日本語教育の機会
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2019年2月27日 (水) 12:52時点における版
日本語教育の機会
教育と就労の外側でー「日本語、学びたくても学べない」。日本語教育の体制整備のために推進法成立急いで
日本語を学ぶ子ども達。片道2時間以上かけて通う子もいるほど、教育機会は不十分だ
自治体とボランティアの善意に丸投げー日本語を学ぶ機会に格差
2019年1月28日に召集された通常国会。
主な争点の一つが4月から導入となる改正入管難民法に関わる、外国人人材の受入れと具体的な支援策です。
昨年の臨時国会で成立した改正入管難民法では外国人の単純労働分野への就労に門戸を開き、今後5年間で34万人以上の受入れを見込んでいます。
この34万人という数字がメディアでたびたび取り上げられたことによって、社会に突然たくさんの外国人が増える、という印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし、日本国内にはすでに260万人を超える外国人が生活を営んでいます。
その数は2013年末から2017年末までの間に約50万人の増加。
その半数以上が定住・永住・長期滞在が可能な在留資格を持っています。
国際的な定義に基づけば、彼らは日本にとって「移民」と呼ぶべき存在であり、私たちはすでに、多様な人々と共に生きる社会としての道を歩み始めています。
こうしたすでに日本に暮らしている外国人や海外にルーツ持つ子ども達の生活支援や日本語教育などは、これまでに主に自治体やボランティアの善意に丸投げされてきました。その結果、外国人が多く暮らし体制整備を進めてきた地域とそうでない地域との間で格差が広がり、海外ルーツの子どもが日本の学校への就学を事実上拒否されたり、日本語を学ぶ機会のない外国人が孤立したりなど、多くの課題が生じています。
特に、海外にルーツを持つ子どもの教育や生活者としての外国人に対する日本語教育体制の不整備は、数々の課題の源泉となっています。
日本にやってきたばかりの子どもたちが適切な日本語教育を受けられる機会は限定的で、日本の公立学校に在籍している海外ルーツの子ども達の内、10,000人以上が学校で何の支援も受けていません。その結果、学校の勉強についていけないだけでなく、友だちとのコミュニケーションもできずに孤立してしまう子どもも少なくありません。
学校で十分に基礎学力を身につける環境にないために、海外ルーツの子どもの高校進学率は70%前後に留まるといわれています。
「学校」と「企業」だけでは追いつかない日本語教育機会の不足
地域によっては、「学校で日本語学習支援を提供できないので、日本語ができるようになってから学校に来てください」と、就学・転入手続きをさせてもらえないようなケースが未だに存在しています。
このような事実上の就学拒否とも言える状況で自宅ですごすしかない不就学の子どもや、日本語がわからずに不登校となってしまった子ども、15歳以上で来日し、自力で日本の公立高校を受験しなくてはならない子どもなど、「学校の外側」で、学びの場へたどり着くことすらできずに、行き詰ってしまうケースも珍しくありません。
また、外国人保護者・生活者の中でも「日本人の配偶者」として来日した人、外国人労働者の家族として「家族滞在」の在留資格で生活し始めた人、日本国籍を持ち海外で育って「帰国」した海外ルーツの若者など、教育機関にも企業にも属しておらず、社会につながるための日本語学習機会も得られない人々もいます。
日本語教育機会を外国人雇用の企業だけでなく、国が整備すべき理由のひとつは、こうした社会的所属を持たない(段階の)人々の言語教育機会も必要であるからです。
日本語が学びたいときに学べる、学ぶ必要がある時に十分に学べる環境を整備することは、日本社会とマイノリティとの「分断」のリスクを回避し、スムーズなコミュニケーションをはかるためにも必要不可欠ですが、同時に移住者にとっての権利として保障されなければなりません。
言語政策などに詳しい東京国際大学の杉本篤史准教授によれば、
「一般国際法上の原理として、教育を受ける権利の実現が主権国家の管轄であることから、そこに暮らすマイノリティの言語権の保障は、今住んでいる政府にまず責任があり、出身国の政府はそれに協力する立場にある」とし、海外ルーツの子どもや外国人が言葉を学ぶ権利は日本政府が負うものとの見解を示しています。
「日本語を学びたくても学べない」現状、国の責任明確に
今回の通常国会では、かねてより超党派の議員連盟が用意してきた「日本語教育の推進に関する法律案」が提出されようとしています。この法案には、日本語を母語としない外国人や海外にルーツを持つ子ども、生活者の方々に対する日本語教育機会の拡充等について、国や地方自治体の責任などが明記されています。
この法案を作成した議員連盟の事務局長を務める馳浩衆議院議員(元文科相)は、筆者が行ったインタビューに対し、国が日本語教育に責任を持って取り組むことの必要性を以下のように述べています。
「これは、コミュニケーション+(プラス)相互理解なんです。
日本人もイスラム教徒の習慣やキリスト教徒の習慣や、あるいは国の違う、民族の違う方々の立場を尊重するからこそ、日本のしきたり、習慣、制度を理解してもらえるように配慮ができます。
それこそが相互理解。その一丁目一番地は日本語教育に他ならない。」
馳議員は、人口減少が進む中で、海外からの人材の受入れは避けて通ることはできない以上、共通語としての日本語教育を国として取り組まなければコミュニケーションや相互理解は進まない。
相互の意思疎通と理解が阻まれれば、外国人人材は他の国に流れ、国際的な人材獲得競争に負けてしまう、と、危機感をにじませた上で、
「我々立法府として、国内外で日本語教育が必要です、という概念を立法という形にします。すでに必要な事実がある」として、日本語教育の必要性は疑いようもなく、それを具体的に責任を持って実施してゆくためには、法治国家である以上、その根拠となる「日本語教育の推進に関する法律」の成立が不可欠と述べました。
日本語教育の推進に関する法律案の一日も早い成立をー有志らによる署名活動続く
現在まで、日本語教育はその拠り所となる法律がなく、日本語を教える体制も制度も整備されていません。
日本語教師はその半数以上がボランティアによる無償の善意でまかなわれています。
海外ルーツの子どもの中には、体系的に日本語を学べないことで、結果として言語や心身の発達に支障をきたしてしまうケースも数多く発生している状況です。
外国人や海外にルーツを持つ子ども達の日本語教育が、「自治体まるなげ」「ボランティア頼み」の状況を一日も早く終わらせることが、当事者だけでなく日本社会全体の安心と安全な生活の実現のためにも重要です。
今、この「日本語教育の推進に関する法律案」の早期可決・成立を後押しするための署名活動が、日本語教育関係者らを中心として行われています。1月末までに集められた署名は「日本語教育推進議員連盟 役員会」に提出される予定です。
2019年1月28日現在、集まった署名はオンライン上で約6,300筆。まだまだ多くの方々の賛同を必要としています。
署名に関する詳細は「日本語教育の推進に関する法律の早期成立を要望する会」ウェブサイトまで。
田中宝紀 NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。
「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。
現在までに30カ国、600名を超える子ども・若者を支援。
日本語や文化の壁、いじめ、貧困などこうした子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。
〔2019年1/28(月) 田中宝紀 NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者〕