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Center:2011年6月ー通信制高校の広がりと意味(素描)

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目次

通信制高校の広がりと意味(素描)

高校教育において通信制高校が広がっています。
通信制高校の学校数は2011年で約200校です。
高校は全日制・定時制含めては約5400校を超えますから学校数においては4%弱です。
通信制高校は主に通信制高校の急増により、この20年で3倍近くなりました。
生徒数は約20万人で2倍近くになり、定時制高校の在籍生徒数10万人を大きく超えました。
しかし、通信制高校の広がりは、量的な面だけではなく社会と生徒の状況の変化を写し取って別の実態を示しています。
この部分に焦点を当てて状況を紹介します。

通信制高校の広がりの背景には、多くの絡み合った要素があります。
若者の自立が難しい社会的な条件ができていること、就職難と企業社会の大きな変化、家族関係の変化、情報社会のある程度の成熟、新しい世代に「自分を生かしたい」感覚が成長するなどです。
ここではそういう背景から通信制高校の広がりを見るのではありません。
逆に、通信制高校の広がりから社会状況を見ようとするのです。

通信制高校をめぐっては総務省から3分の1の生徒が年間1単位も修得していない報告がされています。
文部科学省からは通信制髙校の卒業生の4割強が進学をしない、就職をしない、職業訓練を受けていない、すなわち若年無業者という報告がされています。
これを見ると通信制高校とは、教育機関としては多くの問題をかかえていると思えるのかもしれません。
たしかに授業内容や学校運営などにおいてとかくの指摘を受けている学校が存在するのは確かです。
私はそれらに関してもいくぶんは聞いていますが、その細部には入りません。
例えていえば救急医療に運ばれる患者の死亡率が高いのを救急医療に問題の中心をおけばいいとは思わないのと同じ理由です。
そこが問題の中心ではありません。
通信制高校に入学をしてくる生徒は、むしろより多くの教育的かかわりと支援を必要としている生徒たちです。
不登校生や中退生はその分かりやすい例です。 そのような生徒が、全日制高校から遠ざけられていることに今日の教育、とりわけ高校教育=後期中等教育の弱点を見なくてはなりません。

〔Ⅰ〕高校年齢の不登校生への対応策を概略

中学生・高校生の不登校問題に対して、教育行政また学校現場はどのような対処をしてきたのでしょうか。

〔適応指導教室〕
文部科学省は1992年に「不登校は誰にでも起こりうる」と判断し、その後、全国の自治体で適応指導教室が設置されました。
学校復帰を目標としているようですが、実態はそうなっているわけではありません。
それは自然なことです。
求めるものが違うのです。
しかし、子どもに必要なものを適応指導教室で育てる意思は、全体としてあまり重視されては来なかったように思います。
その適応指導教室も小学校・中学校までのものであり、高校生には広がりませんでした。
高校生の不登校にはこれという対処を知りません。
発達障害と特別支援学校の導入はその一端の対処になります。
しかし多数部分にはなっていませんし、なりようもないのです。
気質として繊細で神経質的な人への対応が中心になるはずです。

〔全日制高校〕
高校教育の中心にある全日制高校の受入れは、無残なものといえます。
寮のある一部の全日制高校が積極的に不登校生・中退生を受入れています。
それはあまたの全日制高校のうち10校を少し超えたところにとどまります。
一般の全日制高校にもかなり積極的に受入れているところがあります。
しかし評判になるとそういう生徒が多くなり対応できかねるらしく、公表はきわめて慎重にしている印象を受けます。
知る限りでは数校ですがたぶんもう少しはあるでしょう。
総じて全日制高校は不登校生にはほとんど見向きもしなかったのです。
在籍生の不登校はむしろいかに体よく退学・転校を勧めてきたかが特徴的です。
無策といっていいでしょう。
教育委員会からの退学者減少指示はいかにもお役所的であり、教育内容の改善とは結びつきません。

〔定時制高校〕
定時制高校の多くはかなり積極的に不登校生を受入れてきました。
生徒減による定時制の統廃合が続き、少人数教育が事実上生まれ、低学力の生徒にも対応できる条件がありました。
教員も全体として受入れに前向きであったし、通学できた生徒にとっての教育環境は比較的いいと思います。
このように教員は条件が整えば力を発揮できますが、全日制での小人数学級の実現はすすみませんでした。
定時制高校の問題は生徒の生活条件に選択肢が狭かったことです。
この状況を打開する方策が昼間定時制の設置であり、全国的にいろいろな名称で実現しています。
全体としての対応は優れているといえますが、生徒の抱える問題の大きさはなかなか解消できるレベルのものばかりではないことも確かです。
この困難な状況を拡大して表現しているのが通信制高校ともいえるのです。

〔ほかの後期中等教育〕
このほかに高等専修学校の多くが不登校生を受入れてきました。
それらの生徒の「高校卒業願望」に応えて、通信制高校の技能連携校になったところもかなりあります。
技能連携校も90年代の後半以降少しずつ独自に設立されるようになりました。
これは通信制サポート校が無認可の学習塾と同等であるのに対して、技能連携校は都道府県教育委員会の認可を条件とする認可校になるためのものです。
通信制サポート校の登場は、生徒の実態を的確に受けとめた新しい教育システムといえます。
1990年代に急激に広がりましたが、その過程で“不良品”が生まれました。
特に不登校になる生徒の状況をよくわかっていなかったのでしょう。
利益活動の範囲を超えなかったかもしれません。
だからといって通信制サポート校全体の意味や役割が下がったわけではありません。

ここでもう一つ大きな役割を持ったのが、大検=大学入学資格検定、今日の高卒認定資格です。
高校卒業に代わる資格として大検予備校が広がりました。
高卒認定資格は2005年に大検を継承し広げたものですが、このとき全日制高校在籍生にも門戸を開放し、不自然な二重基準を解消したのです。
しかし、その影響はむしろ今後表れていくように感じられます。
文部科学省が実施したことのもう一つは高校卒業に必要な修得単位数を74単位にまで下げたことです。
これにより通信制・定時制の3年卒業制(三修制)がやりやすくなりました。

〔Ⅱ〕通信制髙校の誕生の経緯

新たな通信制髙校の誕生を見るといくつかに分けられます。
(1)もとの全日制高校が通信制課程を設置したもの。
(2)学校法人として幅広く教育活動に取り組んでいるところが通信制高校を設置したもの。
(3)通信制サポート校、大検(高卒認定)予備校、技能連携校から発展した形で通信制高校を設置したもの。
(4)教育特区として株式会社立の通信制高校が生まれたもの。
これで全体を表しているのではありませんし、重複した条件になっている場合もあります。 
特徴的なことは見て取れるのです。
 

(1)(2)は従来型の誕生のしかたです。
公立通信制高校および主に狭域通信制高校(単一県内設置)は“それなり”の対応をしています。
通信制の生徒が生まれる背景に便乗はしているけれども、上手く対応していないところもあります。
なかには通信制課程から撤退した伝統校があります。
上手く対応できなかったのではないでしょうか。
熊本のフェイス学園高校、大阪のPL学園高校、広島のデネブ高校(同一法人内で別の通信制高校を設置)はもしかしたらそういう高校かもしれません。

特に(3)(4)項目に分類される高校が生まれたのがこの20年間を特色づけています。
通信制高校の本校を都市域から離れた地方に設立するところも多いです。
設備費を低くする経営面の配慮、自治体と協力して地域復興にかかわろうとする傾向もあります。
地方の自治体にとっては企業導入の一種でもあります。

このうち(3)分類にはフリースクール的な教育運動の影響があります。
学習塾がフリースクール的になったもの、家庭教師のグループと結びついたもの、不登校の親の会と早期から協力関係にあったものなどの要素が含まれています。
不登校生に関わってきたこれらの教育機関・教育運動は、公式的な教育課程では対応できない、むしろ別の教育方法が必要であるという経験を子どもとの接触のなかで蓄積してきたのです。

生徒の関心興味をいかに引き出すのか、実体験や実学を重視して取り入れています。
それは音楽表現や芸能活動、アニメーションやパソコンの相当高度の利用能力を目指したものまであります。
ネイルアートやファッションを重視するなど評価はともあれ“今風”の高校になっています。
〔この部分が専修学校との技能連携をつくりやすくしています〕。
演劇や身体表現、スポーツを通して低学力であっても生徒の能力を伸ばし、自己肯定感を育てる努力があります。
〔かつて“農業大学”といわれた1950年代までの青年が農業を通して成長するのに代位する方式を不十分ながら追求しているように見えます〕。
それらは低学力を必ずしも克服するものではありません。
低学力を放置する一方、他の潜在力を伸ばすのを忘れている多くの高校にその点をいう資格があるかどうか疑わしいところです。
それでも総じて中学校はもちろん小学校レベルの学習から生徒の状態に向き合っている、向き合わざるを得ない通信制高校が多くある事実は否定しようもありません。
この代表例として、東京国際学園高等部(通信制高校サポート校)から生まれたさくら国際高校、代々木高等学院(通信制高校サポート校)から生まれた代々木高等学校を挙げておきます。
他にもこの傾向はある程度認められます。
義務教育レベルの学習の補修を行なっているのは第一に通信制高校であり、そして定時制高校であり、地域の学習塾であり、夜間中学や自主夜間中学です。
多数の全日制高校はそういう問題からは離れているのです。
その一部は有名大学の進学に集中しているのは世間に広く知れ渡っていることです。
この高校教育の幅広さというべきか、不ぞろい状態はもはや高校教育を単一に語れないほどのものになっています。

〔Ⅲ〕通信制髙校の広がり方

通信制髙校の広がり方をみると、いくつかの特徴的なことがあります。
前記(3)(4)の誕生グループに共通しているために、逆にわかり難くしている要素があります。
A高校○学習センター、B高校○キャンパス、C高校○教室のように、広がり方が高校本体とは別になっていることです。
本校と区別しているような展開の仕方が広がり方の実質をわかり難くしています。
前記の(4)の誕生による通信制髙校は、全国の大都市に独自の学習センターを設立していきます。
一般企業並みの地方拠点の設立で、学校数は本校1ですますところがあります。
広がり方は一見、(3)と似て本校は地方の都市の置く点は同じですが、分校・キャンパス名称の学習センターは札幌、仙台、東京を含む首都圏、名古屋、大阪、広島、福岡が中心です。

(1)(2)の誕生グループは、広がる地域が比較的限られています。
広域制通信制髙校であっても全国展開よりも2、3の県にとどまります。
(3)の誕生グループは一層の多様性があります。
各地で活動を続けてきた学習塾、フリースクールとの協力と連携により普及しています。
さくら国際高校は学習相談センターを名乗り、代々木高校はサテライト教室を名乗ります。
他の高校にも名称がありますが省略します。
もちろんこれらは高校毎の基準であり、画然と分かれているのではなく、複合しており、例外もあります。
全体をざっと見ただけではこのような傾向が複合しているとは読みとれません。
(3)グループがこのような広がり方をした背景は重要です。
元来、そのようなフリースクールやフリースクール化した学習塾がサポート校や通信制髙校になっただけではありません。
フリースクールを名乗らなくても、かなり多くの学習塾がすでに不登校生や中退者、中学校を卒業したままの子どもたちを受入れていた事実があります。
学習塾ではある生徒を高校に入学させるのは問題なしとしても、その子どもが社会において本当に必要な力を身につけるには高校入学だけではすまないことがわかるのです。
継続的なフォローを考えたとき、自ら通信制髙校のサポート校の一部であるのは有効な方法です。
一方では高校卒業資格のないことはその子の社会生活上の不利益になりかねません。
生徒本人も家族も高校卒業の要求を持つのは当たり前なのです。
「高校教育は義務教育ではない」などというのは社会状況、就職状況を無視した大学卒業者の言葉です。

ここに比較的小規模の学習塾等が通信制髙校のサポート校(サテライト教室、学習センターなど)を名乗り、自ら高校教育に周辺に加わる事態が生まれたのです。
これには小規模の学習塾の生き残り戦略が絡んできます。
大手の通信制髙校とサポート校群が広がるなかで、小規模の学習塾等は存続の危機に見舞われています。
そこに自ら高校の看板を背負うことにより存続の可能性が生まれているのです。
不登校情報センターとして、不登校生や中退生を受入れている学習塾やフリースクールで通信制高校と何らか協力関係がないところを見つけるの例外的といえるほどです。

〔Ⅳ〕教育活動・教育内容の質への影響

このように通信制高校は、本校の数が示す以上に末端に多くの教育機関をもつネットワークに成長しています。
その量的拡大とともにまた、質的な面でも変化が生まれつつあります。
子どもの教育の実質を学校教育から徐々に移し変える傾向が感じられるからです。
この始まりは通信制高校が広がり始めた以前から開始されていたように思われます。
通信制高校が広がるなかで新たな要素を持ち込んでいるというのが当たっているでしょう。

ここでいう子どもの教育とは何でしょうか。
学力をつけることでしょうか。
進学をさせることでしょうか。
資格をとれるようにすることでしょうか。
社会に入り活動できる力を育てることですしょうか。
いずれも正しく、間違いではないと思います。
ただそれらの源泉、原動力はそれぞれの子どもが自分の持つ持ち味に気づき、引き出し、発揮させるスタンスにおいてなしとげていくもののように思えます。
そこに新しい要素を持ち込んだのが最近の事態です。

逆に学校教育の公的な教育課程はその点で衰退してはいないでしょうか。
そこを含めて考え直すように迫られています。
通信制高校とその系列グループは、それを取り入れなくてはどうしようもないほどの事態になっています。
それだけに創意と発想の転換が求められ、しかも個々の学校の存続にかかわるほどの影響を持っています。
通信制高校(公立を含む)の卒業生の4割強が無業者であるとはいっても、それは相当の努力と工夫の結果であると理解しなくてはなりません。
はたして全日制高校にどれだけの意識があるのでしょうか。
特に平均的といわれる全日制高校普通科は、大学につなぐ中間機関になりやすいのとは対称的な状況ではないでしょうか。
通信制高校の学習センターやサテライト教室になっている学習塾には高校生だけがくるのではありません。
中学生もいるし小学生もいます。同じ学習塾にいる教員は高校教育だけ特別にこの事態を理解し意識し対処しているとは思えません。
加えて、学習塾の教師は高校教育の末端部分に関わっているのです。
自身の指導していることがそのまま高校の教科単位の修得に結びつくこともあります。
準高校とまではいわないまでもいくぶんはくい込んでいるのです。
既に不登校の小学生、中学生の通学と学習評価を受けもっている学習塾やフリースクールは存在していますが、影響はそれよりも強いでしょう。
この相当に意識しなくては存続できない条件の通信制高校のネットワークは、同一の状況ではありません。
弱点を見つけていけば相当のものがあります。
その弱点をあげつらうことで多数の高校が自らの安泰を確認しているのではないでしょうか。
そうならば不登校生への対処を抜きにして楽な道を選ぶ多数の全日制高校は、教育の力を枯渇させていくのです。
子どもたちに知識の伝達はできても、子どもの人間としての存在や肯定感を育てる力を空洞化させているのです。
ならば通信制高校の取り組みのなかにいま一つの人間教育の力を見ようとするのは自然なことのように思えます。
それは私にとっては、すでに始まっている事態・状況をたんに追認するだけのことです。

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