渋谷ファンイン
2021年3月5日 (金) 12:57時点における版
所在地 | 東京都渋谷区 |
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ページ名 渋谷ファンイン 東京都渋谷区 (居場所)
不登校も自殺も増えているが、問題は学校が「子どもたちの居場所」になっていないことかもしれない
児童生徒の自殺が、2020年には年間479人と前年より140人も増えて過去最多となったことを、2月15日の自殺予防の有識者会議で文科省が明らかにした。
内訳は小学生が14人(前年比8人増)、中学生13人(同40人増)、高校生329人(同92人増)となっている。
不登校も増えている。昨年10月に文科省が公表した調査結果によれば、2019年度の不登校が高校では減っているものの5万人を超えており、小中学校では18万1272人と、前年度より1万6744人も増えている。
自分の「居場所」を失っている子どもたちが増えているのだ。
なぜ、学校は子どもたちの居場所になっていないのだろうか。
■子どもの「居場所」ではなくなってる学校
「NPO法人ピアサポートしぶや」は、1999年に創設した中高生の居場所「渋谷ファンイン」の運営をはじめ、不登校をはじめ困難を抱える子どもや若者の自立をサポートする活動を続けている。
その理事長を務める相川良子さんは、校長まで務めた元中学校教員である。彼女が言った。
「学校が子どもたちの居場所になっていません」
彼女が不登校を意識しはじめたのは、教員をやっていた1980年代のことだった。
「学力偏差値を重視するようになって、偏差値を上げるために学校では子どもたちを抑えつける傾向が強くなり、それが校内暴力や不登校などにつながっていきました」と、相川さんは言う。
学校がどんどんテストの点数一点張りになっていくなかで、学校は子どもたちにとって「自分の居場所」ではなくなっていったからだ。
「学力偏差値によって輪切りにされて受験校が決まり、子どもたちは将来を決められていく。
そういう教育と学校の管理に、違和感を強くもっていました」
彼女が担任したクラスにも不登校の子がいた。
「教員ですからね。『学校に来なくていい』とは言えなくて、『登校しなさい』って言いました」と相川さん。
強制的に来させたわけではない。そして登校するようになったら、「それでお終い」になったわけでもなかった。相川さんが続ける。
「『楽しいクラスにするから学校においで』って約束したんです。
楽しい授業を心がけたし、行事はクラス全体で楽しめるように盛り上げました。
その不登校だった子がギターが趣味だって知って、それなら『文化祭でバンドを結成しよう』って提案しました。
子どもたちがロックバンドをやりたいというので、やらせた。学校的には禁止されていたので、大顰蹙でしたけどね(笑)」
そういうなかで、相川さんが意識したのが「子どもの居場所」だった。
校長も経験するなかで、居場所を失っている子どもの姿をどんどん意識するようになった。
「教育委員会に異動になったとき、放課後に子どもたちが集まれる『中高生クラブ』というのを提案して実現したんです。
区の施設の開いてる部屋を使って、ギターを弾いていてもいいし、寝っ転がっていてもいい。
学校に縛られない、自由な子どもの成長の場というコンセプトでした。
隣に中学校があったので、放課後になるとたくさん集まってきてたいへんでした」
それも1年で閉鎖となる。区の施設を使うためには手続きも必要だし、いろいろ取り決めがあったからだ。
その後、教員も教育委員会も辞めた後に相川さんが提案してできたのが、「ファイン」だった。
中高生クラブは区の組織だったが、こちらは地域が主体になった。
「さまざまな活動を地域の大人とやるんですが、さらに『ユースパートナー』という存在を置いたんです。
地元の若い子たちで、中高生の『相手役』です。
遊び相手でもあるし、勉強を教えたりもする。その費用は、私が文科省の助成金とかいろいろ集めてきて工面しました」
■家にこもっているより子どもたちは仲間といたい
そうすると、不登校の子もファインにやってくるようになった。
「家にこもっているより、友だちと話もできるし勉強も教えてもらえるというので、やってくる。
結局、不登校の子も『居場所』を求めているんです」と、相川さん。
もちろん、不登校の子だけでなく、普通に学校に通っている子もファインには集まってくる。誰もが、居場所を求めている。
このファインは、現在も数カ所で活動を続けている。
そして彼女は、さらに深刻な問題を抱える子たちの話相手になり、一緒に考え、一緒に行動するピアサポートという活動を開始する。
そうしたピアサポートと時間を共有することも、子どもたちにとっては「居場所」なのだ。
「大人は『将来どうしたいの』と子どもに訊きますよね。『いま勉強しないと明るい将来にならないよ』とかね。私に言わせれば、ありえない。
いまを楽しんで生きていたい、遊びたい、それが子どもだとおもうんです。
子どもが子どもであることが大事にされていない、だから子どもたちは『居場所』を見つけられないんです。
居場所があれば、子どもたちは主体的に動いていきます」
学校は居場所になれるのか、と相川さんに訊いてみた。
「ダメでしょうね。学校というのは同じ価値観で生きていかなきゃいけない場所ですよ。そういう傾向が強まっています。
変わっていかなきゃいけないとおもいますけど、なかなか難しいかもしれません」
学校が「子どもたちの居場所」になれたとき、学校は子どもたちにとってほんとうに必要な、大切な場所になるのかもしれない。
前屋毅 フリージャーナリスト
1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。
最新刊は『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)。
ほかに、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他の著書に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『洋上の達人-海上保安庁の研究-』『日本の小さな大企業』などがある。
■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)
〔2021年2/18(木) 前屋毅 フリージャーナリスト〕