香川県ゲーム依存症対策条例案
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2020年2月28日 (金) 15:26時点における版
所在地 | 香川県 |
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周辺ニュース
ページ名香川県ゲーム依存症対策条例案、香川県()
令和によみがえった「ゲーム脳」の“亡霊” ゲーム依存症対策条例案なぜ総ツッコミ受ける?
ゲームを遊ぶ少年
ゲームの利用を原則1日1時間に制限しようとする香川県のゲーム依存症対策条例案ですが、パブリックコメントの募集を終え、今後は条例成立の可否に注目が集まります。
条例案は、ゲームファンだけでなく、ゲームに厳しく当たる大手メディアや多くの識者から、さまざまなことで総ツッコミを受ける状況でした。
こうもグダグダになったのはなぜでしょうか。
条例案の条文、県議員のコメントのどちらもが矛盾していたり、おかしいからなのですが、突き詰めると規制対象のゲームに対して条例立案者の勉強不足の度合いがひどすぎることでしょう。
取材をしても関係者が同様の指摘をしています。
そして、それを象徴する記事が1月27日の北海道新聞に掲載されました。
記事は、香川のゲーム規制について好意的に紹介しています。
その中に香川県議会の対策条例検討委員会の会長・大山一郎議長のインタビューが掲載されており、その一部を引用します。
今回はWHO(世界保健機関)の疾病認定や四国新聞の記事がきっかけでしたが、私自身10年以上前から、問題にかかわっています。
当時、小学生の娘が友人たちと部屋に閉じこもりテレビゲームに没頭するのに驚き「ゲーム脳」を勉強し、問題を提起してきました。
出典:子どものゲーム依存防げ*四国新聞 紙面で警鐘、啓発用DVDも配布*健康懸念 香川で条例化へ(北海道新聞)
「ゲーム脳」の騒動を知っている人なら脱力し、議論にならないと悟って「ハイ、解散!」と言いたくなるでしょう。
ゲーム脳とは、今から18年前の2002年に日本大の森昭雄教授が発表した説で、テレビゲームをやり続けると大脳の前頭前野の活動が低下し、子供がキレやすく反社会的になる……というものです。
発表当時は、各メディアで大きく取り上げられ、特に教育関係者から支持を得ました。
しかし医学の専門家がこぞって否定し、当初は肯定的に報道したメディアも反省するなどしてトーンダウン。
今では疑似科学の扱いになっています。
ところが一部の人たちはゲーム脳をいまだに科学的な裏付けがあると信じているようで、さらっと新聞などに肯定的に載ったりします。
当時、森教授に取材する機会があり、対立する立場から取材を申し込んだ私に対しても丁寧に受け答えをしていました。
ただゲーム脳は、そもそもゲーム自体をシンプルに捉えすぎていて疑問が多く、その論理は納得できる内容ではありませんでした。
それでも、教授として自由に研究をして発表することは当然の権利であることも理解しました。
もちろん、その発表に対して誰もが批判する権利があるのも当然です。
ともあれ、専門家とメディアが最終的にそろって否定し、結論が決着したはずのゲーム脳が、令和の時代に“亡霊”としてよみがえってきたわけです。
冷静にゲーム脳を調べれば、口に出すと論理の説得力がゼロになるから出さない方向に行くのに、それでも口を突いて出るということは、本当に信じている証でしょう。
大山議長は「10年以上前から、問題にかかわっています」と言い切っていますが、せっかくならゲーム脳がなぜ否定されてしまったのか、多くの医療関係者の指摘もくみ取ってほしかった次第です。
また取材する側からすると、もう一つ不思議なことがあります。
北海道新聞の記事ですが、ゲーム脳というワードが出てきた段階で、記者かデスクが「これ、記事の説得力がなくなりますよ。
ゲーム脳のワードは削除しましょう」となるはずなのにそうならず、しれっと掲載されていることです。
ゲーム脳が疑似科学になっていることを知らなかったとも取れますし、意図的に掲載することで「議長の考えに問題あり」と皮肉を込めたのかもしれません。
真実はさておき、この記事が大山議長の本音をきっちり引き出しているのは確かです。
ひきこもりや不登校などの社会学が専門で、今回の条例案を批判している大阪大の井出草平・非常勤講師が、大山議長の昔の発言をつきとめ、その問題点について指摘しています。
ゲーム脳の経緯を少しでも知る人は、その論理や発言に苦笑するでしょう。
【参考】井出草平の研究ノート 2006年大山氏議会発言
まあ「ゲーム脳」説を信奉する立場に立てば、ゲームは悪魔のツール以外のものでなく、強制的に規制・排除する動きになるでしょう。
議事録もない(少なくとも見せない)、パブリックコメントの受け付け期間を短縮するといった動きは、何としても成立させたい強い意志は感じ取れます。
また大山議長のインタビューでは、WHOの動き、「ほっとけない『ゲーム依存』」という題目でゲーム規制のキャンペーンを展開した四国新聞の取り組みが「きっかけ」になったとも触れています。
WHOの動きだけを見ると「ゲーム規制は時代の流れ」と思い込むかもしれませんが、多角的に見つめれば、ゲーム依存もすべてをうのみにできない面があることは理解できるはずです。
また条例案について地元紙は味方かもしれませんが、なぜ大手を中心に多くのメディアが批判するのか、その意味をよく考えてほしいと思う次第です。
確かにゲームにも問題点はあります。
ですがその問題点を指摘せず、ゲーム全体を規制する粗い条例案を出して解決するかのように誘導する安易な姿勢に危うさを感じるのです。
そもそも、そこまで情熱があるならば、ゲーム規制反対派のメディアの取材を受け入れて、「反対派を論破する」ぐらいの気合いと度量があってこそ、本当の政治家ですし、反対派からも畏怖されるはずです。
話は変わりますが、大山議長の趣味はサッカーだそうです。
中学、高校とサッカー部に所属し、サッカー観戦が趣味。
「欧州リーグや日本代表戦を見ていると、思わず力が入るね」と笑みを浮かべる。
出典:かお/第91代県議会議長に就任した 大山一郎さん 政策立案、提言のできる議会に(四国新聞)
私の周囲にも、サッカーざんまいで親を悩ませている子供がいます。
私もサッカーが好きなので「打ち込むものがあっていいこと」と思っていますが、親としては「少しは勉強もして」と言いたくなるわけで、よくある光景ですよね。
そして調査をすれば、サッカーのプレー時間が多くなる子供ほど、勉強をせずにサッカーにのめり込んでいる確率は高くなるはずですし、サッカーに真剣であるほど禁止された時の反発はすさまじいと思います。当たり前のことですが。
そこで、サッカーをゲームと同様に1日1時間に規制する条例を作り、“サッカー依存”の子供を減らすために力を尽くしてはいかがでしょうか。
ゲームのやりすぎはダメで、サッカーのやりすぎは問題なしというダブルスタンダードは、説得力に欠けますし、サッカーのヘディングは子供の脳に悪影響を与える可能性があるという専門家の意見もあります。
……とまあ、規制の理由付けは作れるものです。
政治家は国民の生殺与奪を握る存在であることを胸に刻み、痛い意見にこそ謙虚に耳を傾け、時には間違いを認める勇気も必要でしょう。
間違うことは誰でもあるし、勉強が足りず周囲に巻き込まれて流されることもよくある話ですから。自戒を込めて。
そして自ら間違いを正せる香川県の勇気に期待します。
河村鳴紘 サブカル専門ライター
ゲームを愛するものの、ゲームには愛されないヘタレなゲーマー。
ゲーム好きが高じて、記者として兜倶楽部にも出入りし、決算やメーカーの各発表会、PS3の米国発表会、中古ゲーム訴訟、残虐ゲーム問題など約20年間ゲーム業界を中心に取材をする。
合わせてアニメやマンガにも手を伸ばし、作品のモデルになった場所をファンが訪れる“聖地巡礼”現象も黎明期から現地に足を運ぶなどしている。
マンガ大賞の選考員も担当しており、好きなジャンルはラブコメ、歴史もの。
〔2020年2/16(日) 河村鳴紘 サブカル専門ライター〕
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