ひきこもりから働き始める可能性と条件
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ひきこもりから働き始める可能性と条件
〔会報『ひきこもり周辺だより』2018年1月号〕
不登校情報センターは22年前に生まれました。
この間には社会状況は大きく変わっています。
活動内容は当初の不登校関係にひきこもり関係が加わりました。
いまでは不登校生の進学先とひきこもりの仕事探しの2つが中心になっています。
一昨年から昨年にかけて、通所していたひきこもりの方5名が仕事につきました。
うち2名は40代も半ばです。
4名は同じ会社で働き、1名が親の知り合いの会社です。
同じ会社で4名が働き始めた経験がひきこもりからの仕事につく段階的・スロープ的方法をいっそう具体化するきっかけになっています。
今回のテーマ「ひきこもりの方が働き始める可能性・条件」はこの経験によります。
4名は同じ会社で働き始め始めたのですが、一昨年10月から昨年5月にかけて、1人ずつ仕事につきました。
就職活動というよりも、その会社のリクルート(求人)活動がありました。
会社側のリクルートをした人もひきこもりの経験者Aさんです。
Aさんは個人的に相談に来た後、まず親の会に参加しました。
その後もしばしば不登校情報センターに顔を見せます。
そこで事務作業やパソコン作業をしている当事者と話しています。
そうして顔見知りになり、自分が働いている産業廃棄物会社の様子も話に交えていきました。
半年くらい過ぎたころ、「Aさんが働く会社説明と働く人の様子を説明する会」を開きました。
当事者だけではなく家族にも参加を呼びかけます。
実際に参加したのは多いときが8名、誰も参加しなかった時もあります。
1名でも参加したら開きました。
親の会に参加しているお母さんと一緒にBさんが来たのは一昨年9月です。
そのときBさんが働こうという意思表示をしました。
Aさんはその場から会社担当者に電話をします。
働くことになる仕事の現場に一緒に出掛けるなどしてBさんとAさんはかなり親しくなったところで、会社の面接になります。
面接の場にはAさんも面接する会社側の1人として同席します。
少しずつ違う経過がありますが、Cさんは11月、Dさんは2月、Eさんは5月からこの会社で働き始めています。
リクルート(求人)活動を始めたAさんは、当事者の集まる居場所に一緒にいて顔見知りになる、自分にもできる仕事だと話します。
当事者が仕事につくときの高いハードルは就職面接です。
その高い壁を半分以下に下げてしまったと思えます。
求職する側が居場所に参加したのがひきこもりからの仕事につく取り組みになったのです。
これを可能な条件で再現すること、それが「ひきこもりから働く可能性を広げる」のです。
Aさんの仕事の現場は都内の商業施設で20か所に分かれます。
商業施設ですから土日曜日にも営業をしています。
就業体制はそれに応じたものです。
どの施設を担当するのかも事前にAさんと話をしています。
どれぐらいのペースで働くのか。
ある人は週6日、ある人は週1日から働き始めました。
朝早いのが特徴ですが現場により様子は違います。
午前中に仕事を終える人、交代制のため就業時間が3時からになる人、1日の就業時間が3時間など短くする人もいます。
このあたりも当事者が自分で状態と現場の様子を見ながら決めます。
会社での正式の就職面接をする前にこれらのことはAさんと話がすんでいます。
作業現場や勤務時間がかなり柔軟に対応できたのも、働けるようになった理由です。
働き始めた後の様子も少しずつ伝わってきます。
4人の例では少ないし期間も短いので他の人たちの例も参考に話します。
明日に備えて早い時間から寝るようになり、生活のリズムができます。
週4日では苦しくなって週3日に減らした人もいます。
早く仕事が終わった後に別の仕事も始め、ダブルワークにし、週2日は別会社でも働く人も出ました。
アレルギー的な白斑がでるなど身体症状が表われる人もいます。
ここを辞めたらまたひきこもり状態の戻ってしまうのではないかと不安になり、それが動機で働き続ける、辞めるに辞められないという人もいます。
社内の人と親しくするのが苦手です。
親しくなるとどうしても「前はどうしていたのか」を聞かれるので困ります。
詮索されるのが大の苦手です。
先輩社員に業務上のことでこんな場合どうするのかを聞くのが大変です。
社内に対立するようなグループがあり、一方に誘われているがどちらにも加わりたくないと困る人もいます。
これらのいろいろな事情を並べたらきりがないほどですが、そこにひきこもりを経験した人に共通する特徴が表れます。
自己主張ができないー―これは相手の考えを否定したくないことと関係するとみてください。
20代であれば、これまでの停滞を取り戻すかのように動き、逆効果になる人もいます。
総じて「集団で生活すること・働くことに不便や苦手を感じやすいこと」が共通しています。
働き始めた初期はこういう状態のことが特に多く現われるので、フォローする、カバーする相談者がいります。
当事者にとっては上手くいかなくても一つの経験を重ねるのがいいという意見もあります。
これが最後の機会とがんばる人もいます。
それを孤立ではなく相談できる条件をつくるのがAさんの役目の一つです。
会社内になければ居場所で知り合いをつくる、会社内にそういう人がいればスムーズです。
もれ聞くところでは、Aさんに誘わた4人は仕事に就いて一息つき、元気です。
不登校情報センターの20年の間に、仕事についた人は多くいます。
どういう職種が比較的多いのかを振り返ってみました。
介護職は多いと思います。
それは対人サービス業であり、ひきこもりには合わないと思うかもしれませんが、そうではありません。
大勢の人にかかわるのは丁寧にできなくてうまくできませんが一人ひとりに丁寧にかかわるのは適正な職業です。
介護士以外にも整体師、カウンセラー、家庭教師なども適職になります。
Aさんの産業廃棄物の仕事は軽作業の1種です。
事務所やビル施設の掃除などが該当し、いろいろな人が働いています。
スーパーマーケットのバックヤードの仕事もこれに該当するはずです。
創作系も多くいます。
絵を描く・文章を書く、そういうことに優れた人は多くいます。
手芸や工芸活動もこれに入ります。
ただ個人の創作活動ではなかなか安定的な収入にはなりません。
手工芸の会社などは販売網があるので収入になりますが、個人ではなかなか壁が高いようです。
パソコンをよく使う人は多いのでIT系ながら創作系の属する人がいます。
これらがひきこもり系の人の適職と思えることです。
しかし、女性には販売職に就いた人も少なからずいます。
まだいろいろな可能性があることも確かです。
自分の好きなこと、特技を生かすことの先に何かがあると思います。
いずれも個人差があります。
どれにも当てはまらない人もいますが、これらは参考にしてもいいのではないでしょうか。