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カタリバ

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===[[:カテゴリ:周辺ニュース|周辺ニュース]]===
+
==認定NPO法人 カタリバ==
ページ名 [[カタリバ]]  (  ) <br>
+
<table class="wikitable shousai-table">
'''学習の遅れに焦り、夏休みは短縮、子どもに疲労も? NPOカタリバ今村久美さん 今こそゆるい居場所を'''<br>
+
<tr>
学校再開でも焦らないで<br>
+
<th>所在地</th>
学校が再開されてもなお、新型コロナウイルス感染の影響は続きます。<br>
+
<td>東京都杉並区高円寺南3-66-3 高円寺コモンズ2F</td>
早くも、「子どもたちが疲れている」という声も聞こえてきます。<br>
+
</tr>
誕生して約20年になる教育関連の認定NPO法人「カタリバ」を運営し、安心安全な子どもたちの「第三の居場所」を作り続ける今村久美さん(40)は「今は、“教育の遅れ”以上に大事なことがある」と話します。<br>
+
<tr>
(写真は、「カタリバごはん」サービスでお弁当を渡す今村さん。<br>
+
<th>TEL</th>
今年6月から就学援助等の支援を受ける高校生以下のいる世帯に、家族分を月2回提供している)<br>
+
<td>0120-130-227</td>
話を伺った人 今村久美さん 認定NPO法人「カタリバ」代表<br>
+
</tr>
今村久美さん(いまむら・くみ)1979年生まれ。<br>
+
<tr>
慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立。高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。<br>
+
<th>FAX</th>
 +
<td>020-4665-3239</td>
 +
</tr>
 +
</table>
 +
 
 +
'''「奨学パソコン」を借りて、中1長女の成績が学年トップに。複数の困難を抱える「ひとり親家庭」の希望'''<br> 
 +
私が代表を務めるNPO「カタリバ」では、オンライン学習から取り残されそうな困窮した家庭に、パソコンとWi-Fiを無償で貸与して、インターネットを使った伴走型支援を行なっています。<br>
 +
こうしたキッカケプログラム『奨学パソコン』のことを紹介した先日の記事では、大きな反響をいただきました。<br>
 +
「収入が2ヶ月で2万円。娘2人とどう生きれば」。<br>
 +
あるシングルマザーに、パソコンとWi-Fiを届けた<br>
 +
「ウェブニュースを見て、取り組みを知りました」「恥ずかしながら、このプロジェクトを通して日本の貧困家庭の現状を知りました」という連絡とともにご寄付をくださった方もいます。<br>
 +
今回は、参加している家庭が抱える困難をデータから紹介し、私たちが出会ったひとり親家庭のシミズさん(仮名)と、中学1年生の長女アキちゃん(仮名)の話をしたいと思います。<br>  
 +
'''奨学パソコンを使う人のうち7割は、ひとり親家庭'''<br>
 +
まず、このプログラム利用者のうち222名に生活実態などのアンケートを行ったところ、7割はひとり親家庭でした。<br>  
 +
厚生労働省の全国ひとり親世帯等調査によると、2015年の母子世帯の母親自身の年間の就労収入の平均は200万円。<br>
 +
養育費・手当や給付金・実家からの仕送りなどを足しても、母子世帯の母親の年間収入は平均243万円です。<br>  
 +
母1人、子2人の家庭をモデルとして考えてみると、2015年のOECDの基準では、3人世帯の場合、可処分所得が211万円に満たない世帯は相対的貧困となります。<br>  
 +
普段から自転車操業のようなギリギリの生活だった母子家庭。<br>
 +
収入がコロナ禍によって少し減ってしまうだけで、あっという間に”貧困”になってしまうのです。<br>
 +
不登校や発達障害など。お金以外にも「困難」が重なり合っている<br>
 +
また、アンケートに答えた222名のうち14.4%の子どもが不登校の傾向を示しています。<br>
 +
文部科学省の調べよると、年度内に連続または断続して30日以上欠席した生徒を”不登校”としていますが 、<br>
 +
その割合は小学校で0.7%、中学校では3.6%(「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)。<br>
 +
キッカケプログラム参加者の不登校の傾向は、平均より何倍も高いのです。<br>
 +
ほかににも、全体の19%の子どもは発達障害の傾向を持っているという結果も出ました。<br>
 +
うち8割は、実際に医師の診断を受けています。<br>
 +
キッカケプログラムは、応募のときに生活保護、児童扶養手当、就学援助などの受給証明を出していただき、困窮している世帯であることを確認しています。<br>
 +
アンケートから見えてきたことは、そうした家計の困窮に加え、(1)ひとり親である(2)子どもが発達障害傾向がある(3)子どもが不登校傾向である、<br>
 +
などの複数の課題を家庭内に重複して抱えていることでした。<br>
 +
特別支援学級に子どもが通っている、障害者手帳を持っている、日本語がうまく話せないなどの場合もあります。<br>
 +
家計の困窮以外に何かしらの課題や困難を抱えている家庭の割合は、全体の83%にものぼりました。<br>
 +
プログラム利用者の動向については、大学とも連携してより詳しく調査していきますが、ただ給付金を渡すだけではない支援が必要だということではないでしょうか。<br>
 +
'''勤め先がすべて閉店、3人の子どもをひとりで育てる'''<br>
 +
なかなか難しい現実の中ですが、小さな希望も生まれはじめています。<br>
 +
首都圏に住むシングルマザーの、シミズさん(仮名)。<br>
 +
8年前にシングルになり、小学生から中学生までの3人の子どもたちをひとりで育てています。<br>
 +
ネイリストとして複数の美容室などに勤めていましたが、コロナで勤め先がすべて閉店してしまいました。<br>
 +
紹介でお客さんを集めて、自宅や出張で施術したりと頑張るものの、収入は半分以下に。<br>
 +
学校がお休みとなり子ども3人が家にいる中、依頼があったら行かなくてはいけないという不定期な仕事をこなすのも大変でした。<br>
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子ども達との会話も増えたものの、いさかいも増えていきました。<br>
 +
「収入も激減しているし、コロナでずっと自宅にいてイライラするし、親子関係もうまくいかない。どうしたら」。<br>
 +
そんな風に悩んでいたときに、中学1年生の長女・アキちゃん(仮名)がたまたまテレビで見かけたのが、カタリバの”奨学パソコン”のニュースでした。<br>
 +
お母さんにケータイを借りてインターネットで検索し、プログラムの説明を読んだアキちゃん。<br>
 +
「これに参加してみたい」と伝えられたシミズさんはすぐに応募。<br>
 +
6月にはパソコンが届き、兄妹でオンラインプログラムに参加することができるようになりました。<br>
 +
'''成績が学年トップに→「高校で特待生になりたい」'''<br>
 +
もともと勉強が好きで真面目、小学校でも成績がいい方だったというアキちゃん。<br>
 +
けれどこれまでは家計の状況から、塾には通えておらず、独学で勉強していました。<br>
 +
カタリバに参加して「こういう風に勉強してみたらもっといいんじゃないかな」とアドバイスを受けることで更に成績が伸び、1学期の最後のテストでは、学年で1番をとったといいます。<br>
 +
今は「高校に特待生で入れるように頑張りたい」と考えて、すでにどこの高校がいいか考え始めているそう。<br>
 +
「『いつかはカタリバで働いてみたい、恩返しがしたいな』と、家でアキが話してくれるんですよ」とシミズさんは嬉しそうに教えてくれました。<br>
 +
大変なことがないわけではありません。<br>
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アキちゃんの妹は、コロナでの一斉休校以降に、不登校気味になっています。<br>
 +
シミズさんも、家計の困窮に加えて、「ひとり親」「子どもの不登校傾向」など複数の困難があることは事実です。 <br>
 +
「学校に行かないという日も、家でカタリバオンラインには参加しています。<br>
 +
少し年上のお兄さんお姉さんの話を聞いて刺激を受けているようで、親とは違うナナメの関係って大事なんだなと感じます。<br>
 +
子どもを受け止めてくれる居場所ができたから、私も安心していられます」 <br>
 +
「負の連鎖が続いている、明るくたのしく生活したい」と5月の応募時に話していたシミズさん。<br>
 +
3ヶ月経ち、彼女の表情は、少し和らいだように感じました。<br>
 +
'''彼女1人を、”頑張ることができた幸運な事例”にしたくない'''<br>
 +
大変な状況だけれど、小さな希望が生まれ始めている。<br>
 +
そしてその小さな希望を、”たまたま頑張れた”ラッキーな事例にしたくない。<br>
 +
「大変な中でも頑張れる人はいるよ」「やるかやらないかは自己責任だよ」ではなくて、困窮する子どもを、誰ひとり取り残さない社会にしたい。<br>
 +
子どもには、家庭環境を背負う責任はなにひとつありません。<br>
 +
『奨学パソコン』の費用の一部を集める「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクトのクラウドファンディングでは、そんな想いに共感してくれた方が1200人以上集まっています。<br>
 +
ひとりひとりの力は小さいかもしれないけれど、手を取り合うことで大きなうねりを作っていけると感じています。 <br>
 +
次の世代の子どもたちに希望をつないでいくために、まずは大人が協力していけたらと思います。<br>
 +
'''今村久美 認定NPO法人カタリバ代表理事'''<br>
 +
79年生まれ。慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。<br>
 
2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。<br>
 
2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。<br>
ハタチ基金代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表。中央教育審議会委員。<br>
+
「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。<br>
'''家庭内学習を継続する「積極的不登校」の兆しも'''<br>
+
ハタチ基金 代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。中央教育審議会 委員。<br>
カタリバは東日本大震災の後、被災地で子どもたちの支援として放課後学校「コラボ・スクール」を始めた。<br>
+
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 文化・教育委員会委員。<br>
写真は、宮城県女川町の「女川向学館」で活動したときの今村久美さん=カタリバ提供<br>
+
〔2020年8/22() 今村久美 認定NPO法人カタリバ代表理事〕<br>
――東日本大震災の折、今村さんは宮城県女川町の避難所に寝泊まりして子どもの様子を見て回り、地元の人と深く交わりながら放課後支援施設の開設にこぎ着けました。<br>
+
そうした経験と比べて、コロナ禍の支援の難しさは、どんなところにありますか。<br>
+
東北に支援に入ったときは、たくさんの方が身を寄せ合って避難所で生活していました。<br>
+
仕事も家も失った人が多数いらして。今思えば、それぞれの家族がはらむリスクを発見しやすいという側面はあったんですね。<br>
+
例えば、避難所で怒鳴り散らしているお母さんがいたら、つらい顔をしているお子さんに隣のお家の人が、おいでって声をかけたり。<br>
+
学習の支援が欲しいと思う子がいれば、また別の人がそばで見てあげたり。<br>
+
コロナ禍でも、多くの人が仕事をなくしたり、仕事に影響を受けたりしたわけですが、緊急事態宣言下の自粛生活においては、もう、基本はみんなが家にいなきゃいけない。<br>
+
集う所での支援はNGだと。そこが大きく違う点でした。<br>
+
――オンライン上の学びと居場所を届ける「カタリバオンライン」を3月4日から開いて、今も続けています。<br>
+
小中学校の全国一斉休校開始の2日後と、初動が早かったですね。
+
毎日オンライン上でたくさんのプログラムが開催され、好きなプログラムにウェブ会議システムのZoomを使って参加できます。<br>
+
最初は数百人ぐらいが全国から集まり、そのうち登録する小中高の子どもたちが1800人にも上りました。
+
毎日決まった時間に「朝の会」と「夕方の会」を開きました。学校に行かないことで乱れがちな生活習慣を整えられたらと思って。<br>
+
オンラインによる学習会のほか、クラブ活動とか、文化祭とか、盛りだくさん。<br>
+
世界中からボランティアの方々が集まってくれて、子どもたちを主体にした活動を展開してきました。<br>
+
親御さんが働きに出ざるをえない家庭もあり、日中一人で過ごすお子さんが、「ランチ会」で画面に自分の昼ごはんを見せ合いながら食べているシーンも見られました。<br>
+
保護者会も開いて親御さんとも話しました。3月の頃はまだ、週末は開催していなかったんですが、「うちの子は普段、学校がつまらなくて行きたくないと言って登校をしぶっていたのに、ここに参加してからは日曜日になると『月曜日が楽しみ~』と言い出して、びっくりしました!」なんていう声もありました。<br>
+
「カタリバオンライン」は、子どもたちが安全に参加できる場として開きました。<br>
+
「東日本大震災のときのように、今回も多くの家族が仕事をなくしてしまうんじゃないか」と真っ先に思ったからです。<br>
+
仕事や収入面で問題が起きると、大人の余裕がなくなり、家族との関係がギクシャクしてくる。<br>
+
もともと家族との関係がつらい子たちこそ、大変なことがいろいろ起きてしまうんじゃないかって。<br>
+
そうするとオンラインリテラシーの高い子なんかが、SNSなどを通じていろんなところに人間関係を求めてしまって、リスクのあるつながりを持つかもしれないと不安がよぎりました。<br>
+
――その後はどのような声を聞きますか。<br>
+
一斉休校解除が見えてきた5月20日から22日に、カタリバオンラインを利用する保護者へのアンケート(回答者219人)を行ったところ、「学校が始まっても継続してカタリバオンラインを利用したい」と答えた人が84.6%にも上ったんです。<br>
+
家族が抱える悩みの大きなところは、経済と精神面の問題。<br>
+
利用者の20.5%が「コロナの影響で収入が減り経済的な不安がある」と答え、23.7%が「コロナの影響で家族が疲弊している」と回答しています。<br>
+
さらに、こんな声もありました。<br>
+
「学校が始まっても、集団感染が怖い」<br>
+
「長期休暇で、子どもが『毎日行かなくてもいい』という経験をしてしまった」<br>
+
「オンラインでも学びが続けられるなら、うちの子にはそれを選択させたい」<br>
+
今でも感染の不安が消えたわけではありません。<br>
+
今後は、家庭内学習を継続する形で親子が「あえて行かない」選択をする「積極的不登校」というのも増えていく可能性はあると感じています。<br>
+
'''「学習の遅れ」という言葉の苦しさ'''<br>
+
休校中と学校再開後の取り組みについて語る今村久美さん=上野創撮影<br>
+
――学校が再開しても、また違った悩みが出てきているのですね。<br>
+
学校が平常モードに戻っていく中で私が心配しているのは、子どもたちがものすごく疲れてきているんじゃないかなということです。<br>
+
実際に、親御さんから「子どもが疲れている」という声を聞いています。<br>
+
首都圏にお住まいのあるお母さんから伺ったのですが、緊急事態宣言がいよいよ明けそうだということになって、5月の半ばから一気にダーッと宿題が出たとのこと。<br>
+
しばらくは「3密」回避のために、分散登校からスタートしている学校も多いですし、「学校でフォローできない分は、しばらくは家庭で対応して」というのは仕方ありません。<br>
+
ただ、それにしても、半端じゃない量の宿題だったと。<br>
+
再開したものの、学校生活に余白がなくなってしまった。<br>
+
せっかく学校に戻れても、楽しみにしていた社会科見学も、林間学校も、遠足もみんな中止になってしまったと嘆く子どももいます。<br>
+
それに、都内のある学校では、少し長めの20分休憩がカットされ、トイレ休憩オンリーになってしまったとのこと。<br>
+
学校が楽しみな場所である前に、ひたすら勉強をさせられる場所になっているなんて、子どもたちにはつらすぎますよね。<br>
+
一方で、学校の先生たちも悩んでいます。周りからのプレッシャーというのが大きく二つあって、一つは「学習の遅れを取り戻せるか」。<br>
+
先生が焦るのは、保護者の求めに応じるから、という側面もあるのかもしれません。<br>
+
保護者は100人いたら100人とも違うことを言いますが、現場はどうしても、声が大きい方に合わせるということになりがちです。<br>
+
「学習の遅れ」という言葉が学校現場を苦しめている可能性は否めません。<br>
+
もちろん、受験生が切実なのはわかりますから、個別に丁寧な議論を進める必要があるでしょう。<br>
+
「とにかく今年の遅れは、今年のうちに取り戻そう」みたいな勢いばかりの学校だと、子どもたちがあっぷあっぷになっちゃう。<br>
+
私なんかは、「学校は楽しいところである」という大前提に戻すことが今、一番優先すべきことなんじゃないかと思うんです。<br>
+
'''焦り、悩む教師 「3密パトロール」も'''<br>
+
中央教育審議会初等中等教育分科会に今村久美さんらが提出した資料の一部<br>
+
――ものすごく感染を怖がる保護者と、比較的気にしていない保護者と、温度差はありますよね。<br>
+
一方で、社会も集団感染ということに手厳しい。<br>
+
はい。先ほどお話しした、先生方の二つのプレッシャーのもう一つが、「とにかく、うちの学校からコロナ感染者を出してはいけない」ということなんです。<br>
+
教師が「3密パトロール隊」みたいになっているという話も耳にしました。<br>
+
休み時間に子どもが集まっていると、先生が駆けつけてピピピピーみたいな。<br>
+
実際には笛までは鳴らさないですが、そのぐらい現場が神経質になっている証拠でしょう。<br>
+
学校再開後すぐに、北九州の小学校でクラスターが発生したというニュースが流れたときも、SNSなどを通じていろいろ騒がれていて。<br>
+
先生方も子どもたちも、相当心に傷を負ったのではと心配していました。<br>
+
「たとえ誰かがコロナになったとしても、たたかない」っていう約束を、何とかみんなでできないものでしょうか。<br>
+
そもそも日本の教育システムには、コロナ以前から変えていかなければならない課題が山積みでした。<br>
+
一斉授業による詰め込み教育もそう。オンライン教育の普及の遅れもそう。<br>
+
後で振り返ったら、「コロナの時期は大変だったけれど、あの経験を経たからこそ、この環境をつかめたね」という未来につなげていかないとって思うんです。<br>
+
――5月26日には、今村さんを含む中央教育審議会の委員の方々が初等中等教育分科会で、資料「新型コロナウイルス感染症に対応した新しい初等中等教育の在り方について【*注】」を提出されました。ここに書かれている「成り行きの未来」というのがとても暗い未来像で、こうならないといいなという感想を持ちました。
+
「成り行きの未来」として打ち出したのは、このまま何も対処しなければ、時間的・精神的な余白を無くした学校で置いていかれる子どもたちが続出し、人間関係のトラブル・問題行動・いじめ・不登校・退学等が増加しますよという内容でした。<br>
+
それと、先ほど私が触れた「積極的不登校」についてもこの資料で言及しているんですが、この動き自体は、実は私はポジティブにとらえています。<br>
+
というのも、これまで多くの子どもたちは、たまたま生まれた地域の学校に通い、たまたま配置された先生、友達の中で学ぶ環境に置かれていたわけです。<br>
+
今回のコロナショックで、学校以外の環境で学ばざるをえなくなった子どもたちは、どこで何を学ぶかを選ぶことになった。<br>
+
それは、今まで受動的だったとも言える学びの選択権が、子どもたちに渡ったともいえます。<br>
+
その豊かさ、面白さに気づいた子どもたちが、積極的不登校を選択しようとしているという風に見えます。<br>
+
だからといって、私のメッセージは決して、「もう学校はいらないよね」ではありません。<br>
+
「今後、学校が果たす役割とは?というところが問われてくる」と明確にしたかったんです。<br>
+
休校期間を経て、先生や学校がこれまで果たしてきた重要な仕事がわかったはず。私自身が切実に感じたのは、学校の福祉的機能の大事さです。<br>
+
今から3年間ぐらいを「ウィズコロナ」期間と設定し、学びのICT環境整備も含めて、「ひとつの社会実験」として弾力的にいろいろと試してみるのが良いのではないか。<br>
+
私たち委員は、この資料を通じて、「あれこれ皆で考えていきましょう」と提案したいと考えました。<br>
+
「貧困の連鎖を教育で食い止めたい」<br>
+
インタビューに答える今村久美さん=上野創撮影<br>
+
――今後はどんな支援を展開していきますか。<br>
+
今、もしかしたら子どもたちは、学校に楽しさを求めづらいかもしれない。<br>
+
例えば、私たちが全国で展開してきた「カタリ場プログラム」という、学校での出張授業があるんですが、コロナ禍で全部キャンセルになってしまいました。<br>
+
学校が3密になっちゃうから、その手のものって、全部なくなっているんですよね<br>
+
学校再開後こそ、みんながゆるく集まれる居場所を増やしていきたいんです。<br>
+
実はカタリバオンラインも、体験機会の一つなんですね。<br>
+
「フェスをやろう」と呼びかけたら、「私があやとりを教えます」とか、「僕が人狼ゲーム大会を担当します」とか、子どもたちがどんどん自主企画を出してきました。<br>
+
あと、今回の一つの成果は、オンラインこそ、はっちゃけられる場所にしていけるという可能性を示せたことです。<br>
+
普段は不登校気味で学校ではおとなしい子どもが、ダンス部で楽しそうに踊りを披露していたシーンも見られました。<br>
+
今後はリアルでも、オンラインでも、両方につながりの場を用意しておきたいと思っているところです。<br>
+
一方で、ずっと気がかりだったのが、オンラインにつながれない子どもたちのこと。<br>
+
ICT 環境がないと教育とつながれない世の中になるなんて、コロナ以前は想像もしていませんでした。<br>
+
オンライン教育や学びのICT環境の整備という課題においては、同時に、「福祉を受けるべき子どもたちの学びをどう支えていくのか」についても、本気で取り組んでいかなければならないと考えています。<br>
+
カタリバでは、パソコンとWi-Fiを無償で貸与する「キッカケプログラム『奨学PC』」というプロジェクトを実践中で、6月7日にひとまず90台のパソコンを生活困窮世帯の子どもたちに発送したところです。<br>
+
私は何としても、貧困の連鎖を教育で食い止める可能性を探っていきたい。<br>
+
困難を背負った子どもたちこそ、今回のコロナの経験をチャンスに変えていってほしいんです。<br>
+
【*注】中央教育審議会初等中等教育分科会「新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会」に関わる今村久美さん、岩本悠さん、香山真一さん、神野元基さんらが取りまとめた資料。<br>
+
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20200526-mext_syoto02-000007440_44.pdf?fbclid=IwAR3Yq4uF_3yrBZwP7rjqatKLsg33MCPZZQmOtW4TAHc9Fz5DtZmTGqGMNDY<br>
+
古川雅子 ノンフィクションライター<br>
+
〔2020年6/19() 朝日新聞EduA〕<br>
+
  
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2023年2月20日 (月) 23:24時点における最新版

認定NPO法人 カタリバ

所在地 東京都杉並区高円寺南3-66-3 高円寺コモンズ2F
TEL 0120-130-227
FAX 020-4665-3239

「奨学パソコン」を借りて、中1長女の成績が学年トップに。複数の困難を抱える「ひとり親家庭」の希望
私が代表を務めるNPO「カタリバ」では、オンライン学習から取り残されそうな困窮した家庭に、パソコンとWi-Fiを無償で貸与して、インターネットを使った伴走型支援を行なっています。
こうしたキッカケプログラム『奨学パソコン』のことを紹介した先日の記事では、大きな反響をいただきました。
「収入が2ヶ月で2万円。娘2人とどう生きれば」。
あるシングルマザーに、パソコンとWi-Fiを届けた
「ウェブニュースを見て、取り組みを知りました」「恥ずかしながら、このプロジェクトを通して日本の貧困家庭の現状を知りました」という連絡とともにご寄付をくださった方もいます。
今回は、参加している家庭が抱える困難をデータから紹介し、私たちが出会ったひとり親家庭のシミズさん(仮名)と、中学1年生の長女アキちゃん(仮名)の話をしたいと思います。
奨学パソコンを使う人のうち7割は、ひとり親家庭
まず、このプログラム利用者のうち222名に生活実態などのアンケートを行ったところ、7割はひとり親家庭でした。
厚生労働省の全国ひとり親世帯等調査によると、2015年の母子世帯の母親自身の年間の就労収入の平均は200万円。
養育費・手当や給付金・実家からの仕送りなどを足しても、母子世帯の母親の年間収入は平均243万円です。
母1人、子2人の家庭をモデルとして考えてみると、2015年のOECDの基準では、3人世帯の場合、可処分所得が211万円に満たない世帯は相対的貧困となります。
普段から自転車操業のようなギリギリの生活だった母子家庭。
収入がコロナ禍によって少し減ってしまうだけで、あっという間に”貧困”になってしまうのです。
不登校や発達障害など。お金以外にも「困難」が重なり合っている
また、アンケートに答えた222名のうち14.4%の子どもが不登校の傾向を示しています。
文部科学省の調べよると、年度内に連続または断続して30日以上欠席した生徒を”不登校”としていますが 、
その割合は小学校で0.7%、中学校では3.6%(「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)。
キッカケプログラム参加者の不登校の傾向は、平均より何倍も高いのです。
ほかににも、全体の19%の子どもは発達障害の傾向を持っているという結果も出ました。
うち8割は、実際に医師の診断を受けています。
キッカケプログラムは、応募のときに生活保護、児童扶養手当、就学援助などの受給証明を出していただき、困窮している世帯であることを確認しています。
アンケートから見えてきたことは、そうした家計の困窮に加え、(1)ひとり親である(2)子どもが発達障害傾向がある(3)子どもが不登校傾向である、
などの複数の課題を家庭内に重複して抱えていることでした。
特別支援学級に子どもが通っている、障害者手帳を持っている、日本語がうまく話せないなどの場合もあります。
家計の困窮以外に何かしらの課題や困難を抱えている家庭の割合は、全体の83%にものぼりました。
プログラム利用者の動向については、大学とも連携してより詳しく調査していきますが、ただ給付金を渡すだけではない支援が必要だということではないでしょうか。
勤め先がすべて閉店、3人の子どもをひとりで育てる
なかなか難しい現実の中ですが、小さな希望も生まれはじめています。
首都圏に住むシングルマザーの、シミズさん(仮名)。
8年前にシングルになり、小学生から中学生までの3人の子どもたちをひとりで育てています。
ネイリストとして複数の美容室などに勤めていましたが、コロナで勤め先がすべて閉店してしまいました。
紹介でお客さんを集めて、自宅や出張で施術したりと頑張るものの、収入は半分以下に。
学校がお休みとなり子ども3人が家にいる中、依頼があったら行かなくてはいけないという不定期な仕事をこなすのも大変でした。
子ども達との会話も増えたものの、いさかいも増えていきました。
「収入も激減しているし、コロナでずっと自宅にいてイライラするし、親子関係もうまくいかない。どうしたら」。
そんな風に悩んでいたときに、中学1年生の長女・アキちゃん(仮名)がたまたまテレビで見かけたのが、カタリバの”奨学パソコン”のニュースでした。
お母さんにケータイを借りてインターネットで検索し、プログラムの説明を読んだアキちゃん。
「これに参加してみたい」と伝えられたシミズさんはすぐに応募。
6月にはパソコンが届き、兄妹でオンラインプログラムに参加することができるようになりました。
成績が学年トップに→「高校で特待生になりたい」
もともと勉強が好きで真面目、小学校でも成績がいい方だったというアキちゃん。
けれどこれまでは家計の状況から、塾には通えておらず、独学で勉強していました。
カタリバに参加して「こういう風に勉強してみたらもっといいんじゃないかな」とアドバイスを受けることで更に成績が伸び、1学期の最後のテストでは、学年で1番をとったといいます。
今は「高校に特待生で入れるように頑張りたい」と考えて、すでにどこの高校がいいか考え始めているそう。
「『いつかはカタリバで働いてみたい、恩返しがしたいな』と、家でアキが話してくれるんですよ」とシミズさんは嬉しそうに教えてくれました。
大変なことがないわけではありません。
アキちゃんの妹は、コロナでの一斉休校以降に、不登校気味になっています。
シミズさんも、家計の困窮に加えて、「ひとり親」「子どもの不登校傾向」など複数の困難があることは事実です。
「学校に行かないという日も、家でカタリバオンラインには参加しています。
少し年上のお兄さんお姉さんの話を聞いて刺激を受けているようで、親とは違うナナメの関係って大事なんだなと感じます。
子どもを受け止めてくれる居場所ができたから、私も安心していられます」
「負の連鎖が続いている、明るくたのしく生活したい」と5月の応募時に話していたシミズさん。
3ヶ月経ち、彼女の表情は、少し和らいだように感じました。
彼女1人を、”頑張ることができた幸運な事例”にしたくない
大変な状況だけれど、小さな希望が生まれ始めている。
そしてその小さな希望を、”たまたま頑張れた”ラッキーな事例にしたくない。
「大変な中でも頑張れる人はいるよ」「やるかやらないかは自己責任だよ」ではなくて、困窮する子どもを、誰ひとり取り残さない社会にしたい。
子どもには、家庭環境を背負う責任はなにひとつありません。
『奨学パソコン』の費用の一部を集める「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクトのクラウドファンディングでは、そんな想いに共感してくれた方が1200人以上集まっています。
ひとりひとりの力は小さいかもしれないけれど、手を取り合うことで大きなうねりを作っていけると感じています。
次の世代の子どもたちに希望をつないでいくために、まずは大人が協力していけたらと思います。
今村久美 認定NPO法人カタリバ代表理事
79年生まれ。慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。
2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。
「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。
ハタチ基金 代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。中央教育審議会 委員。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 文化・教育委員会委員。
〔2020年8/22(土) 今村久美 認定NPO法人カタリバ代表理事〕

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