人か小さな少女のように振るまうのだ。人からの評価を過剰に気にする性格なのだろうか。私だけでなく母も「よい子に見られたい族」なのだろうか。 医者は私の怒りを感じとったのか顔を虫眼鏡で昆虫でも観察するかのように眺めると、カルテに、素早く何か書きこんだ。 今回のカウンセリングで私の意見は全寮制の高校へ行きたいということになっていて、子どもがそう願うなら母はそれを尊重しますよ……という、家で言い争いになったことなどなかったかのように、医者に誤解されて受けとられているに違いない。 人と人との関係が円滑に進んでいない時は、他の人の関係もうまく行っておらず、その関係にも嘘があるという言葉を何かの本でよんだことだあるがその通りだ。誰ともうまくいっていない。 母と父とも学校もそして近所でもよくない私の噂が流れているだろう。私は何もかも置いていかれ、ぐらつく地面の上に取り残されてしまったマネキンのようだった。 人間に似せてつくられた人形。遠くからみるとマネキンは人間そのものだが近づくと、動くことのないポーズをとり続けて、仮面をつけたように表情も変わることがない。 ショーウィンドウで、きらびやかな服を着せられ飾られ、人々に見られるためだけにつくりだされたマネキン。流行の洋服を次から次へと着せられ脱がされて、嘆くでもなくそれは使命なのだろというふうにすましている。 私の着せられている服はどんなのだろうか。売れない服を着たまま、人前でさらされてそれでも誰もその服をとり替えてはくれない。寂しく、悲しいマネキン人形の姿。 今回のカウンセリングで得られるものはなかった。相談もあいまいだったし、なんだか冴えなかった。 病院から帰ってくると、学校のことばかり考えた。親のいうように全寮制の高校を受験してみようか。家にいる時は矛盾した発言を病院でした母に「病院の先生も通信がいいって言ってるんだし、そうしたいんだけど」と怒りの意味の口調で言った。 思えば、医者に家庭内のことについても話せばよかったのだ。親の言いなりになって医者の前でいい子ぶってなく、私は通信制の高校へ行きたいと主張しているが親がもとめていると言えばよかったのだ。 しかし母は「本人が言うようにさせてあげたい」と医者の前にいた態度とは豹変した様子をみせ、 「あんた通信なんかあほの行く学校。価値も何もないのよ。家にずっといてもらっても鬱陶しんだから全寮制にしなさい」 ときっぱりと言った。そしてつけ加えた。 「バイトなんかねぇ、あんた流されやすいんだからすぐ遊ぶようになって変な男につかまるに決まってるじゃない」 言い返そうと言葉を探したが、家にいても鬱陶しいと言われたことがショックだったのか、はねのけるだけの言葉を見つけだすことができなかった。 私の自我ブロックは弱りつつある。言い返すどころか、ひいてしまい固い殻のように閉じこもりつつあるのだ。 私は何だかむしゃくしゃした気持ちになって、ここらで一発気晴らしに出掛けることにしようと思った。何か、変えてみたい。今のままじゃ、今の私じゃ満足できない。そして実行した。
今風の髪型
次の日、私は電車に乗って街へ出かけた。平日の日中は乗客が少ない。だから私はシートに腰をすえることができた。だらりと足を伸ばしほうだいにのばし、人のいない4席分を一人占めにして座った。 2席ずつが向い合うようになっていて、その間に窓がついている。ぎっちりと窓はしめられていて、鼻にじっとり汗をかくほど暖房が効いていた。 私は着ていた黒のコートを脱ぎたたんで隣の席におくと、窓をおしあげた。数センチ開かれた窓からさすように冷たい風がはいってきた。 私はガタンガタンと揺れる電車に心地よいものを感じながら車窓のガラスから透けて見える通りすぎていく景色を眺めることにした。それから手の甲に力を入れぴんとすると、窓にすかしてみた。 以前なら骨の線が見えたのにぷくぷくと脂肪をつけている。太っている姿を知り合いに見られたらどしようかと思っていた。 以前は、楽にはけたジーパンもきゅうきゅうになってはくようになり、お尻の近くのももには赤いような紫のような線がはいってしまっていた。植物の実がうれすぎてひびが入り割れるように、急に発達し脂肪がついたりするとそうなるのだ。 外へ出ることは嫌だったが、その思いよりもあることをやってみたいという思いの方が強く、出かけることにしたのだ。家にこもってばかりではよくないという思いもあったが、今日は“毛染め”をしようと思いたったのだ。 なんだか毛染めって言うと年のいった人が白を黒く染めるみたいに聞こえるで“カラーリング”、“ブリーチ”ということにしよう。 雑誌や週刊誌など参考になるようなものは引っ越すさいに読むこともないだろうと思い、必要ないものとして処分してしまった。だけど、私の中では何色にしようかは決められていた。茶色。黒い髪の毛を明るい色にカラーリングしたら私は変われるかもしれない。そう思った。 電車を降りると、身をかたくし凍えるような寒さがおそってきた。肩を上げてよせると、しみるような空気に白いため息一度ついた。 店までは歩いていった。店の玄関にはメニューが黒板に書かれていて横に料金が記されていた。ガラス戸から店の様子をうかがうと客は少なく、待たずにしてもらえそうだった。今日は平日の日中なのだ。 同い年くらいの子たちはほとんど高校生として学校へ行っている。美容院なんかにオシャレしにきて、私は何やってんだろう? そう思うとちょっとナーバスな気分になった。ミンナベンキョウシテルジカン。 だけどここまできたんだからひきかえすわけにはいかない。よし! 私は顔をひきしめると戸を勢いよく押した。 ――カランカラン。呼び鈴が鳴ると、店員がいらっしゃいませ、とひびきのよい明るい声で出迎えてくれた。どうそと奥へ招き入れられ椅子に座らされた。 美容院ではおのじみのどでかい鏡が真正面にある。白色でなんだかやぼったく、まどろんだような目をした自分の顔がダイレクトに映った。 思わず鏡から目を離したくなったが、店員が肩にタオルをかけたので、そのまま自分と目を合わせ続けていた。 「今日はどうされますか?」 店員はごくありきたりで、当然の質問を私にした。 「えっとぉ。カラーリングしたいんですけど」 「何色ですか」 「あまり目立たないような、うーんダークブラウンていうのかな。あの色」 「はい、わかりました。カットはいいですか」 「はい。いいです」 「じゃあ、髪ぬらしたいんで向こうに移動してもらえますか」 店員は言うと、かけたタオルをとり、片手で場所を指示した。 それに従い移動すると横に寝かされて髪を洗われた。自分で洗うのより他人に洗ってもらう方が気持よさは百倍違う。 濡らすだけかと思っていたがシャンプーもしてくれて、地肌をマッサージするように洗ってもらい天国のようだった。プロならではの技術なのか、他人ならばどんな人でもできるナミのことなのか。もしナミだったら誰かに頼み無料で洗ってもらおうではないか。 その誰かというのがまずはじめに親の顔が浮かんだ。親に髪を洗ってもらうのか? そんなのまるでお子様である。私はとっくに幼稚園を卒業した立派な娘なのだ。いくら天国のような気分を味わいたいからと言ってこの年になって親に髪を洗ってもらうのは気がおとる。私にはちゃんと自覚がある。自分は思春期で扱いづらく感じやすい年頃だということぐらい。 次ぎに浮かんだんは親友の顔だった。親友からは「何を考えているかわからない奴」と知り合った直後から言われ続けているので、もしこんなことを話したらますます親友は爆笑するか、あるいは本気で引いてしまうかのどちらかである。 無料でシャンプーを他人ににしてもらおう何で無謀なチャレンジ精神であろうか。いや、費用の有無には関係なく、人にシャンプーしてもらおうという提案自体が無謀なのだ。 親友もパスとなると他は遊び友達くらいしかない。なんだか泡だらけでぐちゃぐちゃにされそうだ。 こういう場合、初めに思いつくのは恋人なんだろうなぁ。なんて思ったりした。恋人なんて男っ気のない今の私には無縁の話である。恋人に洗ってもらう髪の毛は、さぞかしつややかなものになるだろう。 恋人のことを考えるなんて私には余裕のようなものができてきたのだろうか。苦しい時間を通りこえ、眠っていたさなぎは、たくましく頑丈な飛び立つための羽をはやし、ボンドのような幕を破り、蝶へと姿を変え始めているような予感が遠くでした。 強烈な臭いで私は一挙に気分を害し、現実にピントを合わせることになった。髪の毛を洗い終えると、元座っていた椅子に戻るように言われたので、インド人のようにタオルを頭に巻いたままどでかいの前に座った。 鏡を見ても自分の顔なのだがそのような気がしない。これは私が離人感の症状を持っているからだろうか。私は、この妙な感覚とつきあってかなり経っていたが何ら変化はなく、妙な感じのまま生活していた。 包帯をほどくように頭に巻かれたタオルをとると、その強烈な臭いのする液を髪に塗りたくった。 頭皮に酸をかけてるいような痛みを感じたが、カラーリングは生まれて初めての経験だったので、きっとこんなもんなのだろうと思い美容師に言う必要もないと思い、後で不幸が待ち受けていることも知らずに沈黙を保った。 毛が染まるまで少し時間をおくと、再び洗い、そしてドライヤーで乾かした。鏡には、数時間前まで黒かったはずの髪は茶色に変えられ堂々と映っている。いや逆か、私が自分を見つめているのだ。 今風の髪型。 私は生まれて以来守り続けてきた黒髪を茶色く染め、変身した。「変身」。それは生まれてからわずかしかたたない子どもでも、長年生きてきた大人でも望む者は多い。 子どもならテレビの主人公、ヒロイン。大人ならドラマの主役や雑誌のモデル。同様に私も、ある女優や流行歌手にあこがれて髪を染めたようなものだ。 自分という人間をかみ砕く願望は、私は小さい頃から持っていた。“魔女の宅急便” という映画でキキという主人公がほうきにまたがり空を飛ぶシーンがあるのだが、それを見た私はまねて二階から“飛ぼう”としたのだ。 もちろん私はその階段から転げ落ちるつもりなど全くなかった。あの小さな魔女のキキのように飛ぶつもりだった。魔法という神秘で魅惑的な力をつかって。 私は、飛びたかったわけでなく、魔女といういとも簡単に運命を操ることさえできる人間をこえた超人になりたかったのだ。 ツヨイ、ニンゲンニ。 鏡に映る茶色い髪をさわりながら、私はそこにあの夢の中にでてきた少女をみていた。眼鏡をかけた知的な少女。彼女はいつも言えずにいる私の本心をあざむくように言い、その姿を見せつけてくる。私は彼女になりたいのだろうか。ツヨイ、オンナニ……。 「これでいいですか」 不意に店員から声をかけられ、自分の世界から脱出した。 「ありがとう」 礼を言うと代金を払い店をでた。代金を払うときに「学生ですか」と訪ねられたが、学割を使えることを知っていたので、休学していたのにはいと返事した。 言った後になって頭回転し、後悔の念にがおそってきた。平日の真っ昼間、学校へ行かずこんな場所へきている者がいるだろうか。 つきとめられると思ったが、もう遅い。私は学生だと返事してしまったのだ。ひやひやしながら待っていたが店員は動じる様子もなく会計を済ませ、学割の料金を述べた。なぜだろう。不思議に思ったが自分の幸運を喜んだ。