高度経済成長と生活の基本的なサポート体制
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2023年10月3日 (火) 15:15時点における最新版
高度経済成長と 生活の基本的なサポート体制
私は1960年から1970年の約10年間を日本の高度経済成長期と仮定して考えます。
この期間、日本は高度な経済成長をとげ、社会は発達した社会に到達しました。それはGDPにおいて成長したばかりでなく、社会に大きな変化をもたらしました。
都市への人口の集中と農山村における地域社会の衰退(農業の停滞)、家族の分離と家族関係の変化などがあります。
さらに注目すべき変化をしたのが、岩間夏樹『若者の働く意識はなぜ変わったのか―企業戦士からニートへ』(ミネルヴァ書房.2010)の指摘です。
1970年代の中ばから、明らかになったこととして、日本人の生活の基本的なサポート体制が、地縁・血縁連合体制から、職場に変わったのです。
岩間さんはこう描きます。
《農村から都市へと、人の流れが押し寄せた。
それを受け入れた都市の産業は、成長期にあって常に人手不足を感じていた。安定的な人材確保のためにも、会社は次第に手厚いサポート体制を従業員に提供するようになり、これが故郷の家や村の代わりを都市で果たすようになっていった。
誰もが次第に手厚い処遇を受けるようになる、公平で、しかも先の読める年功賃金制度、安価な寮や社宅、はては保養施設、病院、持ち家制度などなど。
こうして職場が提供する生活サポート体制にどっぷりとつかった安定したライフスタイルが定着していった。それがライフスタイルの五五年体制だ。
ライフスタイルの五五年体制は企業サラリーマンの生活から始まったが、その考えかたはそれ以外の人々にも拡大されていった。
公務員や公益法人の職員も、民間並みということが雇用条件の基礎となった。》(36p)
ここでは主に都市の職場をさしますが、農村では農協が、商業者には交通通信・販売体制整備による販売網が、中小の工業経営者には大企業の生産体制の系列化が進み、その中に入れば安定した生活が得られるようになったといいます。
このネットワークに潜り込めば自由さには制約を受けながらも自立する必要のないライフスタイルができたというわけです。
言いかえれば、高度経済成長前の日本人の生活の基本的サポートが村(地縁)や家(血縁)から、職場に代わったのです。
高度経済成長期に広く成立した終身雇用制と年功賃金制によって日本は世界第一級のモノの豊かな社会を実現したのです。
この職場が生活の基本的サポート体制が、1990年代のバブル経済の崩壊とともに、すなわち企業の動揺性によって崩れていきました。
1990年代以降に生活の基本的サポート体制が崩れたあとそれは何に求められるのか?
地縁、血縁は復活するのか? どうも怪しいというしかありません。
回復の可能性がゼロとは言えないけれども以前ほどの強さを回復することは期待できません。
新しいタイプのコ・ハビテーション(非血縁者の共同生活)、それにNPOやNGOが新しく考えられていますが、どれも強く広がるにはほど遠いと考えられます。
ただこれらは新しい要素であり、慎重に実際の広がりから考えるしかないでしょう。
ともかく職場などによる基本的なサポート体制の崩壊以後、この安全性の空白、すなわち不安定な時期が1990年ころから30年にわたって続いています。
セーフティネットの喪失です(かつてのセーフティネットが完全であったというのではありません)。
ここに若い世代向きに対応しはじめた、就業と自立のための取り組みが注目されます。
いろいろな動きがあるようですが、その中で重視すべきは自治体であろうと考えます。
岩間さんは言及していませんが、自治体とその頼りなさそうな相棒である社会福祉協議会に私は注目したいと考えています。
詳しくは調べていかなくては言えないでしょうが、さしあたり社会福祉協議会を次のように考えられます。
① ほぼ全国の全自治体につくられていること、多くの自治体には校区や地区単位もできていること、
②民間企業を含みながら公共的な性格を持つこと、
③民生委員・児童委員という住民に密着する行動部隊を持つこと(非常勤の準公務員ですが、ボランティア活動)、
④協力グループにボランティアセンターなど専門分野が単位社協に即してできています。
⑤社会的な弱者の問題を中心に措く取り組みになること、の5点は注目すべき性格です。
しかし、⑥権限が不明確であり、社会的な制度設計に果たす役割がないこと、
⑦財政的な裏付けにこれというほどのレベルがないこと、が頼りなさを感じるところです。
バブル経済の崩壊に遅れて日本の生活の基本的サポートも崩れその状態は継続しています。