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世田谷区立桜丘中学校

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'''校則がないからこそ、教師と生徒は対等に話し合うことができる――西郷孝彦校長インタビュー'''<br>
 
世田谷区桜丘中学校。私鉄の駅から徒歩10分ほどの住宅街にある。職員室前の廊下には机と椅子がフリースペースとして置かれ、Wi-fiも完備されている。<br>
 
授業時間だったが、インターネットに接続しながら、話をしたり、自分のペースで勉強をする生徒もいた。<br>
 
校長室でも、塾の宿題をしている生徒が校長と談笑する姿が見られた。<br>
 
この学校はチャイムが鳴らない。そして何より、校則がない。<br>
 
生徒手帳には「礼儀を大切にする」「出会いを大切にする」「自分を大切にする」が「心得」として掲げられ、また、子どもの権利条約の一部が示されている。<br>
 
なぜ、こうした学校運営が可能なのか。西郷孝彦校長(64)に話を聞いた。<br>
 
'''◆◆◆「心得」の3つですべてが指導できます'''<br>
 
――生徒手帳には「桜丘中学校の心得」が3つだけ書かれていますが、以前は校則があったのでしょうか?<br>
 
西郷 以前の生徒手帳には、校則が20ページほど書かれていました。<br>
 
例えば、「他のクラスの教室に入ってはいけない」とか、「上級生は下級生と話してはいけない」とか。<br>
 
下着の色を決めている学校だってありますよね。以前の勤務校では、こうした細々とした校則がありました。<br>
 
校則のことを考え始めたのは、この桜丘中学校に赴任してから、ここ4、5年のことですね。<br>
 
当初は、校内がいわゆる「荒れた」状態にありました。<br>
 
見直すことになったときに、本当はいらなかったのですが、何もないと不安に思う人もいる。<br>
 
校則は最終的には校長判断ですが、「3つくらいにしよう」と提案したときに、生活指導主任が原案を作ってくれました。<br>
 
この3つですべてが指導できます。先生方はこれをよりどころに指導します。<br>
 
この学校では制服も自由です。(身体的な性と、自認する性が違う)トランスジェンダーの生徒もそれで救われると思います。<br>
 
――生徒手帳に子どもの権利条約が記されていますが、珍しいですね。<br>
 
西郷 日本は法治国家です。この学校に校則はないですが、日本の法律には縛られています。<br>
 
例えば、校内でも他人のものを勝手に自分のものにすれば、窃盗罪ですよね。誰かを傷つければ傷害罪です。<br>
 
よく「学校の中は治外法権だ」とか、「学校だから許される」と言われますが、それはやめようと。社会と同じ規則で学校も回っています。<br>
 
日本は子どもの権利条約に批准しています。だから、法律と同じ。<br>
 
そう子どもに教えないといけませんし、先生も守る必要があります。<br>
 
権利条約に掲げられた権利を知ることで、大切にされていることがわかり、子どもは自己肯定感が得られます。<br>
 
大人でもさまざまな考えがある<br>
 
――校則はそのままで、運用面で改善する方法もあったと思いますが、どうして校則をなくす方向になったのでしょうか。<br>
 
西郷 先生方って、校則があると、話し合いにならないんです。「校則があるからダメ」「守るか、守らないか」になってしまいます。<br>
 
例えば、「靴下は白」と規定があったから、理由を考えずに「校則にあるから」と、そこで指導は終わってしまいます。<br>
 
一方、生徒に聞かれた時に「汚れたときにわかりやすいから」と説明すれば、そこから話し合いが始まります。<br>
 
結果、合理的な話し合いを重ねることで信頼関係ができてきます。<br>
 
スカート丈についても、ルールがなければ、「短すぎるんじゃないか?」「寒くないか?」などと先生たちが言ってくれます。<br>
 
いろんな考えがあります。大人でもさまざまな考えがある中で、生徒は自分で選択していきます。<br>
 
そもそも、校則をがんばってなくそうと思ったのは、不登校の子どもたち、発達障害の子どもたちがいたからです。<br>
 
厳しく指導すると、学校に来なくなります。でも、そうした子だけに「特例」を許すと、他の生徒が「なんで、あの子だけ?」と不満を言います。<br>
 
だったら、校則でしばりつけることはやめようと。<br>
 
その頃、別の問題が起きました。文字が読めず、板書が取れず、教科書が読めない生徒がいたのです。<br>
 
そのため、タブレットを利用可能にしました。音声読み上げソフトで教科書の内容を聞き、板書は写真で撮りました。<br>
 
試しに、その生徒がいるクラスだけタブレットを持ち込み自由にしました。<br>
 
最初は2、3人が持ってきましたが、重いし、管理が大変なので、必要のない子は持ってこなくなりました。このやり方を全体に広げたのです。<br>
 
'''校則でしばることが染み付いている''' <br>
 
――先生を育てることになりますね。<br>
 
西郷 そうです。ただ、校則が厳しい他の学校から転勤してきた先生は慣れるのが難しいんです。<br>
 
うちの学校は私服ですが、そうした先生は、私服の生徒を見て「私、無理です」と、1日中イライラしていました(笑)。<br>
 
何か注意した時に、うちの生徒が「どうしてですか?」と返すことも、先生によっては「生意気だ」と映ってしまいます。<br>
 
校則でしばることが染み付いていますからね。<br>
 
上から目線での威圧感がある先生には、「生徒とは対等に話し合いましょう」「馬鹿にするような話し方はやめてほしい」と伝えています。<br>
 
校則がないということは、正解がないということです。<br>
 
採用も、できるだけ新規教員をお願いしています。そして、若い先生にはどんどん外へ行って、失敗してもいいから勉強してもらいたいです。<br>
 
最初の10年で勉強しないと、知識もスキルも落ちていくだけです。僕も含めて、能力主義なんです。<br>
 
3年目で完全に一人前になるように育てています。<br>
 
――保護者側からは意見があると思うのですが……。<br>
 
西郷 いっぺんに校則をなくしたわけではありません。<br>
 
例えば、靴下の色、セーターの色を自由にしていき、夏は半ズボンでもよいということにしていきました。<br>
 
そして、生徒会がカジュアルデーを設けました。土曜日は私服と決めたのです。<br>
 
小学校だって、私服じゃないですか。<br>
 
徐々に慣れていき、「別にかまわない」という感じになっていきました。違和感がなくなったのです。<br>
 
ですので、私は、逆に制服のある学校へ行くと違和感を抱きます。<br>
 
同じ制服を着させて、どうやって生徒を区別しているのか。わからないじゃん、と(笑)。<br>
 
'''SNSのトラブルは減りました'''<br>
 
――携帯電話やスマホ、SNSに関するルールは?<br>
 
西郷 保護者からは「スマホを禁止して」という声はありません。<br>
 
「スマホを買ってほしいと言われて困る」という声はありますが(笑)。<br>
 
以前は、LINEのグループを作ることは禁止になっていました。<br>
 
それは悪口を書いたり、グループでハブにしたりすることがあったからです。<br>
 
でも、禁止してもみんなやりますからね。<br>
 
LINEの人に「出張授業」にきてもらい、SNSの使い方について話してもらいました。<br>
 
今でも、許可なく写真をアップしたというくらいのトラブルはあります。<br>
 
しかし、理由はわかりませんが、SNSのトラブルは減りました。<br>
 
これまでは悪いことをすると学校の先生に叱られるという発想でしたが、今は、社会から叱られるということがわかってきました。<br>
 
校内の問題ではすまされない。<br>
 
それで慎重になっているのかもしれません。<br>
 
――生徒会との関係はどうでしょうか。<br>
 
西郷 普通、生徒総会は何も面白くない。つまらないじゃないですか。<br>
 
そこで何を言っても、最終的に先生が決めるのなら、総会で意見が出るはずもありません。<br>
 
だから、「ここで決まったことは実現するよ」と言ったんです。<br>
 
最低でも、決まったことを先生が実現する努力を見せる。すると、どんどん意見が出て盛り上がります。<br>
 
僕の考えと同じことを言う生徒がいると「シメた!」と思うんですよ(笑)。<br>
 
最近実現したことは、校庭に芝生を植えたこと。<br>
 
ただ、野球やサッカーもしますし、植えたのは一部にしました。また、定期テストをなくしました。<br>
 
うちの学校で学力が落ちたら……<br>
 
――定期テストをなくして、評価はどうやっているのですか?<br>
 
西郷 9教科100点満点のテスト勉強は、なかなか一度にできません。<br>
 
でも、「10点満点」のテストならば、前の日に家で勉強すればできます。<br>
 
中間や期末テストをまとめてやるのではなく、こまめに小テストをやっていくことにしたのです。<br>
 
生徒の提案に対して、先生たちは反対すると思っていました。<br>
 
ところが、先生方が、定期テストではない方法を調べてきました。僕以上のことを先生方は考えていたんです。<br>
 
うちの学校で学力が落ちたら、日本にとってのチャレンジは終わります。<br>
 
校則をなくしたら学力は落ちる、という結論になってしまう。<br>
 
だから先生方も、学力向上には力を入れようと思っています。<br>
 
実際、学力はかなり上がっていますが、成績のいい子は、偏差値の高い進学校よりも、自由な校風の青山高校だったり、やりたい部活動で高校を選んだりすることが多いですね。<br>
 
だから、親御さんはどう思っているのか……(笑)。<br>
 
ただ、そうやって自分で考えることが重要ですし、そういう自由な環境からじゃなければ、日本のスティーブ・ジョブズは生まれてこないと思いますよ。<br>
 
'''今後、改善したいのは授業の質です'''<br>
 
――部活動のあり方はどうでしょうか?<br>
 
西郷 水曜日と日曜日の公式練習は禁止しています。そして、週10時間と決めて、平日は2時間、土曜日は3時間にしています。<br>
 
それ以外に自主練はありますが、強制は禁止しています。そうすることで自主的な意識が芽生えます。<br>
 
自主練に教師は立ち合いませんが、コーチか保護者が付いているようにします。<br>
 
部活の顧問をやりたくて教師になった人もいます。そんな人は、土日も部活をやりたい。<br>
 
しかし、そうでない人からは「ブラック部活」と呼ばれるほどです。いまは教師のなり手がいない時代ですからね。<br>
 
少しでも働きやすい職場にしなければいけません。<br>
 
また、教師にも休養が必要です。飲みに行ったり、趣味に時間を費やすことが一人の人間として必要なのです。<br>
 
――今後の学校運営の課題は?<br>
 
西郷 改善したいのは授業の質です。一斉に知識を注入する授業は、もういいでしょ? 人間は知識ではAIにかないません。<br>
 
創造性を教えていかないと、学校だけでなく、日本が潰れてしまいます。だから、受験用の授業と、創造性を育てる授業を分けたいです。<br>
 
ただ、国が変わらないとなかなかできません。そのため、受験用の授業も必要悪でやっていますが、チャレンジをしていきたいです。<br>
 
この学校の校長も今年で10年になりましたが、長期間務めたからこそ、できたという部分もあります。<br>
 
でも、それも今年度で終わりです。その後は、何も考えていません。<br>
 
2019年6月7日12:50追記:一部表現を修正しました。<br>
 
〔2019年6/7(金) 渋井 哲也 文春オンライン〕 <br>
 
  
 
''「校則なし」で区立中はどう変わったか 校則は誰のためにあるのか'''<br>
 
''「校則なし」で区立中はどう変わったか 校則は誰のためにあるのか'''<br>
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2021年6月18日 (金) 12:48時点における最新版

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世田谷区立桜丘中学校

所在地 東京都世田谷区
TEL
FAX

「校則なし」で区立中はどう変わったか 校則は誰のためにあるのか'
東京都世田谷区立桜丘中の前校長 西郷孝彦さん
「校則なし」を実現した公立中学校がある。東京都世田谷区の区立桜丘中だ。
服装や髪形は自由で、遅刻しても、教諭に大声で怒鳴られることはない。
定期テストやチャイムもない。
全国各地の学校ではいまだ、下着の色指定やツーブロック禁止など理不尽な校則がまかり通る中、桜丘中はどのように校則をなくしていったのか。
前校長の西郷孝彦さん(66)に聞いた。
校則はいったい誰のため?
3回にわたって考える3回目です。(共同通信=小川美沙)
―校則をなくしたきっかけは。
赴任した2010年当時、桜丘中は荒れていた。
服装や髪形に関する決まりがあり、教諭が声を荒らげて生徒を指導することもあったが、子どもたちを上から押さえつけたってうまくはいかないと感じていた。
学校にはさまざまな子どもがいる。「普通の子」なんて存在しない。
こだわりが強い、朝起きられない、制服が着られない、学習障害や発達障害がある…。
こうした個性や特性を考えずに、「靴下は白」「中学生らしい髪形」など合理的な理由がない校則を当てはめると、それがストレスになり、不登校になる。
廊下に設けられたスペースで過ごす桜丘中の生徒たち(2019年、西郷孝彦さん提供)
生徒全員に「学校は楽しい」と感じてもらえるにはどうすべきかを考えると、合理的な理由のある校則は一つもなかった。
それに、校則で「みんな同じ」を押しつけると、枠からこぼれ落ちた子がいじめの対象になる。
ある男子生徒は、学習障害があるためにタブレットの持ち込みを必要としていたが、別の中学では「一人だけ特例は認められない」と断られたそうだ。
桜丘中で受け入れ、これを機に「全員持ち込みOK」にした。
その生徒だけでなく、誰にとっても過ごしやすい環境を目指したからだ。
―学校は集団生活を送る場で、ルールは必要だとされているが。
校則ありき、ではない。生徒が自ら考え、判断する力を伸ばすにはどうするか、だ。
どんな髪形や服装をするかは自分で決める。
帽子をかぶって来る子もいれば、メイクをする子もいた。
チャイムがないから、自ら時間を管理する。授業中に居眠りしても、注意することはない。
短時間の居眠りで頭はスッキリする。
教諭は授業に集中してもらえるよう工夫するようになり、居眠りも減った。
校則をなくしたもう一つの理由に、生徒に「非認知的能力」を身に付けてほしいという願いがあった。
社会で活躍するためのコミュニケーション能力や柔軟な発想力など、紙の試験では測れないスキルを指す。
そのために生徒に対し6つのことを実践した。
①言うことを否定しない②話を聞く③共感する④触れ合いを積極的に行う⑤能力ではなく努力を褒める⑥行動を強制しない―
いずれも厳しい校則とは相いれないことだった。
―生徒はどう変わったか。
「管理」されることに慣れた子は最初は戸惑うが、自由に思ったことを言わせた。
「授業がつまらない」でも「こんなの将来役に立たない」でも、とがめない。
その結果、教諭との信頼関係を作りやすくなったと思う。
年に数回「ゆうゆうタイム」といって、生徒と教諭が一対一で自由に話せる時間を作ったが、生徒の表情が豊かになったと感じる。
こうして子ども本来の、自分自身に戻していく。
自分から進んで勉強しようとする生徒が多くなり、学力も身についた。
朝8時から、廊下に設けられたハンモックや椅子に座って、それぞれ勉強していた。
友達に対する考え方も変わったようだ。
入学当初は他人の言動を気にしてばかりで、教師に「あの子はルール違反では?」と告げ口しに来た生徒もいた。
しかし、桜丘中ではそれが意味の無いことだと気づくと、「私は私、あの人はあの人」だと自分も、相手も尊重できるようになっていく。
2、3年生ではいじめは全く無い。
―全国の中学、高校には、理不尽な校則がたくさんある。
中高生が不安定な思春期にあることを忘れてはいけない。
合理的な理由がないルールで縛ると最初は反発する。
「内申書に響く」などと言われると、生徒は意見を述べるどころか、考えることさえ諦めてしまう。
ストレスがたまると、勉強にも集中できないだろう。
学校は厳しい校則を運用する一方、社会で法に触れることが「治外法権」になり、曖昧に対処されがちだ。
これでは生徒を混乱させる。体罰は暴行、傷害罪で、学校の内も外も同じ法律を適用すべきだ。
桜丘中でも生徒が窓ガラスを割ったら、故意であれ過失であれ必ず弁償してもらった。
校則はなくても、社会のルールである法律を守らなければならないという厳しさは、生徒も実感していた。
日本は1994年に「子どもの権利条約」を批准した。
12条に意見表明権を定めており、生徒がルールや学校のことについて自由に意見を述べる機会は保障されなければならないはずだ。
数年前、桜丘中でも生徒手帳に一部を抜粋して載せた。
子どもたちに、君たちの権利は認められ、大切にされているんだということを伝え、安心してほしかったからだ。
信頼とは、そうやってつくられていくと思う。
×     ×   ×   ×
さいごう・たかひこ 1954年生まれ。今年3月まで東京都世田谷区立桜丘中校長。
著書に「校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール」
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